第六百十七話「龍王VS白龍Ⅷ」
――真っ暗だ。
周囲の明かりが見えないとか、物が見えないとか。
そんな事を考える必要も無い程、目の前の景色は真っ黒だ。
物音もしないし、空気が流れているような事もない。
ただ感じる事が出来るのは、ここには自分しか居ないという虚無感だけ。
暗い。寒い。寂しい。……そんな感情が自分の身体を蝕んでいく。
「……」
そんな虚無感に包まれた景色の中で、手探りで行く当てもなく歩き始める。
だがやはり何処にもぶつかる事もなく、何かがあるとも感じられる事も無い。
自分の鼓動が早鐘になりつつある中、その音は耳に入ってきた――。
――ザッ、ザッ、ザッ。
複数人の足音が近付いてくる音が聞こえ、身構えるが音の正体を見つける事は出来ない。
誰かが近くに居るのか、それとも自分の事を探してくれているのか。
そんな期待に胸を膨らませながら、音の聞こえる方へと足を進めるのであった……――。
――大きな扉を開ける事に成功した彼らは、ライトで道を照らしながら歩を進める。
足元と行く先を照らし続ける霧原零の後ろには、壬生岬玲奈がその背中を眺めながら着いて行く。
その後ろから神埼神無と並んで竜也が着いて行き、最後尾に紫苑が背後の警戒をしていた。
「離れた場所に待機させてる二人も呼んでおいたから、退路は確保出来るだろう。このまま全員で標的を探しても良いが、効率重視で二手に分かれよう。紫苑、お前は後で来るフランとベルフェゴールを入り口付近で待っててくれるか?」
「あたいは留守番か。あいよ、分かった」
零の言葉に従うように頷いた紫苑は、早々に入り口付近の岩に背中を預ける。
そんな紫苑の行動を見届けた零は、近くで待機していた玲奈、神無、竜也へと視線を戻す。
「零坊、ウチはいつも通り竜也と行けばええか?」
「あぁ、それで良い。竜也、神無の言う事に従えよ?」
零のそんな言葉に対して、竜也は不満そうな表情を浮かべる。
「お前、オレは子供か何かか?そんな事を言われなくても勝手な行動はしねぇよ」
「そうか?洞窟ってのはロマンの塊でもあるからな。うっかり目を離した瞬間に、勝手な行動を取りそうな気がするけどな」
「お前マジで帰ったら覚えてろよ?」
「一回も勝ててない状態で何を言っても無駄無駄。さて玲奈、俺たちはこっちだ」
玲奈は洞窟の奥を眺めながら、やがて嫌そうな表情を浮かべて応える。
「本当に進むの?この先に何かあるとか、普通に考えて有り得ないんだけど……」
「何だ?怖いのか?お前らしくもない」
「あーしは暗いのが苦手なの。知ってるでしょ」
「まぁ知ってるけど、別に大丈夫だろ。閉じ込められる訳でも無いんだし」
「そうなったら絶対レイにしがみ付いてやる」
「そしたら振り払ってやるから安心しろ」
「何も安心出来ないんだけど!?」
そんな会話を繰り広げながら、零と玲奈は洞窟の先へと進む。
同じく途中まで見える分かれ道を目指して、神無と竜也もその後ろを着いて行く。
やがて分かれ道へ到達し、彼らは一言二言だけ言葉を交わして洞窟の奥へと進むのだった――。
「んじゃ、後でな」
「せやな」
「迷子にならないようにねぇ、リュウヤ♪」
「うるせぇ。テメェこそ迷子になっちまえ」




