第十三話「銃使いのドラグニカⅥ」
「――龍の、眼?」
零は思わずそう呟く。
何故ならば、彼女の瞳がそれにしか見えなかったからだ。
「それは……?」
その眼は何だ。そう聞こうとしたが、上手く言葉を発する事が出来ない。
だがそれを見越したのか、やがて彼女は目を細めて口を開いた。
「――ドラグニカっていうのはね。その龍の能力を受け継いでいる者の事を言うの。まぁ貴方の言うとおり呪いなのかもしれないけれど……。でもこれがドラグニカって呼ばれている事は、貴方もこの施設で説明を受けたはずでしょ?聞いてない?」
「…………」
聞いてなかった、ではない。聞きたくなかったが、零の場合は正しいだろう。
龍の能力を媒介にして、常人では真似できない事が出来るというニュアンスで説明されていた。
だが現実はどうだ?正真正銘、その能力は人体に影響を及ぼしていると思う。
彼女の瞳には、零の嫌いな不快感を纏っている。
「さっきも言ったけど。確かにこの能力は『呪い』かもしれない。けれどアタシは、この能力に何度も助けられているの。それは今も昔も変わらない」
「……っ……」
それでも、割り切れる訳が無い。割り切る訳には行かない。
どんな事があったとしても、どんなに過去が辛かったとしても……。
龍の能力自体を使われる所を見るのは、零にとっては不愉快そのものだった。
「先輩」
「なに?もしかして、もう降参?これは貴方の為の適性テストなのだから、最後まで諦めないで欲しい所なのだけど……」
「いえ、そんな事は考えていません。ただ……」
「??」
零が身体を捻ったり、軽く飛び跳ね始める。
その様子を小首を傾げて、彼女は銃を下ろして言った。
「何してるの?」
「軽い運動ですよ。正直なところ、俺はテストとかそういうの嫌いなんですよ。おまけに先輩は、序列第5位で勝てる気がしない。でもちょっと俺自身、やむを得ない事情というものが発生しちゃったんですよね。――よしっ、こんなものかな」
やがて準備運動が終わると、零は両手を腰の位置で拳を作った。
そしてそのまま深く、大きくひと呼吸。長く息を吐いたその時だった。
「――っ!?」
零はさっきまでとは違う動きで、足の先から全身に力を込める。
彼女は反応出来ずに、背後に回った零の姿を追う事が出来なかった。
そのまま零は身体を捻り、狙いを定めて掌底は打ち込むのだった――。




