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ふたりの探検記  作者: ヒロ法師
No.12 悪夢のリゾートホテル
39/54

Part.5

脳筋だが知りたがり屋系女子、千山葉月とイケメンだがちょっぴり残念な男子、花浦和樹が挑む学園ミステリ。


待ちに待った修学旅行。

葉月たち居館高校二年生たちは沖縄で一度しかない一大イベントに参加する。

ところが、世の中を震撼させる事件が近づいていることを知る者はいなかった。


 冷たい銃口があたしたちに向けられている。

 男は目の前の少年を撃った。

 しかし、あいつらを捜してるのは間違いなくあたしだろう。

 状況を打開するには……、こうするしかない。


 ***


 現場にたどり着くまで、十分はかかったかもしれない。

 足利刑事に続いて、わたしたちは銃声のした方へ急いだ。

 現場は真上の階の廊下。

 誰かが壁にもたれかかるように崩れている。

 その人は居館高校の男子生徒の制服を着て、白いカッターシャツから鮮血が流れていた。

 彼の周囲に血だまりができている。


「和樹!!!」


 わたしは思わず叫んだ。

 声がかれるくらい。

 急いで和樹のもとに駆け寄る。

 和樹は顔を下に向け、弱々しく息を切らせていた。


「和樹、しっかりして!どうしたの!?」

「テロリストの奴にやられた……。それで、八瀬川が……」

「梨花が、どうかしたの!?」


 しかし和樹は何も喋ることができなかった。


「葉月!!」


 加奈の声がわたしをはっとさせる。

 振り向くと一緒に来た三人も走ってきた。


「これはどういうことだい!?」


 足利刑事が声を上げている。


「テロリストに肩をやられたみたいで……。早く、手当てしないと」

「わかった。どこかに応急手当てができそうなところはないかい?」


 すると加奈が、


「近くに休憩室があります。そこに行きましょう」


 休憩室で和樹はベッドに横たわり、足利刑事から応急処置を受けていた。

 肩に被弾したようで、出血していた。

 止血措置を行うと刑事はすぐに沖縄県警に通報した。


「今連絡を入れた。五分もすれば到着するはずだ。すぐ近くに待機してくれてよかったよ……」

「ありがとうございます、刑事」


 しかし、和樹の容体は決していいものではない。

 痛みと痙攣が彼を襲い、和樹はそのたびにうなされ、苦悶の表情を見せる。


「葉月……、オレ……」

「何も喋らなくていいの!今は安静にして……」

「八瀬川が、連れていかれた……」


 かすれている和樹の声から放たれたのはとんでもないことだった。


「梨花が……、どうして?」

「あいつ……、事件の真相を掴んでやがったんだ……」

「真相?」

「このホテルとテロリスト、グルだったんだ」


 それは衝撃的な事実だった。


 和樹はまるで最期の力を振り絞るかのように、淡々と話し始めた。

 テロリストたちの目的。それは“パシフィック・アトランティス”という独立国家を作る、というのは表向きだ。

 実際はある“もの”を作っており、ホテルの関係者もそれに加担していたのだ。

 梨花はそのやりとりをレコーダーで録音していた。しかし、レコーダーの回収を忘れてしまい、テロリストの仲間に盗聴されていることがばれてしまったのだ。


 和樹は助けを求めるため、一人脱出を試みた。

 その途中で梨花と合流し、彼女からテロ事件の真相について聞いていたのだが、すべてを知る前にテロリストと遭遇してしまった。


 梨花はテロリストのうちの一人「遠井(とおい)」という男に連行された。

「遠井」は「美琴(みこと)」と「達也(たつや)」と一緒にいた若い男で、明らかに挙動がほかの二人と違っていた。

「美琴」と「達也」はどことなく犯行にためらいを見せていたが、「遠井」にそのような様子は感じられなかった。


「梨花ったら……」

「違うんだ、葉月……。テロリストはオレが盗聴したんじゃないかって思ってたらしい。でも、八瀬川は……」


 ――この人は違う。やったのはあたし


 そう言って、自分から捕まりに行ったという……。


「え、なんで……?巻き込みたくなかったから?」

「わかんね……。あいつなりの思いがあったんだろ……」


 梨花……。

 人々に真実を伝えること。それが彼女の信念だった。

 そのためには自分の身を顧みずに行動することもあった。

 でも、どうして……。


「ねえ、他の人は無事なの?」

「げほっ、げほっ……。それは……」


 和樹はむせていた。

 痛みで苦しんでいる……。


「葉月。気持ちはわかるけど、安静にさせないと」


 加奈がわたしの肩に手を置いている。


「あ、ごめん……」


