第十一話「銃使いのドラグニカⅣ」
小さく呟かれた言葉は、ただ冷たいモノに感じた。
その言葉が聞こえた瞬間、小さい何かが頬を掠める。
掠めた頬からは生温かいモノが流れ、俺は身体の奥からそれを探した。
その傷の原因を……。
「探さなくても、これがその傷を付けた物の正体だよ?霧原零さん」
棒状のお菓子を口で咥えながら、彼女は両手い持ったそれを見せて来る。
そして気が付けば、周囲が明るくなっている。いつの間にか電気が点いたようだ。
――いや、それよりもだ!
「なんて事するんですか!当たったら死んでましたよ!」
「大丈夫。ここで起きた事は内密に処理されるし、万が一の事があっても問題にはならないから安心して」
どこにも安心出来る要素が無い!
ここで起きた事が抹消されるという事は、もし致命傷を負っても問題にはならないという事。
それは何というか、それ自体に問題があると思うのは俺だけだろうか!?
「――ほら。だから避けないと危ないよ」
「そう言いながらバンバンと撃たないでくれませんか!?」
二丁拳銃を交互に撃つ彼女には、どう頑張っても勝てる気がしない。
何故なら、彼女はこの学園で序列5位という実力者でもあるからだ。
しかも肝心の俺は、まだドラグニカとしての能力を使いこなす事が出来ていない。
その能力の発動出来る兆しがあっても、戦闘行為が出来る所までの調整が出来ていないのだ。
彼女との差は、天と地。勝てる気が全然しない。
『ピピ……オペレーションシステムが作動しました。ステージの再設定を行います。希望のステージを選択して下さい』
「……んー、軍基地に設定変更。訓練レベルは3ぐらいで良いかな」
『ステージの変更を確認。これよりオペレーション準備に移行します』
機械の音声アナウンスが流れ、彼女はその声に淡々と応えていく。
それによって、何も分からずに場の空気が一変する。
固体の概念が備わっているのか、はたまたバーチャル世界に飛び込んでしまったのか。
そう錯覚するほど、周囲に実体のあるどこかの基地が浮かび上がる。
どこの軍基地で、どういった場所なのかなんて今は頭に入ってこない。
『ピピ。変更を完了致しました。これより、ドラグニカの適性テストを許可いたします。ご存分に腕を振るって下さい』
「……そういう事だから、構えて」
「…………」
俺はそんな状況の中で、無い頭の思考をフル回転させる。
軍基地の詳細は頭に入って来なくても、これだけは頭に入れる事が出来た。
今から俺は、彼女と戦わなければならないという事だけだった――。




