最弱の種族その六
どうすればいい…?
この状況、十四年前と同じだ。
あの時は、何も出来なかった…
いや、何もしなかった。
「出来なかった」なんてセリフは、やったやつが言えるんだ。
僕は出来るだろうか?
いや、出来ない。
「ここまでのようだな、小僧。最期までお前の正体を知ることは無かったが、そこそこ退屈しのぎにはなったぞ」
「はは、そうかい」
「我々に逆らった罰だ、お前の一番大切な、命を貰おう!」
「そのセリフ、まだ早いみたいだぜ」
「何だ?命乞いでもするつもりなのか?」
「後ろ見てみろよ」
次の瞬間、テリーヤも、村人も、皆目を疑っただろう。
僕はテリーヤに影を落としていた。
「うおおあああああ!」
「何!?」
僕はテリーヤに飛びかかり、両手でガッチリとしがみついた。
「ダイィ!助けに来たっ!」
「おう!待ってたぜ!」
熱い熱い熱い。そりゃそうか、コイツ燃えてんだもんな。
ダイ、こんな熱い思いまでして、戦ってくれてたのか。
「貴様なんの真似だ!?」
「決まってるだろ!お前をぶっ飛ばしに来たんだよ!」
「キュウリ族が!笑わせるな!」
テリーヤは僕を振り落とそうと体を振る。
ダイはテリーヤの意識が僕に集中しているうちに、自分を抑えていた手足を振りほどいて、テリーヤの腹部に蹴りを入れる。
「ぐおあ!」
「よっしゃぁ!やっと一発!」
「黙っとれ!」
テリーヤはダイを蹴り飛ばす。
「ダイ!」
ダイは店の柱にぶち当たる。
「よくもダイを!」
テリーヤは体を回転させるが、僕はまだしがみつく。
「キュータロウやめなさい!」
「キューちゃん!」
「キュータロウ君!」
「おじさん!皆!ダメだ、この手は離せない!」
「何故だ!?君を助けて死んだ、お父さんとお母さんの行為を無駄にする気か!?」
「確かに、ここで死んだら、僕は父さんと母さんに会わせる顔が無い…でも!でもね、これ以上目の前で誰かが死んだら僕は生きていけない!」
「キュータロウ…」
「だから、僕はダイを死なせない!僕も死なない!」
この命は、救われた命だ。命が犠牲になって救われた命なんだ。だから、犠牲を払って救われるのは、二度とごめんだ。そしてもちろん、この命は犠牲にはならない。
犠牲になるべきは…
「見ていただけの僕は今死んだ!」
この時、僕とテリーヤが密着している部分から、大量の蒸気が噴出した。
「!?」
「なんだこれ」
「貴様何を!?」
「僕にもわからん」
僕は思わず手を離してしまい、テリーヤに振りとばされた。
「やっぱりだな」
「ダイ?怪我は?」
「大丈夫だ、お前が助けてくれたからな」
「そうか、それよりやっぱりってなんだ」
「この蒸気だよ。これはお前がやったんだ」
「え?」
テリーヤの体からは、まだ少し蒸気が上がっており、不思議なことに、温度上昇によって燃え上がっていた、全身の火が消えていた。
まるで、火に水をかけたように。
「これは!貴様何をしてくれた!?」
「温度降下さ、キュータロウのな」
「なんだって?僕の?」
「ああ、キュウリ族は野菜類の中でも栄養価が一番低い。種族の強さとは栄養価によって決まる。ゆえに最弱。しかし、キュウリ族は栄養価が低い代わりに、膨大な水分が含まれる。そして、その水分を放出し、相手の体温を奪うのが、温度降下」
「肉類の能力と、対をなす能力…ってこのなのか?」
「そうだ。待っていたぞ。お前がこの能力を発動させるのを」
「馬鹿な!俺はこの十数年、幾人ものキュウリ族を殺してきたが、そんな能力を使ったやつは一人もいなかったぞ」
「そりゃそうさ、お前に殺された奴らは、ただ殺されていったんだからな。こういう能力ってのは、勇気を持って戦わないと、発動しないもんさ。もちろん、個人差はあるけどな」
知らなかった、僕らにそんな能力があったなんて。
「貴様、キュウリ族でも無いくせに、何故そんなことを知っている?一体誰だ?」
「そうだな、前半戦はお前に取られちまったからな、いいだろう、教えてやる」
そうだ、命をかけて助けたけれど、僕はまだこいつの種族すら知らなかったんだ。
「俺は穀物類大豆族、名はダイ!」
「「!!」」
「なるほど、大豆か、大豆は畑の肉と言われるほど、栄養価が高い。これで俺の手下を倒した理由がわかった」
「そして、革命組織ベジタリアンの一員!」
「ベジタリアンだと!?」
「そうさ、お前らみたいな、野菜類を脅し、殺し、奪う連中から、人々を救う組織さ!」
なるほど、見たことのない種族だと思えば、野菜でなく、穀物だったのか…
それに革命組織って…君は本当にいつも僕を驚かしてくれるな。
「さぁ、重大発表も済んだことだし、後半戦いっとこうか!」
「ふははは!そうか、貴様は大豆族だったか…しかしなぁ!貴様が野菜だろうが、穀物だろうが、肉には敵わんのだよ!」
「それはどうかな?いくぜキュータロウ!」
「ああ、ダイ!今ならいけそうな気がする」
「来い!ぶち殺してやる」
「「うおああああああ!!」」
僕とダイはテリーヤに飛びかかった。
ダイとテリーヤの動きはとてもじゃないが、速すぎて僕には追いつけなかった。
しかし、僕は温度降下でテリーヤを冷やしまくった。
肉類は温度が上がるほど身体能力が高くなる。逆に温度が下がると身体能力も下がる。
テリーヤと僕とでは、戦闘能力にかなりの差がある。僕がテリーヤ並の戦闘能力を手に入れるのは、一生かけても無理がある。
しかし、相手を自分の位置までずり下げることはできる。
「テリーヤ!お前には底辺まで落ちてもらうぞ!」
テリーヤの動きが鈍くなってきた。
ダイは畳み掛ける。
「勝てる!勝てるぞ!」
「いけぇ!ダイ君、キュータロウ!」
「勝って、勝って自由を取り戻してくれ!」
村人からのエールが僕らの力になる。
あと少しだ、勝てる。いける。
「うおおりゃぁ!」
ダイ拳が入る入る。
「キュータロウ!トドメだ!お前がやれ!」
「わかった!」
テリーヤはもう虫の息である。
「テリーヤ、十四年前言っていたな、お前の一番大切なモノを差し出せと、その言葉そっくりそのまま返してやるぜ!」
そうだ、こいつからも貰わなきゃな。
「お前の大切なモノをもらう、今ある命じゃない!もっと大切なもの…未来だ!」
そうだ、命だけじゃ足りない。
「未来を持たず生きろ!テリーヤ!」
僕は重い拳をフルスイングした。
十四年間叶えたかった願望を、現実にした。