第七百六十七話「龍王―ドラグニカ―Ⅱ」
――静かな世界だ。
目の前に広がる世界を見て、俺はそう思った。
何故なら、街中に人の声は聞こえず生き物の声も聞こえない。
聞こえるのは、頬を撫でる風の音と自分の心臓の鼓動のみ。
「……」
いや、俺自身は鼓動だけが聞こえていても他の者にはどうだろうか。
例えば、俺と共にこの空間へやって来た足元に居る少女。
血を流しているが、致命傷までは程遠い。
いや傷は徐々に塞がっていくのを確認する限り、もう致命傷ではないかもしれない。
だが丁度良い。この少女には、まだ聞かなくちゃいけない事があるのだ。
――死んでもらっては困る。
「ぐっ……」
「よぉ、ハク……傷も治ったようだな」
「……ここは、何処?」
「お前が知る必要は無いさ。なぁ、ゼロ」
「っ!?」
俺がその名を呼んだ瞬間、ハクは目を見開いて俺が向けた視線の先を見据えた。
そこには長い白銀の髪を風で揺らし、腕を組んで空を眺めている男が居た。
身体のあちこちで龍の鱗で身を包み、腕と足は完全に龍化している姿を見た。
「龍王……っ!!!」
龍王の姿を見たハクは、声を上げて起き上がろうとする。
踏み付けていた俺の足を跳ね除けて、俺の剣の具現化まで無効化してゼロに接近した。
俺はそのハクの突進していく背中を眺めながら、口角を上げてゼロに言った。
「そいつの相手をしてやれよ、ゼロ。お前の客でもあるんだ」
「良いのか?我が主、余が相手をしてしまっても」
「構わないさ。俺が『良い』と言っているんだ。他の誰が、お前に許可を出せると思うんだ?」
「フッ、確かな意見であるな。さて、白龍とやら……余に力を見せてみよ」
両手を広げ、掛かって来いと言わんばかりに笑みを浮かべた。
その姿にカッとなったハクは、駆け出していた途中で方向転換をして背後へと回り込む。
だがしかし、ゼロはニヤリと笑みを浮かべて呟くように言った。
「フッ、遅いな」
「なっ……ぐぁ……!!!」
放たれた蹴りを片腕のみで防ぎ、その足を掴んで遠心力で投げ飛ばす。
空中でくるりと身体を回転させたハクは、もう一度という気合で駆け出す。
だが次は、掴み取ろうとした腕を逆に掴まれてしまったようだ。
「華奢な腕だな。どれ、折ってやろう」
「ぐっ……あぁぁぁあああああああっっ!!!??」
「耳元で騒ぐでない。鼓膜が破けるではないか」
「あぁぁ……ぐっ……このっ!!!」
腕を曲げてはいけない方へと曲げられ、悲鳴を出しながらも蹴りで反撃。
反撃まで持っていくだけでも、その胆力を褒めてやりたい所だがゼロには通用していない。
攻撃を繰り出しても、通らなければ意味が無いのは当然である。
再び蹴りを防がれ、またもや掴み取ったゼロはニヤリと笑み浮かべて言うのであった――。
「どれ、もう一本……折ってみるか?」
「っ!?」