 それを見て和樹は弱々しく微笑んで見せた。


「葉月……。おまえらしくねえぞ……。事件の時こそ冷静沈着なおまえは……、どこにいやがるんだ……?」

「もう喋らないで。よくわかったから……」


 わたしは目の前が霞んで見えた。

 涙が和樹の眠るベッドに零れ落ちる。

 わたしはしゃがみ込むと、和樹の手を握った。少しながら、和樹の温もりを感じた。


「みんなを……、助けてやってくれ……。おれはおまえを助けたかった……。でも、結局こうなるなんて情けねえ……」

「情けなくなんかないって。あんたがいないと、わたし……」

「最後に、おまえに逢えて、よかった……」


 そういうと和樹はゆっくり目を閉じた。

 同時に和樹の手から力が消えた。


 ふとわたしはすべてが抜けたような感じがした。

 力は抜け、脳内は真っ白。

 細胞の一つ一つから、精気という精気が抜けていった、そんな感覚に襲われた。


「か、ず、き……」


 わたしは布団に顔を押し当て、声にならない声で泣いた。


 ***


 目の前で女の子が泣いている。

 前にいる少女は推理力にたけた、いわば女子高生探偵。

 その女の子は友人を亡くしたショックで泣いているのだ。

 いや、息を引き取ったかは確認しないとわからない。


 足利刑事はベッドで泣いている女の子の隣に座り、目を閉じて横たわっている少年の脈を診た。

 微かに、脈は残っていた。


「まだ、大丈夫だ。大丈夫だよ、千山(ちやま)さん」

「え?」


 女の子はベッドの布団から顔を上げ、涙でぐしょぐしょになった顔をハンカチで拭きながら、刑事を見た。


「まだ生きてる。だけど、予断は許さない。もう少しで、救助が来るから……」


 間もなく沖縄県警のヘリが現れ、その少年を保護。

 女の子と一緒にいた子たちもつれて、ヘリで救助された。


 ***


「和樹は助かるんですよね……」


 わたしは安堵と不安の入り交じった声で、足利刑事に尋ねる。


「いまはそれを信じよう」


 刑事の言葉はどこか冷たく思えた。

 込み上げる何かを感じながらも、脳裏に和樹の言葉が木霊する。


 ―――沈着冷静なおまえらしくない


「そう、ですね……」


 わたしは強く和樹の無事を祈った。

 加奈はペットボトルのお茶を紙コップに入れて、わたしに手渡した。


「葉月、これ飲んで落ち着けたら?」

「ありがと、加奈」


 コップのお茶を一口飲む。

 気持ちが少しずつ落ち着いていく。


「それにしても、ホテルとテロリストたちがグルだったとは……。多分、居館での爆発騒ぎもこのテロを見込んでのことだったんだな」


 ヘリコプターの外に広がる真夜中の星空を眺め、足利刑事は呟く。


 沖縄県警に救出され、わたしたちは県警のヘリの中にいた。和樹は警察病院に搬送されるため、別のヘリに乗っていた。

 続々と警察たちがホテルに集結し、降伏を呼びかける。しかし、テロリストからの返答はない。


 梨花が言っていた“あるもの”。いったい何を作っていたんだろう。

 今は考えても何もわからない。一旦状況を整理してみる。


 事件の始まりは修学旅行一日目、居館郊外での爆発事件だ。

 そこで発見された文章。

 実験後、沖縄に行けという文言だった。

 実験が遊園地廃墟での爆発事件だとしたら、同じものがここで使われるはず。

 実際にその爆弾は使われているのは間違いないだろう。

 テロリストの三人がそのことを話していたが、特にあの「美琴」という女の子。

 彼女が口にしていた言葉が引っ掛かる。


 ――これから沢山の人が死ぬ


 何らかの兵器なのか。


 そして梨花が言っていたホテルとテロリストが共謀関係にあること。

 噂の通りだが、なら誰が事件を指示したんだろう。


 また、ホテル関係者もテロリストたちもそれぞれの内部関係が複雑に見える……。

 明らかに行動が違っていた「遠井」。きょうだい関係にある「美琴」と「達也」。

 ホテル関係者だと表向きは大らかで朗らかだが、裏で黒いうわさが絶えない夏沢(なつさわ)会長。仕方なく従う社長の(たけし)さん。反発する加奈。


 そういえば加奈は「それが目的だった」と言っていたが……。


「加奈。そういえばこっちに来るときに何か言いたげだったけど、なんだったの?」


 加奈は一瞬口をつぐんだが、やがてため息をつくと、


「わかった。もう話したほうがいいよね」


 加奈はひそかにテロリストの後を追っていた。

 彼女がテロリストと接触することになった理由に、兄の武さんからのSENNがあった。

 通知があったのは二週間前。




 武[加奈、大変なことになってしまった。お前は絶対ホテルに来るな]

 KANA[お兄ちゃん、何かあったの?]

