第十二話「銃使いのドラグニカⅤ」
二丁拳銃を交互に撃ち、彼女……藍原桐華は廃墟の中を駆けて行く。
造られた廃墟は本物のように見えて、五感全てにも本物と納得させるように刻まれる。
「……逃げてばかりじゃ、テストにならないよ?」
「無茶言わないで下さいっ、撃つのを今から止めましょう!」
壁を使って弾丸を防ぐ零は、逃げながら声を上げる。
桐華は思う。何で当たらない。彼は素人のはずだ、オカシイと。
自分の腕は自分が良く知っているし、彼の実力も書類を通して把握している。
桐華は自分で、自分の力を把握仕切れていない訳がないと考えながら彼を追う。
「――計り間違えた?あたしが?」
廃墟の壁に背を預け、桐華は手元にある銃を見つめる。
だがすぐに頭を左右に振り、彼女は棒状のスナック菓子を咥えた。
「ん……行くよ、オルトロス……」
桐華は長い深呼吸をしてから、小さくそう呟いた。
◆◆◆
「(ここまで来れば、もう良いか……はぁ、死ぬかと思った)」
零は肩で息をしながら、落ち着く為に溜息を吐く。
数年前までは、こんな事をするとは思ってもみなかった。
そう思えざるを得ない程、自分の今の状況にまた溜息が出てしまう。
「――ドラグニカ、ね」
自分で自分の状況を口にして、深呼吸をする。
落ち着ければ、なんて事は無いけれど……ドラグニカと呼ばれるのはまだ慣れない。
背中に刻まれた龍紋の事を考えれば、そんなに良いモノじゃないことは明らかだ。
これは俺が思うに、龍に抗う事は出来ても……正直、呪いとしか思えない。
「龍の呪い、だよな。これは……」
「呪いだけど、使い方は自由だと思うよ」
「っ!?」
小さく呟いた瞬間、壁の向こう側から彼女の声が聞こえて来る。
慌てるように壁から離れた零だったが、無造作に背中を預けていた壁が何かによって爆発する。
カチャリカチャリ、と彼女がゆっくりと足を進める。
その身体には、さっきまで無かった武装に纏われているのだった。
「それは、いったい……」
「オルトロス、ウォーミングアップだけど……」
二丁から一丁へ変わった銃は、彼女の身体よりも長い形になっている。
その長銃を構える彼女の瞳は、龍のような眼で零を捉えて呟くのだった。
「――あたしと踊ろう?あれが貴方の餌よ、オルトロス」




