表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
521/887

第五百十六話「九条咲としての選択Ⅶ」

 随分と長い間、私は彼女と共に行動していたと思う。

九条家に養子として入り、九条ではなく霧原としての記憶を思い出した私。

そんな私の記憶と照らし合わせるようにして、彼女の存在はとても大きかった。

だがしかし、私は私で思う所がある。私は本当に、彼女と契約して良かったのかと。


 「……っ」


 深層世界の中にあるこの空間は、人間が無意識に作り出す別の空間。

心の奥底に存在し、何もかもを閉じ込める為に作られた閉鎖空間と呼ばれる場所。

こんな空間を作り出す程、私は別に心を閉ざす必要性は無かった。


 「ウーちゃん、上手くやってくれてるかな?」


 気になるならば、自分自身で確かめに行けば良いだろうと思う。

自問自答を繰り返したとしても、結局確かな答えは出る事は無いと思われる。

それは自分の中で確定し、私は私自身で拒否したい案件でしかない。


 「……私の事、お兄ちゃん忘れちゃったのかなぁ」


 本当に兄が、霧原零が私の存在を忘れてしまった。

そんな事実があるのであれば、私があの世界に居る意味は無い。

元々は九条咲として、兄である彼の存在を探していたのがキッカケだ。

それはその意味があってこそで、その意味を失ってしまえば私の存在に意味は無い。


 「っ……」


 自分で言っていて、なんだか悲しくなってくる話だ。

意味など無いなどと、自分自身で言っていて悲しくなってきてしまう。

だがしかし、それは自己完結していたとしても真実でしかない事だ。


 「――お兄ちゃん、今、何をしてるのかな」

 『納得出来ないな。余が話を割り込むのも失礼と思っていたのだが、いささか早計かもしれんなぁ。霧原咲よ』

 「バ、バハムート!?ど、どうしてここに?」


 ここは心を閉ざした空間であり、絶対的な閉鎖空間である場所だ。

入れる者は居ないと思っていたのだが、まさか彼のような存在が現れるとは。

そんな事を思いながら、私は目の前に現れた者を見据える。


 「えっと、その姿は何ですか?私にしか見えませんが」

 『ふむ、余は人間としての依り代が無いのでな。迷惑だったか?』

 「そんな事は無いですけど……バハムートこそ、何でここに居るのですか?」

 『そうだな。余は咲よ、そなたとは別行動を取っていたつもりだったのだがな。生憎やる事が無くてだな』

 「へぇー、要するに暇潰しって事ですか?」

 『……まぁ、そういう事だな』

 「ふうん、そうなんですか。私の気も知らないで、なかなか失礼なのですね。バハムートって」


 龍という存在は皆、自分を気高い存在だという事を言う時がある。

そういう態度という事も、そういう言動をするという事も分かっているのだが……。

どうも納得出来ない時もあるし、彼らの全てを受け入れるのは到底無理な話である。


 「えっと、バハムート?私と契約を切ってから、普段何をしてるのですか?」

 『ふむ、普段……か。余は肉体を持つ存在では無いゆえ、今は何もしていないな。あぁ、そういえば、余と同等の存在が生まれたと聞いていたが……それは結局どういう存在だったのだ?良ければ聞かせてくれぬか?』

 「……私の知ってる範囲で良いなら、で良いですか?」

 『あぁ、構わぬぞ』

 「……」


 自分自身の容姿のままで、鼻を鳴らしながら頷くバハムート。

鏡合わせになっているようで、落ち着かないのだが仕方が無いだろう。

だがしかし、私はこの空間にバハムートが現れて嬉々としているらしい。

少しの間だけ、バハムートと他愛無い話でもしようと思いながら口を開くのであった――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