第百六十六話「雷龍を纏いしドラグニカⅩ」
零たちが施設へと移動している間、藤堂家の建物内では三ツ橋が後始末をしていた。
大破して意識が消失した母のプログラムを削除し、娘の手で命を絶たれた父は埋葬していた。
そんな事をしている時だった。三ツ橋の背後へと近付く人影があったのである。
「どなたか存知ませんが、ここは藤堂家の家の一部。そこに足を踏み入れたとなれば、不法侵入者として排除行動に移りたいと思います」
カチャっと銃のセーフティを外して、言い終わると同時に背後の気配へと撃ち放った。
だがそこには誰もおらず、ただの壁に銃弾がめり込んでいる状態になっていた。
「(消えた。……のではなく、移動しましたか。これ程の使い手か、はたまた野良ネズミか。気を抜く訳には……)」
『随分と派手に失敗したようだね、藤堂の……キミには失望したよ。せっかくボクが、龍紋を移植してあげたというのに……』
「――っ!?(後ろからっ?)」
咄嗟に聞こえた声に反応し、三ツ橋は背後の気配に向けて銃を再び構える。
そう。向けたつもりだったがそれは一瞬で、瞬きをした瞬間に事は起きていたのである。
『どうしたんだい、キミ。落し物だよ?ほら、両腕……』
「……っ、ぐわぁぁぁぁぁぁああああっ!!!!」
両腕を切断された事を自覚した瞬間、激しい痛みが全身を覆う。
だらだらと大量の血液が床や壁に飛び散り、閑散とした部屋が一気に真っ赤に染まる。
痛みに耐え切れず倒れた三ツ橋は、片目を見開いて上へ上へと視線を動かして行く。
「……ぐうっ」
『ダメだよ、動いちゃ……キミは何も見なかったし、元々居なかった存在さ。それを自覚してくれると有り難いなぁ。キミのような人間が居るとさ、ボクらが生き辛いんだ』
「ん、何の話で、しょうか……?がはっ!」
『誰が喋って良いなんて言った?ボクはキミを居ないと断定してるんだ。キミにはもう呼吸すらする資格は無いよ。……さようなら』
そう言いながら彼は、落ちていた銃を拾って三ツ橋へ向ける。
そしてニヤリと笑みを浮かべて、彼は引き金を引いて容赦なく残弾を撃ち込んだ。
やがて息絶えた様子を確認すると、彼はぺロリと唇を舐めてその亡骸を眺めた。
『……うん。そうしようか。ボク自身もちょうど、お腹が空いた所だしね』
そう呟いた彼は、蜂の巣状態になっている三ツ橋に近付いた。
やがて頭を掴んで空中に浮かせると、彼は目を細めて口を開くのだった。
『――ボクがもらおう。もうキミには必要の無い物だ』
彼がそう言うと、みるみると影が三ツ橋へと絡み付いていく。
やがて三ツ橋の身体を覆い尽くした影は、ゆっくりと影の中へ引き摺り込むのだった――。
『ご馳走さま。人間』




