第二十話「龍の力を持った兄妹」
闇に染まった廊下を進み、私は月の光が差し込む窓を眺める。
彼の持っている記憶は曖昧で、私に対する記憶が不安定だ。
龍紋を刻まれた私たちは、ほぼ強制的にこの場所に収容される。
だが彼の事を見つけるまで、数年は掛かってしまった事が曖昧な理由だろう。
「生徒会長がこんな夜中に何をしてるのですか?九条さん?」
「藤堂さん、ですか。そちらこそ、何故この夜中に廊下へ?お手洗いなら寮にあるはずでは?」
私は心がざわつく所為か、生徒会の仲間である彼女に軽く八つ当たりをしてしまった。
だが彼女はそれを気にしていない様子で、腕を組んで目を細めて言った。
「……生徒会長、私は彼を仲間にするのは反対です」
「龍を狩るというのなら、彼の存在は必要ですよ。いずれ先輩にも分かります」
「随分と自信があるようですが、次は誰がテストをするのですか?」
「私が動く予定です。先に言っておきますが、先輩の力は借りるつもりはありませんよ」
「あら、残念。私が動くのなら彼を不合格にして、違う場所に収容させるつもりでしたのに」
そんな事を考えていたのかと、私はやや睨み気味で彼女を見据える。
彼女の瞳に反射している私の瞳は、月夜に照らされていると目立つものだった。
無意識下では無いが、私の龍紋が彼女の龍紋に反応しているのだろう。
内側から闘争本能が込み上げてくる。身体が熱いと思うぐらいだ。
「そんな怖い顔をしないで下さい。私はただ、実力の無い者は必要無いと思っているだけ。実力が証明されれば、それなりの対応を致しますわ」
「そうですか。じゃあ……問題は無さそうですね。彼は私たちより、遥か先を経験している者です。そう簡単に勝てる人間ではありませんよ」
「……なら、それを拝見出来る日を楽しみにしていますね。ふふふ」
彼女は笑みを浮かべて廊下を去って行く。
私は彼女の背中が見えなくなるまで、その背中を見届けた。
やがて龍紋の疼きは静まっていき、落ち着かせるように深呼吸をする。
私は再び空に浮かぶ月を見て、自分に言い聞かせるように呟くのだった。
「落ち着きなさい。私は私……たとえ苗字が変わったとしても、容姿が変わったとしても――私はあの人の妹という事実は変わらない。そうは思わないですか?藍原桐華さん」
私はそう言って、背後を見ずに呟く。
廊下の奥から姿を出して、棒状のお菓子を口に咥えている。
気配は感じていたが、恐らくは彼の部屋から着いて来ていたのだろう。
彼女には、神出鬼没という部分があるのだ。
「いつもそんな事を言い聞かせてるの?」
「……そうですね。割と最近は思ってますね」
否定するつもりは無いが、改めて言われると背中が痒くなる。
その様子を眺めながら、彼女も同じように月が浮かぶ空を見ている。
そして彼女は目を細めたまま、一言だけ呟くのだった――。
「……彼は力を隠している。そんな気がする……」




