第十六話「レポート・ゼロ」
龍災が遭ったあの日。俺は家族を失った。
言葉だけで言えば簡単に割り切れる話でも、内心では正直ボロボロだ。
人に話す事も無ければ、龍災を怨む気力すら消失してしまうのだ。
全てを失った者は、文字通り生きる意味を失うと同義なのだ。
だからこそ、という事でも無いのだが、俺にはやるべき事がある。
それを叶える為だと思い、今の俺が居るしここに通っているのだと思う。
全寮制とはいえ、施設の内容は普通の高校と変わらないものだ。
そこに通う人間が、ほぼ全員がドラグニカと呼ばれている存在だが……。
「何をそんなに見ているのですか?霧原さん」
「いや、見た目は普通なんだよなぁって思ってな」
「貴方もその一人なのですよ。何を他人事みたいに言ってるんですか」
「ていうかさ、ここに居て良いのか?生徒会長兼、執行部の九条咲さん」
「昼食を共に取る約束をした日は、午後の適性テストでキャンセルになったので、その埋め合わせと思って下さい。というよりかは、貴方に話が合って来ました。後で生徒会室へ来て下さい」
「もし断ったら?」
「切り落とします」
「ん……分かった。従う」
ここに通う者には、龍紋という龍からの感染を証拠とする痣がある。
身体の一部にそれを宿し、そして龍の力を倍化させるようば能力を持っている。
それぞれに見合った武器を操り、それを駆使して龍に対抗していく為。というのが表向き。
だが俺は、この表向きの内容に納得がいっていないのだ。
気掛りというか、なんとなくだが納得出来ないのである。具体的ではないけれど……。
「んじゃ、了解。また後でな。――あ、あいつどうしてる?」
「あいつ、とは彼女の事でしょうか?」
「あぁ。どうしてるかな、と」
「惚れたんですか?」
「ちげぇよ。……ただ自信を喪失してないか、と思ってな。どうなんだ?」
「それは本人に聞く方が早いです。生徒会室で様子を見れば分かりますよ」
「へいへい」
俺は立ち上がって、少女と座っていた場所から離れる。
何処へ行くのか聞かれたから、一言だけ言って俺はその場を離れた。
ただ、自分の中にある勘違いを振り払うように。
「トイレ」
……トイレと言いつつも、俺はあの場には居たくなかっただけだ。
あの少女と居ると、昔の事を強制的に思い出してしまうような気がするのだ。
忘れたくないと思いながらも、心の中では忘れた方が良いという感情もある。
だからこそ、俺は一度リセットしてバイト生活をしていたのに……。
「――何がドラグニカだよ、ちくしょ」
俺はそんな事を呟きながら、自室のベッドに倒れ込んだのだった。
そして俺は、過去の出来事の夢を見る羽目になってしまったのである――。




