第六百五十五話「真っ逆さまにⅥ」
「亜理紗、完全に思い出すまで付き合ってあげる。その違和感の正体も教えてあげるついでに」
桐華が武器を具現化させ、真っ直ぐに亜理紗へと向けた。
銃口を向けられた亜理紗は、目を見開いて全身を強張らせた。
それもそうだろう。桐華が放つ視線には、間違いなく殺気があったからだ。
「ど、どういうつもりですか。桐華さん」
「亜理紗が寝惚けてるから、思い出させてあげようと思って?」
「何故疑問系なのですか!?物騒な物を向けるのを止めて下さいませ!」
確かに仲間に向かって銃口を向ける事は、仲間からすれば裏切りの行為にしか見えない。
だが桐華自身もそれは理解しているし、自分の行動に疑いを掛けられる可能性も考慮している。
「亜理紗、龍災について覚えてる事は?」
「どうして龍災について聞くのですか?今更何を振り返るんですの?」
「良いから。少しでも忘れてるようだったら、あたしが制裁を加えるから」
「な、何をするつもりですの?」
「……頭に撃ち込めば、頭の中が整理されてスッキリする?」
「――頑張りますわ!!!」
桐華がそんな事を言うと、ブンブンと肩を回しながら距離を作る亜理紗。
その彼女の背中を眺めながら、隣に並ぶ自分の龍へと視線を動かす桐華。
「(ふむ……亜理紗の記憶上は問題無い、と。……ケルベロス、周囲の確認してきて?姿は消した状態で、騒ぎになると面倒だから)」
『……』
「(はいはい。終わったらご褒美はあるから、さっさと行って)」
『……グルゥ』
桐華がそう言うと、ケルベロスは喉を鳴らしてから駆けて行った。
愛くるしい様子ではあるのだが、見た目が大きいので姿を隠して探索してもらう。
万が一、周囲の人に見られれば大騒ぎになる事が予想されるのだ。
「(この世界は、特に……はぁ)」
「ところで桐華さん、先程の買い物で何を買ったのですか?お菓子以外も買っていたでしょう?」
「お菓子以外の描写を見せてないのに、そういう発言は謹んで欲しい」
「はい?何の話ですか?」
「ううん、こっちの話……」
亜理紗の問い掛けを聞いたが、桐華は目を逸らして答えた。
そんな彼女の様子に首を傾げていた亜理紗だったが、ポケットの中が震えてるのに気付いた。
ポケットの中に入っていた端末を取り出し、画面へと視線を落とした。
同時に桐華の端末も同じように震えていた為、彼女も自分の端末を確認していた。
「桐華さん、これは緊急事態じゃありませんの?」
「……ん。(ケルベロスの気配もそんなに遠くないけど、動きが止まってる?何かを見つけてるって事かな)」
「桐華さん?何をしていますの?」
「しっ、ちょっと黙ってて」
桐華は目を瞑り、亜理紗に釘を刺した。
意識をケルベロスへと向けると、徐々に桐華の頭の中に映像が浮かぶ。
それは今、ケルベロスが見ている風景が映像として具現化している様子だ。
その映像を見た瞬間、桐華はパッと目を開いて走り出したのだった――。
「き、桐華さん!?どこへ」
「っ……説明は後!着いて来れば分かるからっ」
「……もう、仕方無いですわね!」
「(何で?……どうしてこの場所に貴方が居るの?――零)」




