第九話「銃使いのドラグニカⅡ」
学園序列第五位、藍原桐華。
大人しい性格で、お菓子が大好物な女子生徒である。
簡単なプロフィールではあるが、これは彼女から聞いた事である。
……というか、電子手帳に書いてあるのだ。
『電子手帳』というのは、この学園で必須アイテムである代物だ。
「それの使い方は、覚えたの?」
「いや、まだ難しいですね。機械から離れてたんで、ちょっとぎこちないです」
機械化されている現代で、未だに機械が苦手な若者というのは多分珍しいだろう。
いやもしかしたら、俺だけかもしれないけれど……。
「端末は生徒の情報だったり、連絡手段だったりで必要だから、それは失くさないようにね」
「もし失くしたら?」
「えっと、再発行に数万円掛かる?だったかな」
「……」
どんな学校だよ。
弁償というか、失くしただけで数万円単位掛かるとか別次元だ。
今の俺には、そんな大金を払う貯金は存在しない。気をつけよう。
「……ところで、どんな事をするんですか?言われるがまま着いて来ましたけど、詳しい内容を俺は聞いてないんですけど?」
「あぁ、そうなの?てっきり咲ちゃんから聞いていると思ったけど、そうじゃないんだね。仲が良かったから、それぐらいの情報は伝わってると思ってた」
そんな事を言われても、俺はここに来てまだ数週間も経ってない。
引越しの手続きとか、入学手続きとか、その他諸々の準備に追われていたのだ。
伝わっていない情報があっても、おかしくはないだろう。
「ところで藍原さん?一体、何をしているんですか?」
「何をって……これからする事の準備だけど?」
「じゃあその両手に抱えているのは?」
彼女が両手で大事そうに抱えて、何食わぬ表情を浮かべながらレジへ並ぶ。
「……何って、お菓子だけど。訓練中とかにも無いと、あとそろそろストックも無くなって来たし」
「――――」
(さっき大量に積んだものを食べてませんでしたか!?)
ビニール袋四袋を両手で持ち、満足した表情で購買から出て行った。
その後ろで俺は、彼女の背中をただ追うだけだった。
◆
静寂に包まれた生徒会室で、私はただ紅茶を飲む。
一人で飲んでいる所為か、貴族的ではなく庶民的な飲み方へとつい戻ってしまう。
これも生まれの問題か。引き取られたとはいえ、まだ少しぎこちない。
――トントン。
『お嬢様、入っても宜しいでしょうか?』
「アンジェ?良いわよ、入って」
私はひと呼吸してから、取り繕うように姿勢を正す。
ノックした彼女は入るなり、私の机の前までやって来た。
その表情は、真剣な物のおかげで私は察した。
「――準備は完了した。そう言いたいの?その目は」
「はい。例の試験は、予定通りに行われます。それは彼女の端末にも、後に送信されるはずです」
「そう。分かったわ」
彼女の言葉に返事して、私は再びティーカップを手に取る。
それを見た彼女は、自然にポットを持って注いだ。鍛えられたメイドのように……。
「アンジェ?貴女はどう思う?彼がどこまでやれて、彼女と戦って……果たして」
果たして、無事で居られるかどうか。
不覚にも私は、生徒会長としては思ってはいけない事を考えていた。
生徒会に入れたい人物は、執行部同様、実力に見合った者でなければならない。
そう決まりの項目に記されているのだ。そして彼女は強い。
もしかしたら、生徒会の中で最も戦闘に向いているのは彼女かもしれない程だ。
「……それは分からないでしょう。勝負というのは、やってみなくては結果は分かりません。それはスポーツでも、この戦いにとっても同じ事です。私たちは、見守るしか無いでしょう。彼が、どの道を選ぶのかを――」
「ええ、そうね」
私はそう頷くと、彼女は黙って一枚の封筒を差し出して来た。
それを受け取った私は、その中身と内容に苛立ちを見せる事になったのだった――。




