第百三話「ガールズトークⅦ」
「……もぐもぐ」
「…………」
「……(随分と静かな食卓ですわね)」
静寂に包まれた食卓の中で、囁くようにそう言った亜理紗。
その言葉を耳打ちされ、スプーンを持った手を止めて桐華は答えた。
「(会話が無いからね。仕方無い)」
「(それにしたって、何も会話しないのも味気なくありませんか?)」
「(う~ん、じゃあ亜理紗が話題振ってよ)」
「(へっ!?な、何故、私何ですの!?そこは一つ先輩である桐華さんの役目では……)」
「(……こんな時に年齢を言うのは、都合が良過ぎると思う)」
「(ぐっ……)」
コソコソと内緒話のように話していた桐華と亜理紗。
そんな二人の様子を眺める咲は、ジトーっとした目をしていた。
「そういえば……」
そんな静寂を破った言葉を発したのは、意外にも新参者である未央であった。
亜理紗は先を越されたと思いながら、未央の言葉の続きを待った。桐華も同様である。
「……三人は、いつからあの場所に居るんですか?」
スプーンを咥えながら、首を傾げる未央はそう問い掛ける。
その問い掛けられた質問が考えていた物と違い、三人は互いの顔を見合わせていた。
「いつからでしたの?」
「あたしに聞かれても困る。あたしがあそこに入ったのは、咲が連れてきたからかな」
「何で桐華さんは、そんなに記憶力が無いのですか?」
「ん……それはあたしを『馬鹿』と言ってるの?」
ひと足早く口を開いた亜理紗の問い掛けに対し、桐華は目を細めてそう問い掛け返した。
不満があるという表情を浮かべながら、桐華も対抗するようにして口を開くのだった。
「……もしあたしを『馬鹿』とか思ってるなら、亜理紗は真面目過ぎると思う」
「桐華さんが大雑把過ぎるのですわ。私は覚えていますわよ?去年に行われた撃退戦で、一人だけ先行して行った銃使いを。それって桐華さんの事ですわよね。あれは本当に隊列が乱れて、大変だったですわ!少しは自重して下さいませっ」
「その程度で隊列が乱れるなら、有っても無くても同じ。それなら個々の判断で、動いた方が効率的……」
言い争いを始めた彼女たちを止めるか否か、困惑している未央の姿があった。
そんな困惑している未央の隣に椅子を動かして、咲はその困っている肩を叩いた。
そして未央の耳に口を近づけて、囁くように彼女は口を開くのであった。
「(あの二人は、ああ見えて仲良しですので……安心して下さい)」
「(え?そうなの?)」
「(はい。多分ですけど、静か過ぎたのが気になった結果だと思いますよ。まぁ私も気にしてたので、未央さんのおかげで助かりました)」
「(そ、そうなんだ。あれで喧嘩してないんだ。もう睨み合ってて、取っ組み合いを始めそうな勢いなんだけど……?)」
「(あはは、そうですね。そろそろ止めた方が良さそうですね。じゃあ……)」
咲は笑みを浮かべたまま、自分の席へと戻って両手を合わせた。
パンと音を立てた事によって、何事かと思った桐華と亜理紗は咲へと視線を向ける。
そんな彼女たちを見ながら、未央は『何をするのか』と首を傾げて眺めていた。
やがて再び静寂に包まれた瞬間、咲は全員の顔を確認して口を開いたのである。
「さて、お腹もいっぱいになりましたし、ここは親睦を深める為に一つ提案をします」
「「提案……?」」
「……?」
提案という言葉に反応し、同時に呟いた亜理紗と桐華。
未央は頭の上に『?』マークを浮かべて、咲の言葉を続きを待っていた。
やがて咲がまた両手を合わせて、にこやかな表情を浮かべてその提案を言うのであった――。
「ここに居る全員で、お風呂に入りましょうか♪」




