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夢か真か~過去の記憶が未来を変える?~大橋秀人さんへのクリプロギフト

作者: 日下部良介

 仕事納めのこの日、得意先への挨拶まわりがようやく終わった。社に戻ると、既に納会が始まっていた。

「大橋、お前も早く来いよ」

「悪い、悪い。お待たせ」

「お疲れ」

 手渡された紙コップに日下部がビールを注ぐ。

「じゃあ、改めて乾杯!」

 外はまだ明るい。こんな時間から飲むのは久しぶりだ。明日から年末年始休暇が始まる。寿司桶に残った寿司をつまむ。そこそこに腹を打とらせて再びビールを飲む。年に一度、この納会の日だけは社員一同が顔を揃えて酒を飲む。それでも若い社員たちは食うものを食ったら遠慮もなく席を立った。

「それじゃあ皆さん、お先に失礼します。よいお年を」

 そんな若い社員に大橋も日下部も苦笑する。


「今年も結局おれたち二人になったな」

 日下部が言った。一人、また一人と社員が帰って行く中、大橋と日下部だけが最後まで飲んでいた。

「仕方ないだろう。みんなそれなりに用事があるんだから」

「俺だって用事はある」

「お前の場合、行く店がまだ開いていないだけだろう」

「どうだ? 今日はお前も付き合えよ」

「ま、明日からゆっくり休めるんだからたまにはいいか」

「いいぞ。そうこなくちゃ」

 二人は後片付けを始めた。嬉しそうな日下部の顔をよそに、大橋の脳裏には角をはやしたか妻の顔が浮かんでいた。消灯を確認して戸締りをした二人は日下部の行きつけの店へ向かった。




 朝の日差しで目を覚ました大橋はボーっとした頭で辺りを見回した。昨夜の記憶がない。日下部と二人で会社を出たところまでは憶えている。その後の記憶が全くなかった。

「あら、起こしちゃった?」

 声のした方を見る。妻が朝食の支度をしている。しかし、大橋は違和感を覚えた。確かに自分の家なのだけれど、今、住んでいる家ではなかった。そこは新婚当初、二人で暮らしていたアパートだった。

「これは夢か?」

「何を言っているの? 起きたなら早く顔を洗って来て。今日はお正月の買い出しに行くんだから」

 大橋はふらつきながら洗面所へ行って鏡を見た。

「なんだって!」

 そこに映っていたのは若いころの自分だった。

「タイムスリップ? まさか…」


 何がどうなっているのか解からないまま、大橋は食事をし、着替えてから妻と二人で近所の商店街へ出掛けた。歳末大売り出しで賑わう商店街で正月用の食材を買っていった。買う度に福引券をもらった。補助券5枚で一回福引が出来る。

「これで5回福引出来るわ。でも、補助券あと1枚でもう1回出来るなあ…。どうしよう…。あと1枚分何か買おうかしら」

「よせよ。どうせ当たんないんだから」

 そこで大橋にはある記憶が頭をよぎった。確か、ここで補助券1枚分の買い物をしなかったせいで1等を逃したんだった。二人の次に福引を回した客が1等を当てた。それを見た妻が大橋に文句を言ってその年の年末年始はずっと口を聞いてもらえなかった。

「いや、やっぱりあと1枚補助券を貰おう」

 そして、二人は福引所へ行った。5回目まではお約束通りポケットティッシュだった。大橋は生唾を飲み込んで運命の6回目を回した。出た。1等の赤い球。温泉旅行ペアご招待。

「すごい!」

 飛び上がって喜ぶ妻。

「マジか? と言うことは…」


 商店街の出口で大橋は立ち止った。

「どうしたの?」

「荷物も多いし、帰りはタクシーにしよう」

「すぐそこじゃない。タクシー代がもったいないわ」

 大橋の記憶に間違いがなければ、家に帰った時に空き巣騒ぎあったはずだ。大橋の部屋も空き巣にあらされていた…。

 二人が家に着くと、ちょうど大橋の部屋のドアをこじ開けようとしている空き巣を見つけた。

「おい! 何をしている」

 驚いた空き巣はすぐに逃げ出したが、大橋は空き巣に掴みかかると地面に倒して馬乗りになった。

「早く警察に通報しろ」

 大橋の機転で、空き巣は間もなく駆け付けた警官に連行された。

「今日のあなたは神がかり的ね」

 妻から尊敬の眼差しを向けられた大橋は得意満面に笑みを浮かべた。おかげで最悪の年末年始は最高の年末年始に変わった。




 目覚ましのアラームで目を覚ました大橋は辺りを見回して呟いた。

「やっぱり夢か…」

 そこはいつもの自分の家だった。ところが、着替えてダイニングへ行くと見知らぬ子供が居る。

「お父さん、おはよう。今日からお仕事だよね。頑張ってね」

 その子はそう言うと、当たり前のように大橋の家族と一緒に食事をしていた。何がどうなっているのか解からないまま大橋は出社した。会社に着くと日下部に尋ねた。

「なあ、日下部。うちに何人子供が居るか知っているか」

「何を今更。三人だろう。特にいちばん上の子は福引で当った温泉旅行で出来た子だって何度ものろけを聞かされたじゃないか」

 それを聞いた大橋は唖然とした。大橋がやったことで未来が変わっている。その日の退社後、会社の前で大橋は見覚えのある顔に出会った。その男はナイフを持って大橋の方へ走って来た。あの時の空き巣…。




 妻の声で大橋は目を覚ました。辺りを見回すとそこは…。





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― 新着の感想 ―
[一言] なんかラッキーと軽く読んでいたら、まさかの展開ですか? 何が本当で何が幻なのかわからない! とにかく、穏便が一番です(笑) お返しありがとうございました。 楽しませていただきました。 …
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