最弱の種族その五
「肉類鶏族テリーヤ参る!」
「来いよチキン野郎!」
戦いが始まった。
「あんた、別世界を体感させてやるとか言ってたな。その言葉そっくりそのまま返してやるぜ!」
来いよとかいうセリフから、僕はダイがさっきのように様子見からスタートするものだと思ったが、その予想に反しダイは序盤から攻めた。
「こっちはさっきの戦いで、割と体力消費してんだ。一気にきめさせてもらう」
「ふん、その自信はよし。かかってこい!」
カウンター以外でダイの攻撃を見るのは初めてだ。
どう攻める?
「くらえ!」
ダイは何のひねりも無く、普通に飛び蹴り。
そして普通に防がれる。
「なんだそんなものか」
テリーヤもすかさず攻撃。
ダイはひらりとかわし、カウンターを仕掛ける。
互角の攻防である。
「おお、アイツ、あのテリーヤと互角に戦ってやがる」
「ひょっとしたら本当に勝てるかも」
ギャラリーが燃え上がる。
しかしダメだ、今のテリーヤと互角なようでは…アレを使われたら殺られる…!
「やっぱりボスってだけあって、他とかとは違うな」
「ふん、だから別世界だと言ったろう?しかしな、お前はまだその入口に立っているだけで、真の俺の力を知らない」
「なんだと?」
真の力…テリーヤの余裕の表情を見るにやはりアレが使えるのか!?
「お前まだ本気出してないのか?」
「最初から本気を出したら、すぐに決着がついて面白くなかろう?」
「出せよ早く。おれはまだまだいけるぜ?」
「ふん、よかろう。だいぶ早い気もするが、見せてやる。肉類の力をな!」
テリーヤは上半身の服を全て脱ぎ捨て、腰を低く構えた。
辺がしんとし、テリーヤに注目する。
「温度上昇・第一段階!!」
テリーヤの体の所々が赤く光り、ジュウジュウと音を立てて熱気が上がる。
くっ、やはりか…!
「そいつは…」
ダイは驚く。
「何だあれ!?」
「体が…燃えてんのか?」
ギャラリーも驚く。
あれだ、あれなんだ、あれこそが、野菜類が肉類に勝てない真の理由…
温度上昇とは、肉類のーそれも戦いなれた者だけが使える、特殊能力である。
自らの体に火を通し、身体能力を向上させる能力。
「ダメだダイ!温度上昇がある限り、肉類でないお前に勝ち目はない!」
「ふん、やってみないとわかんないぜ?俺は2回もお前の想像を超えてきた。そうだろ?」
「でも…」
「勝てるさ、俺の期待どうりの男ならな」
そう言うと、ダイはテリーヤに飛びかかる。
期待どうりの男?テリーヤが?それとも自分が?
ダイは強烈な蹴りを放つが、テリーヤは放たれたダイの足を掴んで止めた。
「んぁ!熱っ!!」
「遅い!おそぉーい!」
ダイはそのまま振り回され、投げ飛ばされる。
店の前にあるタルの山にダイブし、イテテと起き上がる。
やはりダメか…
「くっそう、思っていた以上に速いな。それに火が通ってるから、体が熱い」
ダイは走り出し、また仕掛ける。
「これならどうだ!」
小柄な体格を生かし、スライディングでテリーヤの股を抜け、後ろに回り込む。
「ぶちかましてやる!」
ダイが1発きめるかと思った次の瞬間。高速のテリーヤの後ろ回し蹴りが炸裂する。
「遅いと言っている」
ダイはまたもや飛ばされ地を滑る。
「ちくしょ……んな!?」
驚くことに、ダイが立ち上がろうとした時には、テリーヤは既にダイの眼前まだ迫っていた。
ダイは腕を捕まれ地面に押さえつけられた。
足で攻撃しようとするも、それも抑えられ身動き出来ない状態に…
「しまった…!」
「ふはは!滑稽だなぁ!さっきまであんなに自信満々だったヤツが!」
「おいおい、やばいぜ…」
「まさに手も足も出らんと言った状況だな!さぁ、どうするんだ!?」
やばい!ダイが!
「ダイ!」
「へへ、心配するなキュータロウ!ちょいと危機的状況だが、想定内さ」
あいつ、何であんなに余裕な態度でいられるんだ?
テリーヤはさらに力を加え、地面にヒビが入る程の力で押さえつける」
「ぶはは!何が想定内だ。この状況でどうしようっていうんだ?」
「ふん、信じてんだよ!俺は!」
「何をだ?自分の力をか?残念だが、お前の力が倍になろうと、俺には勝てん!」
ダイ…一体何を考えてる…?
「悪いがそろそろ終わりにさせてもらおう」
やばい…殺される…また、目の前で…
どうしよう…
どうすればいい…?
教えてくれ、父さん…母さん…
僕はどうすれば…