第七百七話「武力介入Ⅱ」
アインとの出会いを話し終えた海斗は、遠くで見える街を眺めていた。
その街の真上には、巨大な空中要塞が浮いているのが気になるのだろう。
そんな海斗の隣へと並び、紫苑は煙草の煙を灰色の空へと吐いた。
「ふぅ……何を黄昏てるんだ?海斗」
「師匠。いや、特に何も考えていませんよ」
「そうか?あの場所で行われてるであろう戦闘に参加するか否か、という事を考えてるんじゃないのか?」
紫苑の言葉を聞き、海斗は視線を街と彼女を交互に見る。
そんな分かりやすい反応を見た紫苑は、溜息混じりに煙草を咥えたまま言った。
「さっき栞に調べてもらったが、あの場所には零たちが戦ってるんだとよ。あたいから言わせれば、零が居るからあたいが参加する必要は無いと思うんだがな。お前はそうでもないらしいな」
「何で、そう思うんですか?」
「ただの勘だが。お前は零を龍王として崇めてるんだろ?ならその隣で共に戦い、背中を預け合いたいと思うのは当然の感情だろうさ。だがそれでも、あたいが干渉する事は有り得ないな」
「零が居るってんなら、他にも居るんじゃないんですか?それこそセブンスアビスの仲間も……」
「勘違いしているらしいから、一つだけ教えといてやる。セブンスアビスは仲間ではあっても、友人ではない。互いが互いを利用する事はあっても、協力する事はレアケースだ。だが協力したとしても、必ず見返りを求めるような関係だ。ただの仲良しこよしなんて事は無ぇよ」
そんな事を言いながら、紫苑は咥えていた煙草を凍らせた。
やがてその凍った煙草は砕け散り、粉々となった状態で足元に消えた。
「師匠は、仲間とは思ってないんですか?」
「少なからずは思っているが、絶対に助けるとか絶対的な信頼を持っているとは言えないな。あるのは利用価値の信頼だけだ」
「じゃああの中で、組織の中で誰かが死にそうになってたら手伝わないんですか?」
「……偉く突っかかるじゃねぇか、海斗。あたいがあの組織に入ったのはある程度、メンツが揃ってたしな。あたいの役目はバックアップしながらの前進後退の判断だけだったな。後はたまに組手をする時の相手を頼まれてたっけな。その理由もあって、あたいは別にセブンスアビスという組織に思い入れは無いな」
「だから仲間とも思ってないと?」
「……さぁな。あたいがそう思ってるように、他の奴らも同じだろうよ。だけどあたいには、一人だけ恩を感じてる奴だってあの中には居るさ」
「へぇ、誰ですか?」
そんな海斗の問い掛けを聞いた紫苑は、もう一本の煙草に火を点けて言った――。
「お前のご執心な霧原零。あたいらを助けた馬鹿な男さ」




