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第百八十話「弓使いのドラグニカⅣ」

 龍紋保持者にとって、本気を出す事はタブーだと俺は思っている。

別にそんな法律が作られている訳でも、ましてやドラグニカの間で決められているルールでもない。

だがしかし、俺は思うのだ。龍紋さえ無ければ、普通の人間として生活出来た。

そう思っている奴らも、少なからず居るはずではないかと……だから俺は……――。


 「どうした霧原。生徒会長の方をずっと見るなんて、余所見し過ぎじゃねぇか?」

 「それでもお前の剣は一度も俺に届いてないぞ。勝つ気が無いと踏んでいるからこそ、お前は無理な攻めはしないと勝手に思ってるんだがな」

 「勝つ気が無い?俺がか?」

 「あぁ。お前からは、勝利への執着を感じない。施設内に居た連中は、少しだけだが勝利への執着してる奴らも居た。序列なんていう物を作るぐらいだからな。ゲーム感覚かもしれないが、上位ランカーになりたい願望だってあるんだろうよ」

 「確かにな。あのルールは、生徒同士の決闘で成り立ってたしな。それがどうかしたのか?」

 「だがそれには、龍紋という枷が邪魔だ。本当の実力が勝てなければ、そんな順位に価値は無い。俺が思うに海斗……お前は俺を王にする理由は、その『龍紋』を消す為か?」

 「…………」


 海斗は俺が言った言葉を否定せず、ただ腰に手を当てて小さく笑みを浮かべる。

もう片方の手で顔を覆っているが、微かに口角が上がっているのが見える。

やがて、俺の言葉を肯定するかのように両手を上げて言うのである。


 「……はぁ、降参だ。流石は俺たちの王だ。いや、『喰らう者』と言った方が良いか。これはもうテストの必要性を感じないな。こっちの目的がバレたのなら、話が早くて助かる」

 「……?」

 「霧原……お前はここを出て、共にドラグニカという存在に優しい世界を作る気は無いか?」


 短剣を消失させて、海斗は俺へと片手を差し伸べる。

握手すれば、その言葉に同意する事になって契約成立という話だろう。

ドラグニカを優遇させた新しい世界で、優しい世界。……はは、笑えてくるな、これは。


 「悪いが、俺はお前らとは行動出来ない」

 「なっ……どうしてだ。世の中に居る龍紋保持者は、普通の生活が出来ないと嘆いている奴だって居る。龍紋を消したくて仕方が無い!そんな奴だって居るんだぞ!お前はそんな奴らを見殺しにするつもりか!」

 「見殺し?話がぶっ飛び過ぎてて、訳が分からないぞ海斗。見殺しというのはどういう意味だ」

 

 海斗は唇を噛み締めながら、拳を握っている。

どうやらそれが、本当の狙いというか……俺と接触した目的らしい。

これは恐らく、施設内の人間を全員移動させた事も聞かなくてはならないな。

今日は随分と忙しい日になりそうだ。俺は溜息を吐きながら、そんな事を考えるのであった――。

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