第三話「フラッシュバック」
墓地で出会った少女に貰った一通の手紙。
この手紙の内容には、俺の過去と関係している内容が書いてあった。この身体に刻まれている物と少なからず関係していて、手紙には俺についてのプロフィールが書いてあったのだ。
「何であの子は、俺の……」
俺の過去を知っているのかが分からない。何で俺の過去に詳しいのかは分からないが、書いてある物は全て合っているものだ。不正解が無さ過ぎて、逆に不気味なくらいなのだが……。
『貴方の過去を知っている。これは本来、知っている者がいるはずのない事柄。貴方の体のドコかに刻まれている「龍紋」の正体と、貴方のこれからについて話したい事があります。三日後の正午――全てが見下ろせる場所でお待ちしております。……貴方を良く知る者より』
――俺を良く知る者、か。
どんな事を話してくるのか知らないし、この内容を信じる必要などない事だろうが、俺にはこの手紙に書いたあの子に会う必要があると思う。
「……はぁ」
自分の部屋にある鏡を見て、思わず溜息を出してしまう。知る必要なんて大層な事じゃないか。
俺の体に刻まれたこの模様のようなもの。これが手紙に書いてある「龍紋」って奴なのだろうか?
「まぁ、考えたって仕方ないか。バイトの時間だ」
俺はシャワーを浴びた後、暗い夜道をいつも通りの速さで歩く。
ただ一つの違和感を、背後から感じながら――
◆
「もしもし。そちらの様子はいかがかしら?」
街の明かりが全体に広がっている。その広がる街を高い場所から見るのは、我ながら高揚感に包まれてしまう。何と言うのだったでしょう。『人がゴミのようだ』だったでしょうか。
『ターゲットはアルバイトのようですね。夜間で出来るアルバイトといえば、居酒屋や夜間工事でしょうが、彼は見た所、簡単な接客業のようですね』
「あらそう。では引き続きそのまま、彼の様子を監視して頂けますか?」
『畏まりました。ですがお嬢様、お嬢様が重要視するほどの者とは思いませんが……』
「余計な事は考えなくて良いのですよ。貴方はただ、私の言う事だけを聞いていれば良いのです。それでは、お願い致しますね?」
監視を頼んだ黒服への電話を切り、私は思い切りふかふかのベッドへと倒れ込む。このベッドにダイブという行動は、小さい頃を思い出すようで口元が緩んでしまう。
「……はあぁぁ、いつになったら私の願いは叶うのでしょうか?何年待ったか分からないぐらい、私はこの時を待ち続けていましたわ」
一枚の写真を手に取りながら、幼い頃の記憶と共にそれを思い出す。願っていた事が、もうすぐ叶うというのだ。楽しみじゃないはずがない。むしろ羨望の極みという奴である。
「やっと会えますわ、お兄様♪」
胸に広がる思いを抑え、やがて私は眠りにつくのだった。
◆
「時間までもう少しあるな……」
腕時計を見ながら、街中を歩く。手紙に書いてあった時間では、今日の正午という事らしいが、俺は早起きをする癖が発動してしまった。早起きしてしまった以上、どう時間を潰すかがこの場合問題だ。
「いたっ……?!」
ドクンドクン、と脈が打たれる。腕にではなく、背中が燃えるように熱い。これはいったい……。
そう思っているのも束の間、突如身動きが取れなくなる。身体が上下左右に揺らされる感覚が、地面から伝わってくる。とてつもなく激しい地震。これは前にも味わった事がある。あの時と同じ……。
「ぐっ!?しまっ……!」
走ろうとしたら、上から看板が落ちてくる。体勢を崩した俺は、思わず目を瞑り、死を覚悟してしまった。
「お兄様っ!危ないっ!」
突然聞こえてきた声は、俺の良く知っている女の子の声。その声は混乱の中とはいえ、良く通る叫び声だった。俺はその声の主を見た瞬間、過去の記憶と今の情景が重なって呟いたのだった。
「……咲?」
今は亡き、家族の一人の名を――