第七百六十一話「失うモノⅥ」
「――待たせたな、ハク」
『……!』
――何だ、その姿は?
……とでも言いたげに目を見開き、俺の事を見る白龍。
そんな視線を受けながら、俺は黒い大剣を肩に担いで言った。
「どうしたよ、ハク。俺の姿に疑問でもあるのか?」
『……』
「そう睨むなよ。別に教えても良いんだけどな?その必要は無いみてぇだ」
『……!?』
白龍の懐へと入り込み、俺はそんな事を言った。
そして大剣を振るい、躊躇する事なく白龍の身体に傷を付けた。
痛みを我慢するかのようにして、白龍は咆哮を響かせている。
『――!!』
「黙れ」
『……!?』
――声が、出せない。
「……ハク、大人しく龍化を解いた方が戦えると思うぞ?今のままじゃ、そこら辺に居る奴には勝っても、俺には勝てないだろうよ」
『……』
「まぁ、従う必要は無ぇけどな。――っ!!」
『――――!!!!!!』
俺は振り下ろした瞬間、悲鳴のような咆哮が響き渡る。
耳から入り込み、脳天へと響いてくる鳴き声に溜息を出てしまう。
「聞こえなかったのか?黙れって言ったぜ、俺は」
倒れた巨体の上に立ち、剣先を眼前に向けて告げる。
この姿になってから、俺の思考はクリアに近い感覚で研ぎ澄まされている。
やがて血を流している白龍の姿が、龍化した姿から人間の少女の姿へと戻る。
徐々に人間化となっているハクを見て、俺は口角を上げて言った。
「お前と話すのは久々だな。さて、拷問と行こうか。――ハク」
「……ぐっ……何をするつもり?」
「何もしないさ。ただ俺は、お前の目的を聞きたいだけだ。洞窟で封印されたお前を解放したあの日から、お前はこれを計画していたのか?」
「だったら?」
「……」
高圧的な態度が癇に障った俺は、踏み付けているハクの身体の一部に剣を突き刺す。
痛みに耐え兼ねたハクは、苦しみながら声を上げていた。
「あぁぁぁぁぁっっっ――!!!」
「答えれば良いだけだ。余計な一言は俺を不快にさせるだけだ」
「――……ぐっ……このっ、殺すっ!!殺してやるっ!!お前も、皆っ!!」
「はぁ……っ!」
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁあああああっっっ!!!!!」
少女の姿と戻ったハクを確認する為、俺の元へと玲奈たちが近寄って来る。
だがすぐに俺のやっている事に驚いたのか、ハッとした様子で目を見開いている。
そんな彼女たちに向かって、俺はハクを踏み付けた状態のままで言った。
「紫苑、良い所に来た。こいつを拘束しろ」
「……本気か?(この気配、この殺気……龍よりも鋭いっ)」
「あぁ。俺に二言は無いのを知ってるはずだ。早くしろ」
「……やれやれ。あいよ。……これで良いか?」
そして俺は、紫苑の氷によって拘束されたハクを見て呟くのだった。
「上出来だ。さぁハク、俺らと遊ぼうぜ、俺とゼロとお前とで、な。――」




