第十四話「銃使いのドラグニカⅦ」
「すぅ……はぁ……ふんっ!」
「くっ?!」
重心を低くして、銃の間合いを潰していく。
飛び道具が相手には間合いを詰めて、詰めれば詰める程に肉弾戦が有利になっていく。
だが一瞬で気を抜き間合いを広げてしまえば、飛び道具相手には勝ち目が無くなってしまう。
だからこそ、攻守の交代をさせる訳にはいかないのである。
「どうしたんですか、先輩っ!動きがさっきよりも鈍くなってますよっ!」
「くっ……調子に、乗らないでっ!」
「――(……あ、危なっ!?)」
銃声が響いた瞬間、零は首を傾けて紙一重で弾丸を交わす。
「っ!?(また避けられた。どうなってるの?さっきまでと動きが全然違う。それに……)」
撃った弾丸の軌道を読んでいるのか。そう彼女は零を疑う。
銃身は悟られないように狙いを変えているはずだが、こうも簡単に避けられてしまっては我慢ならない。
「(それにタイムリミットも近付いてるし……どうしようかな)」
「(体力落ちたなぁ。こんな事なら、もう少し運動しとけば良かった)」
溜息を吐きながら、零はそんな事を考える。
壁を背を預けて、作られた景色である空へと見上げる。
自分の龍紋が微かに疼いているからか、零の血は沸騰し全身に熱を帯びさせる。
痛みにも似たそれは、恐らく彼女の龍紋に反応しているのだろう。
「……聞いていた通り、龍紋同士の共鳴によるものだろうな。くっそ……気分が悪い」
片手で両目を塞いで、零はそんな言葉を吐き捨てる。
共鳴状態になると分かる事は、共鳴に慣れていない場合だと体調不良と同じ状態になるという事。
今の零は、高熱状態で戦闘行為をしているという事になるのだ。
そんな零は、適性テストの終わらせ方を考えながら深呼吸を始めるのだった。
◆◆◆
「……制限時間も残りわずか。ここまで手こずるとは思わなかった。……あむ」
乱れていた呼吸を整えながら、桐華は再び棒状のスナック菓子を咥える。
その咥えたそれを上下に揺らしながら、この施設に通う生徒に持たされる電子手帳を開く。
通っている生徒を含め、周辺の情報が入っているデータベースを展開していく。
彼女が検索しているのは、霧原零……つまりは、彼についての情報を改めて確認する。
「……ん~……気になる情報は無い、かぁ」
適性テストを終えていない彼についての情報は、簡単なプロフィールを除けば皆無といえる。
だがその適性テストの最中でも、彼には龍の力を使う素振りが無い。
それどころか、龍紋を発動状態にする傾向すら見られない。これではテストにならない。
ただの身体測定にしかならないのは、正直困ってしまうところだ。
「(予想外の身体能力で、こっちが疲労するとは思わなかった。さくっと終わらせて、お菓子パーティでもしようかなって思ってたのに……当てが外れちゃったな)――仕方ないかな」
そう呟いて桐華は、ライフルになっていた銃の状態を元に戻す。
二丁拳銃へと戻った彼女は、銃を太ももにあるホルスターへと仕舞いこむ。
そして溜息を吐いた後、やがて上を向いて口を開くのだった。
――オペレーション終了、と。




