第5話
ゆりかへのいじめは一週間後にあっさりとなくなった。
ある日手のひらを返したように、ゆりかの周囲には人が集まるようになった。ゆりかは明らかに安堵したような表情をしており、何人かのクラスメイトに囲まれながら笑っていた。
私はそんなゆりかを遠目に見ながら、「良かったね」とつぶやいた。体育の授業をサボって屋上で過ごしたあの一瞬、彼女と心がつながったような気がしたあの甘く切ない感傷がよみがえってきそうになって、手のひらに爪が刺さるくらいぎゅっと強く握りしめた。
こんなんじゃいけない。友だちが欲しいなんて思っちゃいけない。えりかを殺した私が、誰かを欲しいなんて思っちゃいけない。自分に言い聞かせるように、身体に沁み渡るようにしながら、黒板を書き写したノートに目を落とした。
「きえちゃん」
誰かに名前を呼ばれた気がして顔を上げると、優しい笑みを浮かべたゆりかがこっちを見ていた。廊下側の席に座っていたゆりかが立ち上がって、私めがけて駆けてくる。
「ねえみんな。きえちゃん、私たちのグループに入れてあげようよ。いいでしょ?」
名前も良く覚えていないクラスメイトたちは戸惑いがちに、顔を合わせた。地味で冴えない私をあからさまにバカにするような笑みを浮かべて口々に言う。
「でもこの子、ちょっと暗いし…っていうか、喋ったことないし」
「そうだよ、私たちとは合わないって。この子だって気つかうし疲れるでしょ」
無神経なことを言われているのは分かっていたが、私は表情を変えなかった。それでもゆりかは諦めず、私の方を振り向いてにっこりと笑った。
「きえちゃんは大丈夫だよ。ねえ?」
それは誰にも有無を言わせないような強い口調だった。初めて見るゆりかの真剣な表情に、つい頷いてしまう。ゆりかは手を叩いて喜んで、私だけに聞こえるように「今日から一緒にお弁当食べようね」と耳打ちした。こんな風にして、私はゆりかの友だちになった。