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ふたりの探検記  作者: ヒロ法師
No.15 君が好きだから
43/54

Part.1

 脳筋だが知りたがり屋さんな千山葉月と、頭脳明晰だがちょっと残念な花浦和樹が挑む学園ミステリ。


 年明け。葉月は和樹が所属するサッカー部の練習試合の応援に出掛ける。彼女はあと三か月で居館を離れる。時間が迫る中、彼女は自分の思いを和樹にどう伝えようか、迷っていた。そんな中、事件は起きた。


※百合描写、流血表現があります。苦手な方は注意してください。

「なあ和樹かずき。おまえ、異性と付き合ったことあるだろ?」

「ん?」


 兄貴が発したさりげない一言。

 おれ達は居間でテレビを見ていた。

 冬のオリンピックが近いこともあって、スポーツ関連の話題が目立つ。


「兄貴、いきなりなんだよ。好きな人でもいんのか?」

「ああ……」


 兄貴は小さい声でこくりと頷く。


「ほう、兄貴にも春が来たか。でもなんでオレなんかに聞くんだよ」

「お前はカノジョいるだろ。そいつと逢った時何て言ったんだ?」

「カノジョって、あいつはそんな……」


 兄貴に好きな人ができたらしい。サッカー部のマネージャーと交際しているという。

 ある意味羨ましかった。

 葉月はづきはただの幼なじみ。仲がいいのは間違いないし、あいつとは長い付き合いだ。でも、あいつに告白したことは無かった。三月末で転校すると聞かされてからどこか心が寂しかった。


「まだ言ってねえよ」

「ふーん」

「でも兄貴もよかったじゃん。その子を大切にしなよ」


 他愛もない会話。

 しかし、翌日、事件は起こってしまった。


 ***


 寒い冬の朝。

 わたしは電車に揺られてスマホのSENNをいじっていた。


 はづき[もうスタジアム着いた?]

 和樹[着いた。さみぃ……]

 はづき[ま、体動かせば温まるんじゃない?]

 和樹[オレは動かせねえの! お前わかってていったなあ]

 はづき[あ、そうだった(__)]


 和樹は沖縄から戻り、学校にも復帰した。居舘市内の病院に通院しながら、リハビリを続けていくとのこと。

 しかし、代償は思った以上に大きかったようで体育の授業やサッカーの部活は見学。

 今日は休日で居舘スタジアムで練習試合があるが、それも見学だった。


 はづき[宗治(そうじ)さんもいるの?]

 和樹[来てるけど、オレの前にはいねえよ。なんでも外部からサッカーの講師を呼んで講義を受けるんだとよ]

 はづき[居舘の試合は午前中からあるのよね。あと三十分ほどで着くから]

 和樹[ういー。オレは出れねえけど]

 はづき[まあ、気にしなさんな(笑)]


 ”既読”になったのを確認すると、わたしはスマホをウエストポーチにしまった。


「あ、こんなところにいた!


