第六百五十六話「真っ逆さまにⅦ」
目を瞑った彼が、やがてゆっくりと目を開ける。
目を開けた彼は、目を細めて自分の周囲を確認していた。
少しばかり視線を動かして、そして理解したように顎に手を当てて口角を上げた。
「――ふむ、交代は成功したか」
「そのようですけど、ボクから質問しても宜しいですか?零さん」
「余は霧原零ではないが、質問を許可する。何でも聞くが良い。目の前に居る少年には、余から事情を説明するという事だからな。遠慮は要らないぞ」
「……では、ゴホン。貴方は龍王、つまりは零さんの内側で現在棲み付いている龍と思っても?」
「棲み付いているとは語弊があるが、まぁ概ねそのようなものだな。間違ってはいない」
「そうですか。それで、何故零さんと入れ代わったのですか?何か、表の世界で何かあったのですか?」
李久の言葉を聞いた彼は、感心した様子で見据えた。
李久は決して馬鹿ではないから、頭も回るし応用力もある優れた人物。
そんな脳内検索に表れた李久の容姿を眺め、彼は少し考えてから口を開いた。
「……余が入れ代わったのは、お前の言う通りだ。現実世界で問題が生じ、それを我が主人が対処に適任だと判断したから入れ代わったのだ。それ以上でもそれ以下でも無い。他には何か聞きたい事はあるのか?」
「ええ、ありますよ。ですがまずは、零さんが練った作戦を実行する事からではないでしょうか」
「ふむ。龍災を起こすと言っていたな、確か」
「はい。正気の沙汰とは思えませんが、それが一番効率が良いと零さんが言っていました」
李久は零の事を疑っている訳では無い。
寧ろ組手をしてもらっていた事、匿ってもらっていた恩義も含めて信頼している。
だがだからこそ、そんな無謀で危険な作戦を述べた零は珍しいという印象を覚えたのだろう。
しかし彼は、口角を上げてニヤリと笑みを浮かべて言うのであった。
「確かに我が主人の言う事は、たまにとんでもない的外れな事を言う時がある。記憶を探るに今までも遭ったのだろう?」
「ええ、まぁ……」
「だがお前は、それでも信頼出来るのは何故だと思う?」
「それは、恩義があるからではないのですか?」
「――違うな。それは恐らくだが、我が主人である彼が失敗した所を見た事が無いからではないかな?これはあくまで余の推測でしかないのだが、過去の作戦や行動を見ている限り、失敗した様子は映っていないのだ。故にお前は、我が主人の事を否定し切れないのであろう」
「……そうかも、しれませんね。クク、納得です。スッキリしましたので、龍王様――早速始めましょう。準備は既に完了していますので」
「では、行うとしよう。人工龍災の開幕だ……――」




