第六百六話「九条咲とウロボロスⅦ」
「おい李久、何か面白い番組知らないか?」
「何で呑気にチャンネル回してるんですか!?さっきまでこの状況を打開する話し合いをする空気だったじゃないですかっ!」
「うるせぇな。珈琲ぐらいゆっくり飲ませろよ。俺の家だぞここは」
「いやいやいやいや、確かにそうですけどもっ!状況を整理するんじゃなかったんですか!?」
テレビのチャンネルを回してる中、机を乗り出しながら彼はそう言ってきた。
何をそんな声を上げる必要があるのかと思いつつも、俺は別に何も考えていない訳じゃない。
整理もしているつもりだし、この状況をどうするべきかとしっかりと考えている。
「とりあえず、この珈琲を飲み干したら考えるさ。お前もその緑茶をさっさと飲め。冷めちまうぞ」
「はぁ……いただきます」
彼は納得いっていない様子だったが、俺の言葉に従って茶をすする。
少々口うるさい所はあっても、根は真面目というのが天風李久という人物だと俺は思っている。
まぁこれは、他人が勝手に他人のイメージを作り出しているに過ぎない。
人間同士が無意識に起こす行動だが、決してそれが悪気がある訳では無い。
だがしかし、人間の大半は最初の印象で決まってしまう。世知辛いな……。
「零さん?どうかしましたか?」
「……いや、なんでもない。李久、お前はこの世界で目覚めた時、何処に居た?」
俺は人間について考えるのを止め、現状問題へと意識を切り替えた。
最も……こちらの方が最優先事項なのであるのは間違いないのだが――。
「そうですね。僕が目覚めた時は、海斗の師匠が住んでいる家でしたね」
「へぇ、海斗に師匠が居るのか。それは初耳だな」
「ええ、僕も驚きましたよ。まさかあの海斗を鍛えたいと思う人間が居るなんて、正直思いませんでしたから」
「海斗はお前の中じゃ弱いのか?」
「弱かった、というのが正しいですかね。あいつは本当に強くなったと思います」
彼はそう言いながら、何やら嬉しそうに目を細めた。
離れていた時間が長くても、流石は兄弟というべきか。
その表情には悔しさとか淋しさではなく、嬉しさや安堵した様子が伺える。
「李久、一つ良いか?」
「はい、何でしょう?」
思い出に浸っていたかもしれない彼だったが、今はやるべき事がある。
それを優先するべきだったが、俺は微妙に気になった事を彼に問い掛けるのであった。
「李久、お前の言う海斗の師匠ってどんな奴だ?」
「へ?どうしてですか?」
「いや、一度会っておきたいと思ってな。李久も世話になったのなら、匿っていた身としてもお礼を言いたいからさ」
「なるほど。えっと確か……容姿はちょっと大人の女性という感じなんですけど、何か不良というか性格が男性っぽいって言うんですか?ちょっと逞しい感性を持っている方でしたね」
「へぇ……俺の知り合いにも似てる奴が居るんだが、世の中似たり寄ったりの人間が居るもんだな」
「ははは、そうかもしれませんね。その方も龍紋保持者という話でしたから、あながち零さんの知り合いだったら面白いですね」
「……」
同じ龍紋保持者という言葉を聞いた瞬間、その容姿と性格が気になった。
俺の知り合いかもしれないという彼の言葉も、今は何か通ずる物があると思ってしまう。
……ていうか、そんな容姿と性格と龍紋保持者と聞いて、思い浮かぶ人物が一人居るのも事実。
俺はその人物の事を思い浮かべながら、李久にもう一度問い掛けるのであった――。
「余談なんだが、そいつが保持している龍ってさ。フェンリルとか言ってなかったか?」
「……え?どうして分かったんですか!?」
「……あぁ、良いよ。なんでもない。ただお礼を言う機会が強制的に出来る存在だったってだけだ。会おうと思えばすぐに会えるぞ、そいつ」