 聞き覚えのある、太陽のような明るく高い声。


「はーづきっ! おはよっ」


 いきなり首に手を回された。

 背中に誰かの胸が当たっている。

 振り向くと八瀬川梨花やせがわりかがにっこり笑ってわたしを後ろから抱きついていた。


「梨花、暑い。あとここ電車の中」

「あ、ごめんごめん」


 梨花が手を離すと、わたしは彼女に顔を向ける。

 見るかぎり梨花は沖縄の事件の後入院していたが、無事に退院できたようだ。


「今日から復活よ! またサッカー部の取材しなきゃ」

「取材という名の五条君の追っかけ、でしょ」

「まあ、最近は瀬田君もかっこいいけどねー。五条君とは別の無口な紳士っぽさが……」

「はいはい」


 カッコいいって、本当に気移ろいしやすいジャーナリスト(自称)である。

 とはいえ、元気そうで何より。


「かくいうサッカー部は練習試合。わたし、これから応援に行くんだけど」

「あら、偶然一緒じゃない。旦那目当てで?」


 わたしはむっとした。


「和樹は出られないわよ。ケガ治ったばっかりだし。あと旦那じゃないし」

「じゃあ、何のつもりで応援行くの? 花浦君以外の誰かに浮気するの?」

「浮気って……。あくまで”サッカー部のお・う・え・ん”!!」


 思わず熱くなった。乗客の視線がいっせいにわたしたちに向けられた。

 冷たい目線、怒りの目線……。

 かなり気まずい。


 だが、梨花はそんなこと気にもかけず両手を広げて、


「どうだか……。でも、目的地は一緒だし二人で行こうよ!」


 なんだかんだでこの自称ジャーナリストと行動することになってしまった……。

 ちなみに、その後車掌に怒られたのは言うまでもない。


 * * *


 居舘スタジアム。

 バスが数台並んでいる。

 市内、県内からサッカー部を持つ高校や大学が集まって合同練習だ。


 わたしと梨花は練習に間に合わせようと居舘駅から走ってやってきた。

 息が少し荒くなる。

 朝方和樹に送ってたけど体は温まりそうだ。

 早速観覧席に上ってグラウンドを見渡す。


「さて、うちの高校は……」

「あ、あそこ! 五条くーん! 瀬田くーん!」


 梨花は大きく飛び跳ねながら手を振っている。

 よく見るとわたしたちの前方百メートルで居舘高のサッカーユニフォームを着た部員たちが練習している。

 梨花の声に何人か気付いたようで振り向いて手を挙げている子もいた。


「また取材させてねーっ!!!」


 ジャーナリスト(自称)の魂胆が垣間見える。

 とはいえ、走ってきて疲れてしまった。

 わたしは梨花に飲み物を買いに行くことを伝えると、いったん観覧席を離れた。


 一階ロビー。

 わたしは小銭を片手に自販機に向かう。

 すると、ベンチで誰か座っていた。居舘高校の体操着の上着の中にユニフォームを着ているが、隣に松葉杖が置かれ、彼の首元は包帯が巻かれてあった。


「和樹。あんたこんなところで何してんの? 休憩?」

「まあな。オレはこうしか出来ねえけど」

「じゃあなんでユニフォーム着てんの。せめてもの強がり?」

「うっせえ」


 一瞬和樹は顔をしかめたが、また笑った。

 わたしもつられて笑う。


「で、おまえは何しに来たんだよ。ジュース買いか?」

「まあね。あんた好きなのある?」

「んじゃ、カルピスで」


 本当に甘党だ、こいつ。

 わたしもとりあえずポンジュースを買った。

 そして和樹の隣に座り、ペットボトル入りのカルピスを和樹に手渡す。


「なあ葉月。まだ学校のやつらに言ってないんだろ?」

「うん……」


 和樹の言っていることの意味がすぐに分かった。

 三月末で転校すること。

 和樹にはお正月、彼を迎えに行った時に伝えてあった。

 あの時から和樹は何処か浮かないところがあった。

 わたしの肩を掴んで、こういった。


 ――どうなんだよ、葉月。オレたちはもう……


 この後に続く言葉。

 それをわたしは想像したくなかった。和樹から、また再会できるのか問われているが、まだ答えは見つかっていない。

 というより、誰にも相談していなかった。ただただ、後回しにしていた。

