第七百二十一話「白龍、叛転すⅥ」
――真っ暗だ。
まるで闇の中にでも居るような、そんな感覚になる。
そのぐらい、周囲が真っ暗で闇に染まっている。
「……オレ、は……?」
自分がさっきまで何をしていたのか、記憶を探って整理をし始める。
やがて思い出したのだが、目の前に広がる景色が違い過ぎて戸惑ってしまう。
「何処だよ、ここは」
『何処だと思う?……リュウヤ』
「――っ!?」
ふと聞こえて来た声は、下から聞こえて来た。
声の主が誰か理解出来た為、何も躊躇する事無くその方へと視線を動かした。
だがしかし、それが油断となった。オレは、影に襲われた。
「ぐっ……何のつもりだっ、ハク!」
『リュウヤは疲れてるんだよ。だから、後はハクがやってあげるから休んでて?』
「おいっ、待てっ!!何を勝手な事をしようとしてる!!待てよっ、ハクっ!!」
身体を覆おうとしている影に抗いながら、オレは目の前に居る少女に手を伸ばす。
掴む事が出来そうな距離まで伸ばせた瞬間、ハクは振り返って笑みを浮かべて言った。
『安心して、リュウヤ。ハクが全部、殺してあげるから……』
「っ、お前は――」
オレの目の前に居る少女は、オレの知ってる白龍なのでは無かった。
そこに居たのは吸い込まれそうな程、空洞となっている瞳をした少女だった。
オレはその瞳を見た瞬間、喉から出してはいけない言葉を投げてしまうのである。
「――お前は、一体、誰だ?」
『……そう。ハクがハクではないって、そう言いたいんだね?リュウヤは』
目を細めた少女は、そう言ってオレへと手を伸ばす。
伸ばしたオレの手よりも奥へと伸ばし、やがてその手はオレの顔を覆う。
視界を塞がれた直後、オレの身体が何かに飲み込まれる感覚に襲われる。
いや、違う。オレは多分、落とされたのだ。
『……さようなら、リュウヤ』
「っ……」
そしてオレは、徐々に遠くなっていく少女を見つめたまま堕ちて行った――。
――やっとだ。やっと手に入れたのだ。
ハクの邪魔をするあの偽物も、いつまでも甘いリュウヤも居ない。
邪魔な奴は全部、全部壊す。壊せるのだから、後は目の前に居るコイツだけだ。
「キリハラ、レイッ!!オマエを殺せば、全てが意のままだっ!!」
「余の命令に従え。――メデューサ」
「ぐっ……動きを……こ、こんなもので!!」
涼しい顔をして、憎たらしい存在だ。
依り代である人間を殺せば、同時に内側に宿る龍も一緒に死ぬ。
それを知らない訳でも無いはずなのに、何度も死地に居るのは……馬鹿のやる事だ。
「……何度も何度もっ、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も――ハクの邪魔をするなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「っ、弾かれた、だと!?」
「死ねよっ、龍王っっっ!!」
そう叫びながら伸ばした手は、やがて標的に届いた――。




