第七十四話「龍紋を持つアイドルⅨ」
九条館から出た俺は、その屋敷が見える場所を探していた。
別に難しい事を考えている訳ではなく、単にこの場所の景色を見たいだけだ。
ただ高い場所へ登り、下に居る者たちを傍観したいというだけの事である。
「よいしょ……」
だがしかし、こんな真夏の日に山登りというのは失敗だ。
雨にでも降られたかのように、服が汗でベトベトである。
非常に気持ち悪く、非常に不愉快な気分になってしまう。
「飲み物でも持参すれば、変わったかぁ?」
自問自答をするかのように、そんな事を呟く。
ただの独り言で、世迷言でしかないのだが……。
そんな事を呟きながら、俺は山の中で足を進めて行った。
「この辺……確か、あの全面図で赤い印が……」
『動くな』
「(あぁ、ビンゴだな)」
カチャリと背後から音がして、そんな声が聞こえてきた。
殺気を少し辿っては居るが、距離が少し遠くて反撃に出辛い所だ。
いくら距離が短いとはいえ、流石に放たれた銃弾より早く動くのは無理な話だ。
「(まぁ、普通の人間ならって話だがな)」
『こっちを見ず、両手を挙げろ』
「はいはい。あんた、こんな場所に何の用だ?」
『無駄口を叩くな。今から質問をする。命が惜しければ答えるんだな』
「観光する奴が銃を持ってる訳も無いし、仕事か何かだよな?大変だなぁ、こんな馬鹿みたいに暑い日なのにさ」
『次に口を開けば鉛球をくれてやるぞ。もう一度言う、無駄口を叩くな』
これ以上の発言をすれば、事実上の交渉決裂のようなものだ。
俺だったらもうこの時点で撃ってるが、銃声を鳴らしたくない理由でもあるのか。
全く撃たずに言葉を投げるだけとは、個人的には嫌になって仕方無い。
「(甘過ぎて反吐が出る。拷問をするんなら、こうするだろうよ)」
『くっ!?命が惜しくないのか?』
バンと銃声が一発鳴り響いた瞬間、真っ直ぐに相手の懐へと入り込む。
耳元で風を切る音がしたが、気にする必要は無い。そのまま攻撃を続行するだけだ。
伸ばされた銃を持つ手を掴み、柔術を見様見真似で黒服に放った。
「……おら、よっ!」
『ぐっ……』
「さて、形勢逆転だな。この腕を折る事も出来るが、どうしても俺の質問に答えたいなぁとか思ったら遠慮なく答えてくれ?」
『な、何を言って……』
黒服をうつ伏せに地面へ押し付け、俺は彼の持っていた銃を後頭部に突き付ける。
下手な動きを一つでも確認した場合、撃たれてしまうのは相手も分かっているだろう。
こうしていると少し前の自分を思い出すが、暑くてムシャクシャしてるから構わないか。
「……んじゃまず、一つ目の質問だ。一応言っておくが、俺は『敵には無慈悲』をがモットーでな?一つでも俺が欲しい答えを言わなければ、即……」
『わ、分かった。何が聞きたい』
「そうだなぁ。じゃあ、お前らの人数とお前らのバックに居る人間を教えてもらおうか。勿論、一つの質問に付き、気に入らなければ……容赦はしねぇよ」
俺はそう言って銃を寄り押し付け、相手の動きの自由を奪っておく。
これが俺の拷問であり、自分のモットーに忠実な行動である事を良く知っている。
もし覗き見や盗み聞きをしている奴が居るなら、掛かって来るが良いと思う所である。
『くっ……!』
「順番にじゃあ、教えてもらおうか。久し振りに遊ばせてもらう」
『ひっ……(あ、悪魔だ)』
俺はそう言って、ゆっくりと黒服の片足に銃口を向けるのだった――。




