第9話
二週間後の日曜日、ふたつ隣の駅で13時ちょうどに待ち合わせだった。薄桃色のフレアスカートをはためかせながらこちらに駆けてくるゆりかに軽く手を挙げたとき、彼女の後ろから見知らぬ男の子がふたり歩いてきていることに気づく。
「こちら、悠くんと隼人くん。こっちは、私の友達のきえ」
ゆりかに紹介されて、仲良さそうに肩を組んでいる男の子たちに緊張しながら頭を下げる。ゆりかはすごく分かりやすい女の子だ。遊園地のチケットを買っている悠くんに向けられたゆりかの目を見てすぐ、二人の内のどちらに片思いしているのか察した。
悠くんはボーダーのTシャツにパーカー、ジーンズというシンプルな格好にもかかわらず何故か見栄えがする。子どもみたいにピュアな笑顔に、かっこいいのにそれを鼻にかけていない性格の良さが透けて見えて、如何にもゆりかの好きそうな無難な男の子だなと思いながら、隼人くんに手渡された二色に混ざったソフトクリームを口に含んだ。
日曜日の遊園地は嫌というほど混んでいた。日本で5つの指に入るとかいうジェットコースターの長蛇の列に並ぶ。切ったばかりの髪の毛先を落ちつかなくいじっていると、悠くんに話しかけられた。
「その髪型、いいね。顔小さいからかな。ショートカット良く似合うね」
「…はあ」
振り向いたゆりかが私をじっと見ていることに気づき、私は肩をすくめた。さっきまでの明るい微笑みが一瞬にして消えている。
悠くんは空気を読まずに、「そんなことないよ。俺、かわいい感じの女の子って苦手だから。ボーイッシュな子の方が付き合いやすいし」と明るく言った。
隼人くんは耳ざとく悠くんの言葉を聞きつけたのか、
「おいおい、悠、きえちゃんのこと狙ってんの?」
「うるせーよ、バカ。今話してんだから割り込んでくんなよ」
「いーじゃんいーじゃん。頑張れよ、俺、応援すっからな」
おどけた口調で囃し立てるように悠くんの背中を叩く。私はゆりかの冷たい目を見るのが怖くて、早くこの時間が終わらないかと思いながら、ジェットコースターがレールに乗って流れていく様子にそっと目を遣った。