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菜弱者の革命  作者: 眼鏡をかけたパイナップル
6/15

最弱の種族その六

どうすればいい…?


この状況、十四年前と同じだ。


あの時は、何も出来なかった…


いや、何もしなかった。


「出来なかった」なんてセリフは、やったやつが言えるんだ。


僕は出来るだろうか?


いや、出来ない。


「ここまでのようだな、小僧。最期までお前の正体を知ることは無かったが、そこそこ退屈しのぎにはなったぞ」


「はは、そうかい」


「我々に逆らった罰だ、お前の一番大切な、命を貰おう!」


「そのセリフ、まだ早いみたいだぜ」


「何だ?命乞いでもするつもりなのか?」


「後ろ見てみろよ」


次の瞬間、テリーヤも、村人も、皆目を疑っただろう。


僕はテリーヤに影を落としていた。


「うおおあああああ!」


「何!?」


僕はテリーヤに飛びかかり、両手でガッチリとしがみついた。


「ダイィ!助けに来たっ!」


「おう!待ってたぜ!」


熱い熱い熱い。そりゃそうか、コイツ燃えてんだもんな。


ダイ、こんな熱い思いまでして、戦ってくれてたのか。


「貴様なんの真似だ!?」


「決まってるだろ!お前をぶっ飛ばしに来たんだよ!」


「キュウリ族が!笑わせるな!」


テリーヤは僕を振り落とそうと体を振る。


ダイはテリーヤの意識が僕に集中しているうちに、自分を抑えていた手足を振りほどいて、テリーヤの腹部に蹴りを入れる。


「ぐおあ!」


「よっしゃぁ!やっと一発!」


「黙っとれ!」


テリーヤはダイを蹴り飛ばす。


「ダイ!」


ダイは店の柱にぶち当たる。


「よくもダイを!」


テリーヤは体を回転させるが、僕はまだしがみつく。


「キュータロウやめなさい!」


「キューちゃん!」


「キュータロウ君!」


「おじさん!皆!ダメだ、この手は離せない!」


「何故だ!?君を助けて死んだ、お父さんとお母さんの行為を無駄にする気か!?」


「確かに、ここで死んだら、僕は父さんと母さんに会わせる顔が無い…でも!でもね、これ以上目の前で誰かが死んだら僕は生きていけない!」


「キュータロウ…」


「だから、僕はダイを死なせない!僕も死なない!」


この命は、救われた命だ。命が犠牲になって救われた命なんだ。だから、犠牲を払って救われるのは、二度とごめんだ。そしてもちろん、この命は犠牲にはならない。

犠牲になるべきは…


「見ていただけの僕は今死んだ!」


この時、僕とテリーヤが密着している部分から、大量の蒸気が噴出した。


「!?」


「なんだこれ」


「貴様何を!?」


「僕にもわからん」


僕は思わず手を離してしまい、テリーヤに振りとばされた。


「やっぱりだな」


「ダイ?怪我は?」


「大丈夫だ、お前が助けてくれたからな」


「そうか、それよりやっぱりってなんだ」


「この蒸気だよ。これはお前がやったんだ」


「え?」


テリーヤの体からは、まだ少し蒸気が上がっており、不思議なことに、温度上昇(ヒートアップ)によって燃え上がっていた、全身の火が消えていた。

まるで、火に水をかけたように。


「これは!貴様何をしてくれた!?」


温度降下(クールダウン)さ、キュータロウのな」


「なんだって?僕の?」


「ああ、キュウリ族は野菜類の中でも栄養価が一番低い。種族の強さとは栄養価によって決まる。ゆえに最弱。しかし、キュウリ族は栄養価が低い代わりに、膨大な水分が含まれる。そして、その水分を放出し、相手の体温を奪うのが、温度降下(クールダウン)


「肉類の能力と、対をなす能力…ってこのなのか?」


「そうだ。待っていたぞ。お前がこの能力を発動させるのを」


「馬鹿な!俺はこの十数年、幾人ものキュウリ族を殺してきたが、そんな能力を使ったやつは一人もいなかったぞ」


「そりゃそうさ、お前に殺された奴らは、ただ殺されていったんだからな。こういう能力ってのは、勇気を持って戦わないと、発動しないもんさ。もちろん、個人差はあるけどな」


知らなかった、僕らにそんな能力があったなんて。


「貴様、キュウリ族でも無いくせに、何故そんなことを知っている?一体誰だ?」


「そうだな、前半戦はお前に取られちまったからな、いいだろう、教えてやる」


そうだ、命をかけて助けたけれど、僕はまだこいつの種族すら知らなかったんだ。


「俺は穀物類大豆族、名はダイ!」


「「!!」」


「なるほど、大豆か、大豆は畑の肉と言われるほど、栄養価が高い。これで俺の手下を倒した理由がわかった」


「そして、革命組織ベジタリアンの一員!」


「ベジタリアンだと!?」


「そうさ、お前らみたいな、野菜類を脅し、殺し、奪う連中から、人々を救う組織さ!」


なるほど、見たことのない種族だと思えば、野菜でなく、穀物だったのか…

それに革命組織って…君は本当にいつも僕を驚かしてくれるな。


「さぁ、重大発表も済んだことだし、後半戦いっとこうか!」


「ふははは!そうか、貴様は大豆族だったか…しかしなぁ!貴様が野菜だろうが、穀物だろうが、肉には敵わんのだよ!」


「それはどうかな?いくぜキュータロウ!」


「ああ、ダイ!今ならいけそうな気がする」


「来い!ぶち殺してやる」


「「うおああああああ!!」」


僕とダイはテリーヤに飛びかかった。


ダイとテリーヤの動きはとてもじゃないが、速すぎて僕には追いつけなかった。

しかし、僕は温度降下(クールダウン)でテリーヤを冷やしまくった。


肉類は温度が上がるほど身体能力が高くなる。逆に温度が下がると身体能力も下がる。


テリーヤと僕とでは、戦闘能力にかなりの差がある。僕がテリーヤ並の戦闘能力を手に入れるのは、一生かけても無理がある。

しかし、相手を自分の位置までずり下げることはできる。


「テリーヤ!お前には底辺まで落ちてもらうぞ!」


テリーヤの動きが鈍くなってきた。


ダイは畳み掛ける。


「勝てる!勝てるぞ!」


「いけぇ!ダイ君、キュータロウ!」


「勝って、勝って自由を取り戻してくれ!」


村人からのエールが僕らの力になる。


あと少しだ、勝てる。いける。


「うおおりゃぁ!」


ダイ拳が入る入る。


「キュータロウ!トドメだ!お前がやれ!」


「わかった!」


テリーヤはもう虫の息である。


「テリーヤ、十四年前言っていたな、お前の一番大切なモノを差し出せと、その言葉そっくりそのまま返してやるぜ!」


そうだ、こいつからも貰わなきゃな。


「お前の大切なモノをもらう、今ある命じゃない!もっと大切なもの…未来だ!」


そうだ、命だけじゃ足りない。


「未来を持たず生きろ!テリーヤ!」


挿絵(By みてみん)


僕は重い拳をフルスイングした。


十四年間叶えたかった願望を、現実にした。

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