第百七十一話「龍紋保持者―ドラグニカ―Ⅴ」
私は目の前に現れた彼女によって、構えていた弓を下ろして呟いた。
「どうして……?」
どうして彼女が、武器を持って私の前に立っているのだろうか。
そんな疑問を浮かべながら、私は目を見開いて彼女の姿を見つめる。
「いやぁ、助かりましたよアンジェさん」
「余所見をしている暇があるなら、もう少し上手く立ち回ってくれませんか?危うく貴方を撃ち抜いてしまう所でした」
「相変わらず手厳しい……まぁ、俺はここまでは予定通りですよ。今はまだ、ですがね」
私はキッと奥歯を噛み締めながら、目の前の彼と会話をする彼女へ弓を向ける。
「――アンジェ、答えなさいっ!どうして貴女が、私の目の前に居るの!今すぐ武器を捨てて投降しなさいっ!!」
「従いたい所ですが、今は従う事は出来ません。優先事項は現在、お嬢様が二番目となっておりますので……」
「……っ!?(銃口を向けられたっ)」
そう思ったが、数秒経過した瞬間に違和感を感じた。
銃口が少しだけ横に逸れていて、狙いが私では無い事が理解出来た。
では、一体誰を?という疑問が生まれ、私は咄嗟に後ろに居る人物に向かって声を上げる。
「――逃げて下さいっ、霧原さん、未央さん!」
そう叫んだと同時に銃声が聞こえ、私は撃った彼女へと視線を向けた。
躊躇という二文字が皆無と言わんばかりの発砲に対し、私は再び弓を構えて彼女へと解き放った。
「……っ、馬鹿なっ」
「おい、落ち着けよ。生徒会長だろ?」
「!?」
いや、正確には解き放とうとした。
だが私が構えた手を下へと向けるように手を添え、彼はそう小さく呟いて言った。
そして彼はゆっくりと私よりも前へ、身体を前に出しながら笑みを浮かべる。
「直接こうして会話するのは久し振り、で良いんですよね?アンジェさん」
「ええ、そうですね。よく私の放った銃弾を弾きましたね。どうやってやったのですか?」
「教えたらつまらないだろ?自分で考えて、答えを導き出すんだな。まぁ大した事はしてねぇけどな」
やれやれ、と言わんばかりに彼は肩から上へと手を上げて左右に首を振る。
いつの間にか黒い剣を出現させていて、明らかに戦闘準備は万端な状態である。
そんな様子の彼は、彼女たちに向かって剣先を向けて言った。
「……さて、ここからはどうするか。海斗、お前のプランを聞こうか」
「はぁ……霧原、お気楽にも程があるぞ。こうしている間にも、他のメンバー心配はしないのか?」
「他の……あぁ、亜理紗と桐華の事か。あいつらなら平気だろ。伊達に執行部に居ないし、序列も高順位じゃねぇと思うぞ」
「まぁ確かに。だけど霧原、こっちにはお前の知ってる奴も味方に居るんだぜ?その事については、どうするつもりだ?」
「知り合い?……誰の事だ?」
そう問い掛けられた彼は、両手に持った短剣をくるくると遊ばせて言ったのだった――。
「壬生岬玲奈……知らないとは言わせないぜ?」




