最弱の種族その三
「邪魔させてもらうぜぇ」
そう言ってドスドス入ってきたのは、この村の鶏族の親玉ーテリーヤだ。
僕の両親を殺した男だ。
テリーヤは親玉というだけあって、体格は相当なものだ。
身長は並の1.2倍くらい。衣服の上からでもわかる程の鍛えあげられた筋肉。
その姿を見て店内がざわつき、恐れおののく。
キュージンおじさんはテリーヤの前に慌てて飛び出した。
「テ、テリーヤ殿、この度はどういうご要件で?」
「いやな、今朝ウチのモンが傷を負って帰ってきおってな。どうやら、何処の馬の骨かも知らんよそ者にやられたらしい」
僕とおじさんは、ギクリとなって冷や汗を流す。
「はぁ、そうなのですねぇ…」
「それでな、どうやらこの店にそのよそ者がおるらしいのだが…」
テリーヤは店内をギロリと見渡す。
「さぁ出てきたらどうかね?いるのはわかっている」
ダイはその呼びかけに応じ、出ていこうとするので「流石にあれはやばい」と止めた。しかし、ダイは掴んだ僕の手を振り払って、テリーヤの前に出た。
「やったのは俺だ」
「そうかこのチビが」
両者睨む。
「今朝は手下が随分と世話になったな」
「いやいや、天下の肉類と手合わせ出来て楽しかったぜ。おかげで最近なまってた体が少しはマシになった」
「それはお役に立てて嬉しいよ」
「でも手下の育成は、ちゃんとしといた方がいいぜ。あの2人雑魚だったから」
手下2人の眉間にシワがよった。
しかし、テリーヤは逆にニヤリと不気味に笑った。
「フハハ、それは悪かったな。実は今朝のふたりはウチの中でも1番下っ端なのよ」
馬鹿な、ダイに負けたとは言え、奴ら相当強そうだった。アレで1番下っ端なんて…
「実は外にもう2人部下を連れて来ていて、外に待たせてあるんだ。こいつら2人みたいな雑魚とは違う、ウチのNo.2だ」
テリーヤは親指で店の外を指した。
「さぁ、表に出てもらおうか」
「俺がお前の言う通りにする理由がどこにある」
ダイはかなり挑発的な態度を取っている。
「お前分かってねぇなぁ…理由なんて必要ねぇ!あるとすりゃそれは俺の命令だからだ!」
テリーヤは額に血管を浮かせる。
「支配者は縄張りの秩序を守らねばならん。お前みたいなよそ者ーそれも肉類でない者に好き勝手されて、黙っているわけには行かないんだよ」
テリーヤは再び外をさして言う。
「さぁ、表にでろ!再起不能にしてやる」
ダイは「ハイハイ」と軽い感じて応じ、外に出ようとする。
「ダイ…!」
「大丈夫だ。心配するなよキュータロウ」
僕はダイの余裕な表情を見て、色々と疑問だった。
テリーヤと部下に続いてダイが外に出て、僕もそれに続いて急いで外に出た。
店内の客も恐る恐る外を見る。
外で待っていた鶏族2人が、ヘラヘラとした態度で出迎えてくれた。
「こいつらか、No.2ってのは。今朝のヤツらと何が違うってんだ?」
ダイが鈍感なだけで、他の皆はそいつらが今朝のとは明がに違うことが一目でわかった。
オーラが明らかに違うのだ。
「デニスとスレンスだ。こいつらは今朝のとは格が違うぞ」
この2人、デニスとスレンスらしいが、正直どっちがどっちかわからん。
というのも、鶏族は、どいつもこいつも、顔の違いがハッキリせずどれも同じやつに見えるのだ。
「どっちがテニスでどっちがフレンズなんだ?全くわからん。もっと言えば今朝のやつとの違いもわからんぞ」
「デニスとスレンスだ!よく聞いとけチビ!」
こんな状況でもあの馬鹿は馬鹿正直なのか…
名前間違ってるしな。
「俺がデニスだ」
「俺がスレンスだ」
ご丁寧に2人とも名乗ってくれた。
でも戦いが始まれば直ぐにどっちがどっちだか分からなくなるんだろうな。
「気になってたんだが、なんでNo.2が2人もいる?この2人全く同じ実力った事か?」
「まぁ、間違ってはないな。しかし、理由はそれだけじゃない」
「はぁん?」
「戦えばわかるさ」
鶏共はニヤニヤしている。
「こちら名乗った。貴様にも名乗って貰おうか」
ダイはオホンと咳払いし名乗り始める。
「俺の名はダイ。種族は…そうだな、こいつら2人が俺に勝ったら教えてやる」
「チッ、どこまでも舐め腐りおる男よ」
テリーヤはまたも顔を顰める。
「さぁ!お前らやってしまえ!このよそ者のクズを見せしめにするのだ!」
「はっ!」
テリーヤの命令で戦いが始まった。
最初に仕掛けたのは鶏共。
2人はダイを挟み撃ちにするように左右から仕掛ける。
「さぁ来い」
左側から拳が飛んできた。
ダイはそれを当然のごとくスルリとかわす。しかし、避けた方向から、もう1人のパンチ。それもかわすが、また交わした方向からパンチ。
そう、鶏の2人はダイが避ける方向を予測して…いや、誘導して拳を放っている。
通常、格闘戦は2対1でも味方同士に拳が当たらないようにーすなわち、フレンドリーファイアが起きないように、2人の同時攻撃はさけ、片方づつ交代しながら相手に仕掛けるのがセオリーである。