 そういうこともあって他の人に転校することは伝えていない。


「まだ三カ月も先だから、いいかなって」

「だといいけどよ。三学期はあっという間だぜ?」

「わ、わかってるって……」


 わたしは声を詰まらせた。

 和樹はそんなわたしを見守っていた。


 だが、その沈黙はすぐに破られた。


「え? 伏見もフラれたの?」

「ああ。付き合ってる人がいるんだとよ」


 二人の男子部員が歩いてくる。

 ひとりは五ミリから一センチほどのスポーツ刈りの男性。隣に歩くのは肩までかかる長い髪を後ろで束ねた男性。

 しかし、二人とも居舘高校とは異なるユニフォームを着ている。胸元に<居舘市立大学>と縫いこまれた刺繍。

 宗治さんのサッカー部のようだ。


「にしても宗治はどこ行ったんだ」

「智子ちゃんのところだろ? あいつキャプテンだし。そういや、宗治も想いを寄せてたみてえだけど」

「いいよなあ、キャプテンは。マネージャーに近付ける口実があるからさ」

「俺らが関わっちゃいけないんだよ」


 そんな会話が目の前で繰り広げられていた。

 ところが、話題の渦中にいた女の人はすぐに表れた。


「伏見君に花園君、こんなところで何してんの」


 その姿と声に二人は驚き、心が高鳴りだしているようだ。

 隣にいる男も釘付けになっているようで、鼻と口から何かが出ている。


「和樹、シャキッとしろ」


 目の前で部員の二人と話している女の人は、体操着の上着とジャージを着ている。長い艶やかな黒髪は後ろで束ねられているが、肩に届くほど長い。

 小顔のすらっとした女の人で、同性のわたしも素直に可愛いと思った。


「さ、智子ちゃん」


 スポーツ刈りの青年は一瞬固まった。


「もうすぐ講師の先生が来るよ? そろそろグラウンドに戻らないと」

「そ、そうだな……。そういえば、宗治は? 智子ちゃんのところに行ってたろ」

「ああ、後で来るって」


 そのとき駐車場から誰かが走ってくる。

 短髪に凛とした顔立ち、そして居舘市立大学のユニフォームを身に着けた男。


「ごめん、遅れた」


 宗治さんが息を切らせて入ってくる。


「遅いよ花浦君」

「ごめん。トイレ行ってたら時間食ってしまって……」


 マネージャーの言葉に宗治さんは笑いながら後頭部を掻いている。


「もう、キャプテンはうちじゃエースでもあるんですから」


 そう言ってマネージャーは宗治さんにスポーツドリンクを渡す。


「あ、ありがと、東山……」


 部員二人は呆れ顔で、


「ずるいぜ智子ちゃん。俺らにも何かおくれよ」

「後でね。キャプテンには開会宣言もお願いしてるんだから。ここで気を引き締めてもらわないと」


 そのマネージャーの一言に部員二人は思わず肩を落とした。

 キャプテンはいいよなあ、と思ったに違いない。


 ――よう兄貴。これが昨日言ってたカノジョかよ


 その言葉にわたしを含めた五人はいっせいに振り向く。

 和樹が手を挙げてニヤニヤしながら宗治さんに声を掛ける。


「おい、和樹。見学じゃなかったのか」

「残念。オレは出られないので休憩でーす」


 スポーツ刈りの青年は肘で宗治さんの腕をつつく。


「おい、こいつがお前の弟?」

「ああ。今日はこいつの高校も練習に来てる」

「で、隣の彼女は?」


 宗治さんとスポーツ刈りの青年の顔がわたしに向けられている。


「あ、わたし弟さんの友達です。千山葉月っていいます」


 わたしは必死で友達アピールした。隣の幼なじみも首を縦に激しく振っている。


 同時にそれぞれ自己紹介する。

 メンバーの二人はスポーツ刈りの青年が伏見清美(ふしみきよみ)さん。その隣の長髪の青年が花園和仁(はなぞのかずひと)さん。二人は宗治さんと親しい友人であった。

 そして女の人はマネージャーの東山智子(ひがしやまさとこ)さん。

 わたしと和樹の関係もあくまで”幼なじみ”の関係であることを力説するが……。


「ダチっていうより、限りなく恋人に近いけどな」


 はあっ!?

 わたしと和樹は思わず向かい合った。


「おい兄貴。オレそんなこと一言も口外してないぞ。な、葉月!


