第五十話「灰色の存在Ⅳ」
ドラグニカ……その存在は、龍に中てられし者たちの呼び名。
その呼び名で呼ばれる人類には、特別な力が宿っていると云われている。
漫画やアニメのような創作に出てくる魔法にも似たその力は、呪いと同じだと彼は言った。
「桐華さん、休憩どうですか?」
「……ん、賛成」
でもその呪いの力を使わなければ、自分自身を守る事は出来ない。
再び龍災が起きれば、誰かが龍化してしまう可能性だってあるのだ。
それにこの力とは別に、この戦い方は……。
「桐華さん?」
「な、何?亜理紗」
「何?じゃありません。何をボーっとしてるんですか?」
「ん……考え事」
「何か気になる事でもあるんですか?」
「うん」
気になる事はある。それに引っ掛かってる物もある。
彼、霧原零という人物に関係する事の何かがあるのだ。
でも何故か、それが曖昧で思い出しにくい状態だ。
(あの時……あの場所で、あたしは彼と会っている?)
何も思い出せない。この棘が刺さった感覚は気持ち悪い。
思い出せそうで、思い出せないこの感覚は嫌いだ。慣れない。
お菓子でも食べて落ち着こう……あれ?
「……亜理紗、そのお菓子って」
「あ、こ、これはその……ちゃんと許可は取りましたわよ!?ずっと生返事というか、ボーっとしてたので、悪戯でもしたら元に戻るかなぁと思いまして……あ、あははは~」
「…………訓練再開。手加減無しで行くから」
「ちょっと待って下さいませ!!私の準備がまだ――」
「乱れ撃て、ケルベロスッ」
銃を乱反射しながら、逃げ惑う彼女を目一杯に追う。
そんな自分が誰かと話しながら、ふざけ合った記憶はあまり無い。
こんな暖かい空間の中には、自分がちゃんと居るのかどうかさえあやふやだ。
「――ええい、たかがお菓子の一つや二つで!!みみっちいですわよ!」
「たかが……亜理紗、今、言ってはならない事をあたしの前で言った」
「あ、しまっ……」
ハッとした様子で彼女は口を覆うが、時既に遅しという奴だ。
両手に銃を具現化させ、呟くようにもう一つの龍紋を発動させる。
オルトロスとケルベロス。この二体とは、いつからの付き合いだったか。
もうそんな事すら、私は覚えていないんだ。
「もうっ、セキュリティを最大限へ設定して下さい!」
『畏まりました。防御障壁のレベル、最大限へ移行いたします』
「これで思う存分、暴れられますわよ。桐華さんっ!!――トライデントッッ!」
「言われなくても、その為の訓練でしょ。亜理紗、教えてあげる。食べ物の恨みの怖さを」
私はそのまま、銃を構えて彼女と訓練を再開する。
武器を構える度、何かが頭の中で映像として横切るけれど気にしない。
今、自分が立っているこの場所。それが今の居場所なのだから――。




