最弱の種族その一
キュウリ属の少年キュータロウは「力の差」というものを再び思い知らされた。
彼は今絶望の真っ最中な訳だが、それがどんな状況かと言うと、鶏族の男に胸座を掴まれて、地面に足がついてない状況だ。
というのも、道の曲がり角でばったり激突してしまい、「おいおい、服が汚れちまったじゃねぇか!」というお決まりの流れである。
野菜類が肉類に勝てるはずは無い。それも野菜類の中でも最弱のキュウリ族が…おまけに相手は2人係だなんて卑怯じゃないか。
どんな最悪な状況でも、誰も助けてはくれない。
大通りのど真ん中だというのに、皆見て見ぬふりして素通りしていく。
でもそれでいい。僕のために他人が傷つく必要は無い。
そんなのもう見たくないんだ…
ああ、やってしまった。
左頬が熱かった。胸座を掴まれる前に1発お見舞いされたからだ。
「離して…くだ…さい」
振り絞って言ったが、思ったより声は出なかった。
「なんだ起きてんじゃねぇか。なんにも言わねぇから、1発で逝っちまったのかと思ったぜ」
「最弱の種族とは言え、1発殴っただけで死ぬわけないでしょ」
2人はヘラヘラとしていやがる。
「おい坊主、お前もうガキじゃねぇからわかるよな?」
「すいません、慰謝料なんて払えません…」
実際、金はあった。というのも、買い物をして急いで帰る途中で鶏にぶつかり、今に至るからだ。
「金はねぇだと?じゃぁお前が持ってたこの品物はなんだ?パーティーでもする気だったか?」
まぁ、そうなるわな。でも、僕が買い物に使った金と、コイツらが請求してる金では、額が違う。
払えっこない。
「ろくに詫びることも出来ねぇやつは、粛正しとかなきゃな」
鶏はニヤリと笑った。
コイツらと僕らの武力の差は絶望的だ。数発殴られただけで病院送りなんてことはザラにある。喧嘩なんてしようものなら、下手すりゃ死ぬ。
「殺してやるなよ」
「努力するさ」
ああ、自分がどんな存在かを忘れて、浮かれているから、こんなことになるんだ。
ちくしょう…コイツら今すぐぶっ飛ばしてやりてぇ…
でも、僕にはそんな度胸も力もない。
鶏の拳が迫ってくる中、頭の中に大量の感情が流れた。
怖い。
痛いのは嫌だ。
死にたくない。
皆なんで何も言わない?
何もしない?
自分の方が大切なんだ。
助けて欲しい。
あの時みたいにーー
拳が見えなくなるくらい顔面に迫ってきて、
次の瞬間ーー
痛みは無かった。
死んだんじゃない。
拳は止まっていた。
「まぁまぁ、そのくらいにしとけよ。事情は知らねぇけどさ、そいつ相当弱ってんじゃん」
聞き覚えのない声が聞こえた。鶏の後ろに小柄の男が立っているのが見えた。男は鶏の腕を掴み止めていた。
助けてくれた…?
「て、テメェ誰だ!何しやがる!」
「鶏でもキュウリでも無いようだが…」
鶏の2人は同様しながらそう言った。
男はフードを被っていて顔がよく見えなかった。
「どの種族だ?」
「その手を離してそいつを解放したら教えてやるよ」
「けっ!どこの誰だか知らねぇが、邪魔するな」
「邪魔なのはお前らだろ、こんな通りのど真ん中で、カツアゲなんてしやがって」
見た目の割にはかなり態度がデカかった。肉類の鶏に向かって、ここまで強気に出るとはー
「なんだこいつ、鶏族の俺らに舐めた口利きやがって。おい、こいつに立場を教えてやれ」
「ああ、力の差ってやつを思い知らせてやる」
さっきまで後ろで見てた方の奴が、男の前まで出てきた。拳を握り睨みつける。
「おら!」
声と共に拳を振ったが、謎の男は小柄な体格を生かして、攻撃を身軽にかわし後ろに回り込んだ。
「何!?」
鶏は目を丸くし、後ろを振り向こうとしたが、次の瞬間には、謎の男の拳が背中に入っていた。
「ば、馬鹿な…」
鶏がよろめく姿を見るのは初めてだ。
「こいつっ…!」
再び鶏が攻撃を仕掛けるも、あっさりとかわされ、今度は腹に食らった。
「おい、何してやがる」
見ていた鶏は僕を掴みあげていた手を離し、僕はその場に膝まづいた。
「こんなチビに何やってんだ!俺がやってやる」
この鶏も攻撃するが、拳は空を切るばかりで、男にかすりもしない。
「なっ…!?」
男は涼しい顔をしている。
「チィっ!ちょこまかしやがって」
「なんで当たらねぇんだ?さてはお前も肉類か!?」
「そんなんじゃねぇよ」
馬鹿な、この世界で肉類と渡り合えるのは、肉類だけのはず!
「一人づつじゃつまんねぇ。どうだ?二人でかかって来いよ」
「そんなに挑発して大丈夫なのか?」
「じゃあ、お望み通りリンチしてやるよ!」
鶏は二人同時に飛びかかった。
男はニヤリと微笑んだかと思うと、2人の攻撃をスレスレでかわし、距離をとる。
「おいおい逃げるなよ」
鶏はまたもや殴りかかるも、これもスレスレでかわされていく。そして、男の余裕な表情は崩れない。
「クソ!舐めた真似しやがって!」
「こいつわざとスレスレで避けてやがんな!」
僕は彼の戦う姿に圧倒された。
「まさか、肉類以外に鶏とここまで戦える奴がいたなんて…」
鶏はパンチ放つもかわされ、蹴りを放つもかわされ、ラッシュを繰り出すも、かわされた。
「なんだ、肉類って言ってもこんなもんか」
男は呆れた声で言った。
「お前らさっき、力の差がどうとか言ってたな。その言葉、そっくりそのまま返すぜ」
そして、攻撃の構えを見せ。攻撃を仕掛けた。
飛びかかったのだろうが、正直その動きは速すぎてよく見えず、鶏達の「ぐはっ!」という声が聞こえただけだった。
鶏達は勢いよく倒れ込んだが、すぐに起き上がり、「覚えてやがれ!」というお決まりのセリフを吐いて、去っていった。
男が僕の方に寄ってきて、初めて顔をよく見る事が出来た。
見たことのない種族だが僕と歳はそう変わらなそうだ。
「大丈夫か?」
彼は僕に手を差し伸べた。
「ありがとう」
僕は手を取って立ち上がった。
「ごめん、助けて貰っているのに何もただ見ているだけで…」
「気にすんな。それより殴られたとこ、大丈夫か?」
「ああ、うん、大したことないよ」
実際、結構大したことあったが、彼の強さに驚くばかりで、それどころでは無かった。
「良かったら家においでよ。店をやってるんだ。お礼に何かご馳走しよう」
「有難い、1戦やって喉が乾いてんだ」
初めて小説書きました!
と言っても小説と言うには、お粗末なものかも知れませんがねw
最初はこんなもんでしょう。
挿絵頑張ります!