 うんうん、とわたしは激しく顔を上下させる。


「外から見ると恋人にしか見えねーの。ま、覚えとけ」


 正直いって苦笑いするしかない。

 和樹は恥ずかしいか悔しいか知らないが床を見ている。

 わたしは後頭部を掻いていた。


「はあ、兄弟そろって羨ましいぜ」


 花園さんは両手をあげて苦笑いしながらため息をつく。

 宗治さんは怪訝そうに唸った。


「和樹、練習に戻れ。千山、こいつを引っ張ってやってくれ。多少強引でもケガはしねえよ」

「はーい」


 わたしは和樹に松葉杖を持たせようと彼に押し付ける。


「さ、練習に戻ろう。わたしは参加しないけど」

「えー、オレけが人だぜ?」

「そんなときにけが人ぶるな」


 思わずみんな笑ってしまった。

 ふと宗治さんは腕時計を見た。


「いっけね。そろそろ里川さんが来る時間だ。俺、挨拶してくる」


 宗治さんは走り出した。

 花園さんがその後ろ姿に向かって叫ぶ。


「キャプテンは大変だな。頑張ってこいよ」

「おう」


 するとマネージャーの東山さんも後を追うように走り出した。


「花浦君! 私も行く!


 二人がさっとのを伏見さんと花園さんはぽかんとした顔で見ていた。


「弟坊の言うように、やっぱりもうあいつらデキてるな」


 伏見さんの一言に、花園さんは「ああ」と添えた。


 ***


 少し部員二人と談笑した後、わたしは和樹を引っ張ってグラウンドの入り口に立った。


「さあ、運動できなくても出来る限りのことは出来るでしょ?」


 和樹はこっちにむすっとした顔を向ける。


「”出来る”が多いんだよ」

「ま、それぞれ意味は違うけどね」


 わたしは得意げに笑った。


「へいへい。じゃ、行ってくるわ」

「頑張ってね」


 和樹は松葉杖をつきながらグラウンドを壁伝いに歩いていく。

 彼の後姿を見ながら手を振っていると、いきなり肩を誰かに押された。


「ほお……、旦那を見送る妻か……。 ま、活動的な葉月には似合わないけど」


 振り向くと後ろで梨花が腕を組んで含み笑いをわたしに向けている。


「あんた一体何してんのよ」

「聞くところによると外からプロサッカー選手を呼んでるそうじゃない。 どんなイケメンかなって思ってさ。 その下見!


 にやりと笑いたくなる。


「ははん、要はストーカーか」


 梨花は一瞬怪訝な顔をする。


「いいじゃないの、ちょっとくらい」

「そう言えば和樹のお兄さんがそろそろその先生が来る時間だって言ってたわ。 入り口の駐車場に向かったみたいだけど」

「ありがとっ! あ、そうだカメラの準備しないと」


 梨花は自分の手提げカバンからビデオカメラを取り出す。

 突撃取材するのか、こいつは。


「じゃあ、あたし行ってくる」


 梨花はカメラを肩に下げると、駐車場目掛けて走り出した。


 わたしは観覧席に戻り、サッカー部の練習を見物する。

 当然和樹は運動できないので、とりあえずボール拾いやマネージャーの女の子の手伝いをしているようだ。

 その姿を見て、わたしは和樹に言われたことを思い出していた。


 ――また逢えるのか


 絶対そう願いたい。だけど、答えを出さないといけない。残された時間は三か月。あっという間に過ぎてしまうだろう……。

 そして周囲からはいつものように夫婦だの、旦那だの茶化される。多分、周りの人は気付いてる。綿菓子が、和樹のことを――。

 一つだけ確信があった。

 わたし、千山葉月は幼なじみである花浦和樹を一人の男、異性として認識していたのだ。


 ***


 もう誰にも邪魔されてたまるものか。でも、どうしてあなたは最後まで邪魔するの?

 ねえ……。


 目の前で男の人が頭から血を流して倒れている。殴ったのはまちがいなく、自分。


 もう後戻りはできない。

 計画に沿って復讐を果たすだけ。

 しかし、これは誤算だった。あなたに殺意はなかった。


 ――ごめんなさい。 キャプテン


 (Part.2につづく)


©ヒロ法師・いろは日誌2018

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