第四百九十八話「九条咲と藍原桐華Ⅸ」
「……何処に居る?」
自問自答のように呟いた言葉。
その言葉は自分自身の事ではなく、この夢のような世界に問い掛けた言葉。
だがその言葉に対して、何かが返って来る訳でも無い。
「ケルベロス、オルトロス……手伝って」
『――!』『――――』
両脇に出現する私の中で存在する龍。
その二匹が呼び掛けに応え、私の足元で小さく鳴きながらその姿を現した。
私は姿を現した相棒たちに視線を向け、語り掛けるようにして口を開いた。
「この時間に生きる。……霧原零を……または、その関係者を探して?」
『『――!』』
「ありがとう。見つけたら、あたしに教えて。――さて」
私の指示を受けた二匹の龍は、二方向へと分かれて目標を探しに行く。
その様子を見届けた私は、自分も探そうと行動を再開しようとしたのだが……。
「っ!?」
動こうとした瞬間、ドクンと大きく身体が跳ねたのであった。
自分の視界がゆっくりと霞んで、建物に背中を預けて顔を自分の手で覆う。
地面が見えている視界が揺れ、ズームインとアウトを繰り返している感覚に襲われる。
やがてピントが合うように視界がクリアになり、徐々に正常へと戻っていく。
「……なに、これ?」
出て来る予想は二つ。
一つは龍紋を使用し、二匹の龍を具現化させている代償。
もう一つは、この夢のような世界から目覚めようとしている可能性の二種類だ。
一番可能性があるのは……今の私にとって、前者で合っていて欲しいと想ってしまう。
何故なら……ここで現実へと戻ってしまったら、もう知る機会が無いかもしれないのだ。
「あたしをあの場所から、鳥籠から逃がしてくれた人。……それが分かるまでは」
そうだ。自分をあの雪が降っていた景色も。
あの手を伸ばしてくれた人物の事も、私のこの曖昧な記憶も。
全てが分からないと確信が持てないし、自分の気持ちに正直になれない。
「――桐華っ!!」
「っ?」
咄嗟に聞こえて来た声に反応し、私は聞こえて来た方向へと視線を動かす。
そこには汗だくとなっている少女の姿があり、肩で息をしながら私の元で呼吸を整える。
そんな様子を眺めながら、私はその少女がここに来た理由を問い掛ける。
「……咲、どうしてここに?」
「どうしてって……はぁ、はぁ……私は、桐華を探しに……来たんだよ」
「あたしを?どうして?」
何かあったのかと思いつつ、私は彼女に問い掛けた。
だがしかし、彼女は答えるよりも先に一枚の紙を差し出して来た。
そこには、『藍原桐華』と私の名前が記載されていたのを確認する。
「これは?」
「良いから、読んで!それが私の知りたい事だけど、これが本当なのか知りたいから。桐華も読んで」
「ん、分かった」
私は差し出された紙を受け取り、その中身に目を通したのであった――。




