第七十一話「龍紋を持つアイドルⅥ」
「……うぅ……」
「廊下で気を失ってると思えば、勝手に未央さんのお部屋に入ったと……霧原さん、貴方はどこまで野蛮人なのですか?」
「いや、倒れるような物音をすれば、誰だって心配するだろうが……まぁ、ノックもしなかった俺も悪いが、いきなり辞書並みの本を投げてくる奴も悪いぞ」
零が起き上がりながら、そんな事を言った。
その言葉に反応するように、未央は口を開くのだった。
「あ、あれは誤解されるかもしれなかっただけ!べ、別に君に悪気が無い事は知ってるし」
「……意外だな。俺はてっきり嫌われてると思ってたんだがな。いだだだだだっ!?何するんだよ、生徒会長っ!」
「――なんとなくです」
零の耳を引っ張る少女は、不貞腐れた様子で表情をしかめていた。
そんなムスッとした様子に気付かず、零は思い出したように口を開く。
「そういえば、別荘に来たのは良いけどさ。俺は海に行く事以外聞いてないんだけど、他に何かする事でもあるのか?」
「あ、それ、あたしも聞いてない」
「何だよ、桐華も聞いてないのか?生徒会長、報告、連絡、相談は社会の常識だぞ。トップがそんなんで良いのか?」
「むぅ……私はちゃんと連絡しました。電子手帳を確認していない、皆さんが悪いです。亜理紗、説明お願いしても良い?」
「ええ、構いませんわ。野蛮人はともかく、桐華さんが把握していない事は見過ごせませんので」
零は一部の言葉に反応しようとしたが、そんな事を許さないように亜理紗は皆の前に出た。
生徒会長である彼女は、客間の隅に立っているアンジェとメアリーの元へ向かった。
そして、彼女と擦れ違うようにしてメアリーが前へ出て来たのである。
「ではこれより、生徒会及び執行部の緊急会議を始めます。メアリーさん、映像を」
『はい、畏まりました』
亜理紗がそう促すと、メアリーの瞳から映像が出始めた。
零たちはテーブルを囲んでおり、その真上には何処かの全面図が表示された。
その数箇所には、赤い印が浮かび上がっていた。しかも動いている。
「これは何だ?」
「……この場所の全面図だね」
「流石は桐華さん、ご明察です。そしてその赤い印は、今回の撃退対象です」
「撃退対象……どういう事だ?」
「野蛮人は黙っていて下さい。順序に従って説明致します。……まずはこの者たちに見覚えはありませんか?特に入江未央さん、貴女にはそれを聞いておきたいですわね」
亜理紗がそう問い掛けた時、皆の視線は自然と彼女へと動かされた。
その亜理紗の言動で、未央は半ば強制的に発言を余儀なくされたのであった。
「はい、知っています」
未央は、自分の胸の前で拳を握って目を逸らした。
躊躇っている様子が気になった零は、彼女の代わりに口を開く。
「なるほどな。こいつらはあの時、街で未央を追っていた連中か。それで?わざわざ海に行こうと言って場所を生徒会室から、この場に変える理由は何だ?」
「生徒会室で会議をやるのは定例ですが、今回は少し状況が違うんですよ。それについては、水無月先輩、貴女が知っていますわよね?」
「確証は無いよぉ。けどボクの予想はあるかな。……あっと、これだ。メアリー、今送ったデータを表示して」
『畏まりました』
データを送ったという言葉から、表示されていた映像が切り替わる。
それは、街の中の各地に設置されている監視カメラの映像だった。
数箇所に設置されている監視カメラの映像の割には、映し出されている場所が少ない。
その理由は、その映像一つ一つを見た零が説明してくれる。
「……っ。この映像はいつ撮れた?」
「そんな怖い顔をしないでくれないかな。ここ数日、つまりは入江未央がボクたちと同じ施設に入った後に撮影されているものだ。この人物に関しては、キミの方が詳しいだろう?」
「何が聞きたい。テメェは俺に、何を聞きてぇんだっ」
水無月に答えを促され、視線を向けられた零は拳を握る。
その表情には憎悪が浮かび、彼の片方の瞳は龍化を果たしていた。
映像に映っていたのは、竜也。……彼の義兄となっていた人物の姿なのであった――。




