第六十九話「龍紋を持つアイドルⅣ」
彼女の『海に行きます』という言葉に着いて行き、辿り着いた九条家の別荘。
想像していたのはホテルだったのだが、馬鹿みたいな大きさの門に口が開いてしまう。
その門を通り過ぎて、奥へ奥へと進んでいくと……。
「皆様、到着致しました。ここが九条家の別荘となります」
「ええ、ありがと。アンジェ」
長時間の運転をしていたアンジェを労り、咲は自動車から先に降りていく。
零たちはそれに着いて行くようにして、続々と車外へと出て行く。
全員が降りたのを見届けると、アンジェは窓から顔を出して言った。
「ではお嬢様。私はガレージへ止めて来ますので、先にお屋敷へ入って下さいませ。こちらは鍵でございます。皆様のお部屋は事前に用意しておりますので、すぐにお分かりになると思います」
「ありがとう、アンジェ。――じゃあ皆さん、私に着いて来て下さい!」
咲は受け取った鍵を持ちながら、屋敷を見上げる零たちの元へと駆けて行った。
そんな嬉しそうな背中を見つめるアンジェは、微かに口角を上げて運転を再開した。
ガレージへと向かう車を視界に入れながら、零は咲に問い掛けるのだった。
「……だいぶ広いな。これが全部、九条家の敷地なのか?」
「はい、そうですよ。おじい様の話では、確か夢の国の半分ぐらい?と言っておりました」
「まじか。大した広さだが、庭や屋敷の手入れで日が暮れそうだ」
「大丈夫ですよ?この場所の掃除をやっているのは、凄腕ですから。多分、今も何処かで手入れを……」
『お呼びでしょうか?咲お嬢様』
「「「………………」」」
咄嗟に背後から聞こえた声に対し、零を含む彼女たちが硬直した。
ゆっくりと振り返ると、そこにはいつの間にかメイド服に包まれた女性が立っていた。
「メアリー、久し振りですね。調子はどうですか?」
『お久し振りです。咲お嬢様こそ、お元気そうで何よりです。それで……この方々が、咲お嬢様のご学友でございますね?まぁまぁ、お会い出来て光栄です。メアリーと申します、どうぞ――』
「「「ひっ…………!?」」」
そう言いながら、隙もない完璧なお辞儀をした瞬間だった。
メアリと呼ばれる彼女の首が、ポロッとその場に落ちて地面を転がる。
そしてコロコロと転がり、ちょうど良く零たちと視線が重なった瞬間……。
ニヤリと笑みを浮かべて、言うのだった――。
『――宜しくお願い致します、ケケケケ』
「…………それでは皆さん、屋敷へ入りましょうか。メアリーも、あまりからかっては駄目です」
「待て待て、生徒会長!数人、立ちながら気を失ってるからな?どうすんだよ、これ」
零が指を差す先を辿ると、彼の言う通り棒立ちになっている彼女たちが居た。
彼女たちの時だけが止まっているかのように、動く様子が全く無いのである。
「しかも桐華を見ろよ!大好きなお菓子を咥えている最中で止まってるんだぞ!」
「珍しいですね。桐華はこういうのは得意と思っていました」
「きぃちゃんは怖いの得意じゃないよ。はい、メアリーさんの頭を回収しましたよ~」
『感謝致します、水無月様』
零たちはそんな会話をしながら、屋敷へと入って行った。
彼女たちはと言うと、青い顔をしながら傍にあったソファに即座に倒れた。
そのすぐ近くで、キュっと軽い音を立てながら首を直すメイドは言うのだった。
『では皆様、各お部屋へご案内しますね』
「メアリーだっけ?ちょっと止まってくれない?」
『はい?何でしょう?』
「それを直そうか。逆だからな?首……」
『あぁ、失礼致しました。霧原様はお優しいのですね♪』
「いや、早く直してやってくれ。こいつらの身が持たないから……」
困惑しながら、零は首を直す事を催促した。
それはメアリーを警戒しているのか、怖がっているのか。
零の腕や背中に張り付き、怯えている彼女たちの姿がそこにはあった。
そして……。
「(……良いなぁ。私もくっ付きたかった……)」
そんな彼女たちを羨ましそうに見る咲の姿もあったのだった――。




