第百四十二話「ガールズバトルⅥ」
藍原桐華という少女について、私が知っている事を話そう。
彼女との初めての戦闘を終えた後、私と彼女は一緒に行動する事が多くなった。
何故かは分からないけれど、お互いになんとなくで行動していたと思う。
「……あむ……あむ……」
「あの、今は授業中なんだけど……?」
「あむあむ……ん、それが?」
「それが?って、良く先生も注意しないね。チップスの袋を広げて授業を受けてる人を見て、何も言わないっていう場面に驚くどころか引くんだけど……」
「勝手に見といて、勝手に引かないでくれる?あたしはあたしで、ちゃんとノートを取ってる。妨害行為なんかしてるつもりは無いんだけど?」
「いやいやいやいやっ、授業妨害だからね!?」
そんな会話をしている内に、気付いたら理不尽な結果を招いていた事もある。
お菓子を食べていた彼女を注意していたつもりだが、私もまとめて廊下へ摘み出されたのである。
「何で私まで……」
「あむ……あむ……」
「廊下に立ってまで、食べ続けるんだ」
「お腹が減ってるから、仕方が無い。食べる?」
「食べない。お昼前に食べまくるとか、すぐ太るし不健康だよ」
「……美味しいのに、あむ……」
そう言って彼女は、手に持っていたお菓子を口の中へと放り込んだ。
幸せそうな表情を浮かべては居なくても、空気が柔らかくなっている事は分かった。
無表情の所為で表情は読みにくいが、なんとか彼女という人間が分かって来ていたのである。
だがたまに、ふとした事で曖昧になったりもするのである、例えば……。
「今日こそは、桐華さんに負けないからね」
「ん?何が……?」
「今日の体育、持久走。絶対に桐華さんよりも長く走ってみせる」
「そう。それじゃ、頑張って」
「ぐぬぬ……」
興味無いという空気を纏って、彼女と私が同時に走るように位置付けられる。
その結果……闘争心むき出していた私は、彼女よりも速く走ろうと足を前へと駆け出した。
駆け出したのだが、何周目か分からなくなった時に私は彼女の背中を追っていた。
「……はぁ、はぁ(全然追い着けない。かなりのハイペースのままなのに、何で?)」
「……っ……っ……(まだ着いて来るんだ?ふうん、そんなに勝ちたいんだ)」
「はぁ、はぁ、はぁ……(差が縮まらない。ここまで才能が違うのに、どうして貴女はいつも……!)」
羨ましいという感情の中にある感情は、憧れと嫉妬心が混ざり合っている。
そんな不安定な感情を抱いたまま、私はペースを落とした彼女の背中へと手を伸ばした。
いつか届いてみせる。そんな意志を掲げながら、私はいつまでも駆けるのであった――。
「その状態でも亜理紗は亜理紗……だから着けようか、決着をさ」