しかし、この2人片方づつではなく、同時攻撃で攻めてくる。
何故No.2が2人いるのかわかった。No.2が2人いるのではない。この2人のコンビこそNo.2。個々ではなくこのツーマンセルが相手側で2番目の戦闘力を誇る。
なるほど、今朝とは格が違うと言ったがまさにその通りだ。
さぁ、どうする?ダイー
2人の攻撃は休むことなくダイに襲いかかる。
ダイは拳をギリギリでかわす。
「なるほど、確かに今朝の2人とは、戦闘力技術がまるで違うな」
「お褒めの言葉ありがとう」
「しかし、いつまでそうやって喋っていられるかな?」
二人組の攻撃速度が上がる。
ダイはただひたすら避ける。
「どうしたどうした?避けるだけじゃ戦いにならんぞ」
「俺達の攻撃が速すぎて、反撃のスキがないのか?」
「だが、これ以上速くなれば避けることすら出来なくなるぞ」
「お前相当調子こいてたからなぁ。少しは粘ってもらわんと困るぜ」
攻撃と同時に二人組ならではの、ウザイ交互の語りかけで精神的に攻めてくる。
「さぁどうした!こんなのもか?攻めてこないと面白くないじゃないか!」
「どうせこの程度だったんだよ、こいつは。とんだ期待ハズレだ。終わらせてやる」
一方的な戦いに飽きた2人は、勝負を終わらせに来た。
やはりダイでもとてもじゃないが太刀打ち出来なかったか。
やはり肉類には…
「なるほどなるほど。確かに一方的なのは面白くないよな」
ほんの少しの間珍しく大人しかったダイが口を開いた。
「ちと長すぎた気はするが、リサーチはこれで終わりだ」
「!?」
「なに…リサーチだと?」
ダイのヤツ…こいつらの戦闘力を測るため、今までわざと反撃しなかったのか。
まさかそこまでの余裕があるとは…
「舐めたこと抜かすなよ!このチビ!」
「リサーチがなんだ?反撃のスキが無いことには変わりない。いくら調べても俺達の攻撃は緩まない!」
ダイが余裕を見せてしまったもんだから、鶏共の攻撃がいっそう激しくなった。
しかし、それでもダイの涼しい顔は崩れない。
「反撃のスキが無いだと?そっちこそ、舐めたこと言ってんじゃねぇよ」
「なんだと?」
「スキはあるんだぜ…」
ダイそう言うと、ガラリとは雰囲気を変えた。
「ほらよ!」
ダイは繰り出されたパンチを、もうひとりの方に受け流した。
「何!?」
「しまった!」
鶏共は予想外の自体に驚いた。
そしてダイがそのスキを見逃す訳もなくー
「ハァッ!!」
短めの片腕ラッシュで、よろめいた2人組を吹っ飛ばした。
「そんな!」
「どういう事だ!?」
「いやいや、簡単な事さ」
凄い。さっきまで押されてばかりだったのに…
「お前らコンビの持ち味はスピードだ。2人の同時攻撃による圧倒的なスピード…そう言えば聞こえはいいが、そんな大したものじゃねぇ」
鶏共は立ち上がって話を聞く。
「お前らの戦法はスピード戦法と言うよりかは、スキのない戦法だ。1人が攻撃して次の攻撃をするまでのスキを、もう1人が埋めていると言うだけ。」
なんて事だ、あの馬鹿が冷静に分析してやがる。
「だが、この戦法はスキを埋めたばっかりに、別の場所に大きなスキを作っちまった。心のスキだよ」
「心のスキだと?」
「そうさ、自分のスキを相方が埋めてくれているという安心ーそれがこの戦法の最大のスキ」
「!!」
「戦いにおいて、安心感は自らの注意力を殺す。だから、想像していない事態に対しては対処出来ない。お前らを見るに、この戦法で幾多の修羅場を勝ち進んできた様だな。しかし、過去の栄光というものは、長ければ長いほど安心感を与える。『今まで自分はコレで勝ってきた』『俺たちならやれる』という安心感」
「くっ、なるほどな…」
「後はスキをつけば簡単さ、お前俺が反撃しないもんだから、反撃出来ないものと勘違いしただろ。その油断もスキだ。まぁ、お前らが油断してくれなくたって、良かったんだけどな。お前らのパンチのろいから」
「くっ、クソッタレが!舐めるなよ、まだ俺達は負けてない!」
「ぶっ殺す!」
あまりにも完璧なダイの分析に、鶏族はプッツンし襲いかかってきた。
「諦めな!」
そう言うとダイは鶏共を上回るスピードで脚を動かし、自分達3人が一直線に並ぶ位置に移動した。
「お前らじゃ俺には勝てねぇよ!」
ダイは鶏に拳を打ち込み、後ろのもう1人ごと一気にぶっ飛ばした。
もちろん2人とも再起不能。
「はぁ全然つまらなかったなぁ…そういや、戦いの中で、どっちがテニスでどっちがフレンズだか、わかんなくなってたな」
いや、だから名前間違ってる…
「「デニスとスレンスだ…」」
2人は最後の力を振り絞って訂正。最後のセリフがこれとは悲しい。
「よーし、軽い準備運動が出来たことだし、ボス戦行っときますかー」
鶏族のNo.2を軽々撃破。
もしかしたらこれ、この調子でテリーヤにも勝てるんじゃないか?
いよいよ注目のボス戦が始まる。
※主人公はダイではなくキュータロウです。