第四十八話「灰色の存在Ⅱ」
「お兄さんとは、ちゃんと話せたかい?」
その言葉を聞いた瞬間、零は龍紋を発動させようとした。
だが剣を出そうと構えた腕を掴まれて、彼は大の字になって空を見上げていた。
そんな彼を見下ろして覗き込み、笑みを浮かべる水無月だった。
「駄目だよ。ボクはこれでもここに居る人間であり、キミらと同じ存在でもあるんだ。そんな簡単に武器を出させる程、ボクは他人に優しくないんだにゃ~」
「…………」
寝ている彼の腕を踏みながら、起き上がらせないように体重も上乗せする。
だがそれだけでは、小柄な彼女の力だけで零を抑える事は不可能だ。
しかし彼の身体は動かす事は出来ず、龍紋の発動すら出来ない状態になっていた。
「『どうして力が使えないのか?』っていう顔をしているね。答えはボクの電子手帳にある。ドラグニカ収容施設というこの場所では、生徒として扱う少年少女が暴走するのは珍しくない。故にこの電子手帳を持つ我々も例外ではないのだが、その一部でボクの持っているこれは一味違う仕組みを持っている。それは研究員としての暗証コードとその機能にあるんだ」
「…………っ」
「その一つにね、対ドラグニカ用の拘束プログラムが入っている。これは登録されているキミらのデータをベースにして、それ以上の龍紋の反応をぶつける事によって出来る相殺行為だ。いわば無効化と言ってもいい機能さ。さて、ここからボクのターンだよ。霧原零くん……」
パンと手を叩いて、片目を瞑りながら水無月はそう言った。
動きを封じられている零は、拘束を解除しようと思考をフル回転させていた。
だが……次に言われた一言によって、零の思考は停止されたのだった。
「霧原零くん、キミの妹がもし生きているとしたら、キミはどんな答えを出す?」
「……なっ!?」
「そしてその情報をボクが知っているとしたら、キミはどんな答えを出す?この状況で出す、キミの結論を教えて欲しいな」
「ははは……ハッタリだ。あいつが生きてる訳が無ぇ。妹はもう死んだ。俺の目の前で死んでるんだよっ、ふざけた事言ってると怪我するぞ先輩っ!!」
「うわっと……電子手帳の限界領域を突破して、それ以上の力で相殺を捻じ伏せたのか?無茶をするね、キミ」
「はぁ、はぁ、はぁ……無茶は慣れてる。さて先輩、執行される準備は良いか?」
ギロリと睨む零の瞳は、龍と同じ眼となって水無月を捉えた。
その眼を見た彼女は、怯えるではなく全く違う反応をして口角を上げる。
そして両手を広げ、剣を出そうとする彼に抱き着くのであった。
「凄いっ。こんなに黒いオーラを見たのは初めて♪決めた、キミはボクの玩具にしてあげる♪」
「そんなの却下ですよ。水無月さん!」
「げっ。――く、くぅちゃん!?」
龍紋を発動しようとした水無月。
そんな彼女を制止したのは、ジト目で睨む生徒会長……九条咲であった――。




