第四十二話「龍化した少女Ⅶ」
いきなり襲い掛かってくる黒い甲冑の存在。
その気配は禍々しく、殺気という名のオーラを放っている。
目の前の彼の腕からは赤い滴が垂れ、私は完全に足手まといとなっていた。
「……ぐっ!このっ!!」
『殲滅……排除、排除……』
振られていく大剣は、彼の動きを把握しているのか隙が無い。
防戦一方となっている彼は、私へ近付かせないようにその場から動いていない。
私が現状で足手を引っ張っていて、彼の邪魔者になっている。情けない。
「もう少し離れられるか!?それかお前は先に帰ってろ!ここで食い止める!」
「ダメです!そんな事はさせられません!私も一緒にっ……」
『……修正開始……反撃……』
「くっ!?こいつっ!――良いから下がってろっ!!」
振り下ろされた大剣は、彼に狙いを定めている。
その勢いは凄まじく、受け止めた彼の身体がガクッと下がる。
圧し掛かる気配により、私の動きは封じられてしまう。
龍紋の解放も出来ず、腰が抜けてしまって動けないのだ。
完全に邪魔者だ。私はいつもそうだ、あの時も友人を助けられなかった。
自分が弱いからと、弱い者だと恐怖に溺れて動けずに居た頃と同じだ。
「はぁっ!くそっ……また避けられた。分析でもしてんのか?こいつ」
『反応……アリ。……殲滅続行、排除』
「機械染みた声しやがって、お前は何者だ!どうしてそんな気配をしてる?ここには何しに来た!目的は何だ?答えろっ!」
『…………』
彼は会話を求めているが、それにその気配も素振りも無い。
ただ対話を求めた瞬間、小さくその反応を見せた気がした。
首を傾げて、まるで人間みたいな反応をしているのであった。
「……はやくっ、動いて。私の足っ……早くしないと、彼がっ……!」
『――また見捨てるの?私を見殺しにしたみたいに』
「っ!?」
目の前に見えるそれは幻。そうと分かっていても、私はそれが本物に見えた。
あの時の友人が見え、私は服を掴んで彼女に言うのだった。
「違います!あの時、私はあなたを助けたかった!」
『本当に?自分だけが生き延びたくせに?助けてくれる素振りもなかったのに?』
「違いますっ!本当に、助けたかった!今でも自分が死んでいればと思っています!私は何で生き残っているのだと、何で龍は私を選んだと後悔しかしてません!!」
『…………ふふふ、じゃあ良い方法があるの。聞いてくれる?』
「な、何ですか?」
彼女は笑みを浮かべて、私の元へと近寄ってくる。
頬に手を触れられて、彼女は静かに目を細めて言うのだった。
『私の為に死んでくれる?亜理紗――』
「……え?」




