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第七百六十六話「龍王―ドラグニカ―」

 ――人間界と龍界。

その二つの世界には、明確な差異が生じている。

人間界はその名の通り、人間だけが暮らす世界。

災害が稀に合ったり、人の善意や悪意が錯綜する世界。

人の数程、価値観や可能性があるのが人間界と言っていいだろう。


 そしてもう一つの世界、龍界。

これも名前の通りの世界だが、そこには人間は居ない。

文字通り、龍がそのまま暮らしている世界というのが特徴だ。

だが人間界と同じなのは、規律という名の掟があるのが人間界との差異だ。


 「咲よ、ここで我々から質問だ」

 「な、何でしょう?」

 「我々が住むこの龍界という世界。そなたから見て、どう思った?」

 「どう……んぅ」


 フェネクスにそう問い掛けられ、初めてこの世界に来た事を思い出す咲。

咲はしばらく思考を巡らせていたが、やがて答えが出た様子で真っ直ぐに言った。

 

 「――単刀直入に言うなら、寂しい世界ですかね」

 「っ……ははは、人間から見たらそう思うのか。具体的にどう寂しいか、説明を求めても良いか?」

 「何て言うんでしょうね。……綺麗な場所なのですけど、それでも殺風景な感じがします。私たちが暮らしてた世界の歴史、それをそのまま具現化させただけで中身が無いみたいな」

 「中身が無い、か。ふむ、なかなか面白い意見だ」

 「あ……不快にさせたなら謝ります」

 「良い。謝罪は不要だが、そう思われるのも仕方が無いのだ。我々にはもう王が居ないのでな。数多く居る龍を束ねるのは、代理の我では難しいのもまた事実」


 寂しいという言葉を連想させるように、フェネクスは少し寂しげに呟いた。

その表情を読み取った咲は、無意識にフェネクスへと手を伸ばしていた。

それを遮ろうとフェネクスの周囲に居た龍が、カチャリと剣先を咲へと向ける。


 『人間風情が、フェネクス様に気安く触れようとするな』

 「っ……」

 「止めんか貴様ら。この者の中から、悪意は無い。これは紛れも無い善意だ。我を慰めようとしてくれたのだろう?その気持ちだけで感謝するとしよう。礼を言う」

 「あ、頭を上げて下さい。私に頭を下げる必要は無いですから」

 

 咲の言葉に同意したのは、フェネクスの傍らに居た側近と思しき龍だった。


 『そうです。王代理であっても、我々の上位種であるフェネクス様が人間如きに頭を下げる必要は御座いません!』

 「むぅ……」

 『何だその目は。私は間違っている事を言っているつもりは無い。我々龍は、遥か遠い時代から生きている。だが平和を保っていた時代、我々を最初に裏切ったのはいつも人間なのだ!私利私欲に塗れ、己の欲望にのみ忠実。我々は何度も裏切られてきた!貴様も所詮、あの人間共と同じ欲望の塊なのだ!!』


 そう言われながら、睨まれている視線を咲は睨み返す。

臆す事無く睨み返した事により、咲の事を敵と判断した龍も居た。

恨みという感情が込み上げてしまったその中の一人は、咲に向かって剣を振るう。

咄嗟の事で回避に間に合わないと悟った咲は、目を瞑り痛みに備えたのだが……――。


 「そう言う貴様は、人間の事を知ろうとしたのか?我の友に、気安く触れるな龍風情が」

 「ウーちゃん……」

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