第十話「銃使いのドラグニカⅢ」
『霧原零』という人間のデータは、この学園の中で最も少ないといえるだろう。
通常では体格などのプロフィールや能力値の公開が、電子手帳によって行われている。
非公開にする方法もあるにしても、彼のデータだけは日が浅い所為もあってか情報が少ない。
あるのは、名前などの簡単なプロフィールのみ。
だからとは言わないが、これからの時間を使って彼のデータを集める必要性があるのだ。
「測定機?」
「そう。あむあむ……それで貴方の能力値を割り出すの。戦闘訓練にもなって意外と便利なの。簡単に言うならあの場所は、精神と時の――」
「ストップです。分かったのでもうそこから先は言っちゃダメです!」
「……あむ。そうなの?じゃあ使い方の説明に入るね?」
「それは良いんですけど、せめて食べるのを止めてからにしてくれませんかね?」
さっきから気になってはいたけれど、この人は買ったばかりのお菓子をもう開けている。
しかも既に数個は完食……。彼女の胃袋は底なしなのだろうか。
「それで、ここが測定する為の場所。『第3体育館』――さぁ、入って?」
「…………」
そんなくだらない事を考えていたら、いつの間にか目的地に着いたらしい。
二次元的作品に出てくるような機械の扉は、堅くて重い背の高い壁のようだ。
電気も点いていないから、その雰囲気にラスボス感を纏っている。
俺はゆっくりと躊躇いがちに中へと入り、足を進ませていく。
「えっと、ここで測定するんですよね?暗すぎません?」
「…………(そろそろ、かな)」
闇というのは、どうやら不安を誘うらしい。
不安に煽られながら出た声の所為か、声の張り方を間違えてしまった。
潜めるようにした結果、返事が返ってくるはずもない。
そう思った瞬間、闇の中で動く影を見つける。
彼女だと思った俺は、それに近寄ろうとした時……俺は悟ったのだった。
「……避けないと、危ないよ?」
「――っっ!?」
闇の中で咄嗟の回避行動を取った瞬間、向けられたそれは火花を散らした。




