最弱の種族その四
デニス&スレンスコンビ再起不能。
ダイ完全勝利。
「おい、あの子供鶏に勝ったぞ」
「ああ、しかも相手は2人だった」
「もしかしたらこれ、いけるんじゃないのか?」
ダイは鶏族のNo.2に勝った。この事実はキュウリ族の人々にとって、テリーヤを倒し自由を取り戻す希望となりつつあった。
「ふ、ふふ、ふはははははははっ!」
急にテリーヤが不気味に笑い出した。
「やりおるなぁ、チビすけ!やはりそう来なくては!」
「次はあんたの番だぜ。テキーラさんよぉ」
「いや、テリーヤだ。流石に俺の名前は間違えるな」
あの馬鹿…
「まぁ、そんなことはいい。問題はお前が俺様をどこまで楽しませることが出来るかということだ」
「へぇ、負けるって可能性は頭に無いわけだ。気をつけだ方がいいぜ。さっきも言ったが、戦いはそういう心が敗因になる。誰に殺られっか分かったもんじゃないぜ」
じゃぁ、ダイはいつも負けるリスクーすなわち殺されるリスクをわかった上で戦ってるのか?
僕を助けた時も…?
「それにさ、No.2があの程度なら、いくらトップって言ったって、あんたの実力はたかが知れてるんじゃないのか?」
「ふっ、心配するな。俺と奴らとでは決定的に違う部分がある。別世界を体感させてやるよ」
そう言ってテリーヤは前に出る。
ここまで近くで見るのは何年ぶりだろう…
いや、父さんと母さんが殺されて以来1度も見てなかったっけ…
14年前か…
□◾□
それは特別な日、母さんと夜のパーティーに必要なものを買いに行った帰りの事だった…
「お母さん!今日のパーティーには誰を呼んだの?」
「たくさん呼んだわ。テディも、チャーリーも、ほかのお友達も、それともしかしたら村長さんも来てくれるかも」
「え!?ホントに!?」
「ええ、ホントよ。だってあなたの誕生日なんですもの」
「やったぁ!」
僕は母さんが大好きだった。とっても優しい母さんが…
「お母さん、それ、重くない?」
「うん、いっぱい買ったからねぇ。少し重いかしら」
「なら僕が持つよ!」
「え?でも持てるの?」
「大丈夫、今日僕は4歳になるんだ。これくらい持って当然さ」
「そう、なら……でもやっぱりお母さんが持とうか?キューちゃん結構きつそうだし」
「だ、大丈夫大丈夫このくらい。ほら、これくらい持ってても走ることだって出来るんだ」
「あ、こら、待って!急に走り出したら危ない!前を見なさい!」
「あっ!」
そして僕は母さんの忠告も虚しく、人とぶつかる。
普通の人ならここで「ごめんなさい」で済むのだろうが、僕がぶつかったのはよりにも寄って、この村の鶏族のリーダー、テリーヤだった。
「おいおいおいおい!このガキャァ、何してくれとんのじゃ!」
「お前これ、テリーヤ様の大事な服汚してもうとるやないか!」
テリーヤは2人の部下を連れていた。
「すいません!私が不注意なばっかりにウチの子が…!」
「おい女、ごめんで済むなら切腹なんて言葉はねぇんだぜ。どうされましょう?テリーヤ様?」
「どうか命だけは…」
「そうか、命だけは…か」
テリーヤは僕達をじっと見つめニヤリと笑った。
「ならば、命を貰おう」
「!!」
「人に謝る時は誠心誠意だよな。自分が1番大切にしているものを差し出すくらいのな。だから命をもらう」
テリーヤは残酷だった。
「坊主お前の一番大切なものは何だ?母親か?ならその大好きな母の命を貰うとしよう」
「私、だけですか?」
「ああ、そうだ。子供の方はあえて生かす」
「そうですか」
お母さん?お母さん何でそんなに「よかった」って顔してんだよ…
このままじゃ殺されちゃうよ!?
「やれ」
ねぇ、誰か助けて。
僕のお母さんが大変なんだ。
誰でもいい。
助けてくれたら何だってする。
だから、お願いだ…
僕は、母さんが殺されるのを黙って見ていた。
瞬き一つせず、涙の一滴も流すことなく。
母さんは倒れ、鶏共は去って行った。
「行ったようだな」
「大丈夫か!?」
「これは酷い、瀕死の状態だ」
鶏共が去っていくのを見て村人達が群がってきた。
「ボク、大丈夫かい?」
「…んで…よ…」
「え?」
「なんでだよ!何で僕の母さんを助けてくれなかったんだ!」
「………」
その大人は目をそらした。
「君と同じさ」
「僕と同じ?あなた方は大人じゃないですか」
「でも、君と同じくキュウリ族…鶏族には勝てない」
「だからずっと僕のお母さんが殺されるのを、ただ見ていたんですか」
「…そうだ」
その瞬間、僕は生まれの不幸を呪った。
程なくして、村長と父さんが駆けつけた。
「ミラ!おいミラ!しっかりしろ!」
「むぅ、もう意識が…まだ微かに息はしとるようだが…」
「くっ…」
「お父さん…ごめんなさい…僕、見てることしか…」
「いや、いいんだ、お前のせいじゃない。それよりお前だけでも無事でよかった」
父さんは僕を強く抱き締め、泣いた。
村長も村のみんなも下を向くばかりだ。
しばらくして父さんは顔色を変え、立ち上がった。
「おい、アラン、どこへ行く気だ。まさかテリーヤの所ではないだろうな」
「止めてくれるなよ村長。俺はこの気持ちを…悲しみと殺意を!テリーヤにぶつけないと気がすまん!」
「お前も殺されるぞ」
「構わん!」
「息子は?」
「弟が面倒を見る」
「そんな…だめだよせ!」
村長の忠告を聞かずに父さんは行った。
他の村人も止めたが、それを振り払って行った。
僕は父さんが大好きだった。いつも頼りになる父さんが…
次の日、路地で父さんが瀕死の状態で見つかった。
そして僕は、自由であることを諦めた。
□◾□