 武[今後一か月は来ちゃだめだ。お前を巻き込みたくない]


 ※武さんが退出されました




 それ以降兄からの連絡はなかった。

 不安に思った加奈は独自に兄の行動を調べることにした。

 また会長から理不尽な命令を受けたに違いない、そう踏んでいた。


「結局それは当たってた。どうやら海外に売る生物兵器とか、麻薬を作らせていたみたいなのよ」

「まさか、密売してたの?」


 加奈は頷いた。


「密売は何年も前からやってたみたい。ホテルの羽振りがいいのも多分密売でぼろ儲けしてるからかも」


 梨花が言っていたことが証明された。やはり密売をしていたのは本当だった。


「それで、今日は開発した細菌の効果を試すために兵器を取り寄せた……」


 加奈の言葉にわたしは思わず身が震えた。

 そしてある予測がわたしの中に浮かぶ。でも、そう考えれば「美琴」が言っていたことも納得できた。


「まさか、テロ事件で言ってた“儀式”って、そのウイルスの実験……?」


 加奈は一つ頷いた。


「そうだとみていいかも。会長ってお金のためならなんだってするから」


 わたしはすごく嫌な予感がした。

 “儀式”の準備はすでにできているとテロリストたちは言っていた。

『ガジュマルの間』からすでに捕らえられていた人々は移動している。七海ちゃんによると八階に神様にささげる場所があるらしい。


「ねえ、おねえちゃん。あそこ……」


 七海ちゃんがわたしの腕を引っ張る。

 彼女の指さす先はホテルの八階。そこだけ何かがほのかに揺らめいている。

 他は電気が消され、薄暗くなっているのに……。


 そして、大勢の人影がはっきりと目視出来た。

 あれは、儀式……!

 わたしはヘリの操縦士に向かって叫んだ。


「すいません!ホテルに引き返してください!!」

「何を無茶な!死にたいのか!」

「みんなが、上の階で捕まってるんです!!」



 わたしと加奈、そして足利刑事はそのまま八階の“儀式”が行われている広間をめがけて走った。


「おねえちゃん、おとうさんをお願い」


 七海ちゃんはそう言っていた。


「足利刑事、とっさに警察の人にお願いしてしまいましたけど……」

「緊急事態なら仕方ないって。あとで僕から説明しておくから」


 広間の前。『シーサーの間』と書かれたプレート。

 左右にはシーサー増の石像、そして左右に燭台。

 すでに“儀式”という名の人体実験は始まっているのか。

 止めるなら(もう遅いかもしれないけど)、今しかない!

 大きな扉を開け、中に入る。


 広間には連れてこられた人たちが何列かに並んで立っている。

 そして、一番奥では……。


 テロリスト三人がステージの上に立っている。

 三人は何かを唱えている。まるで何らかの呪文を唱える神主や巫女のようだ。

 そして中央には、


 白い着物のような衣服を身にまとい、目を閉じている少女。

 先がカールした茶髪で、年齢はわたしと同じくらいにみえる。

 梨花……。


 紛れもなく、八瀬川梨花だった。

 彼女は和樹をかばって自分から捕まった。


「梨花!!」


 わたしは腹の底から叫んだ。


「葉月……」



 顔を少し上げる。

 梨花は不安げな面持ちで、わたしたちを見る。


「生贄は黙れ。お前が実験台となればほかの奴らは救われるんだ。他人を巻き込みたくないんだろ?」


 テロリスト、遠井はそういうと梨花の横腹を蹴った。

 梨花は倒れ込んでむせる。


 わたしは思わず目をつぶった。

 和樹を巻き込みたくないため彼女は自分から捕まったのだ。

 でも、犯人がしようとしていることが本当なら……。


 しかし、わたしたちの登場に周囲はざわつき始めた。

 集団の中から居館高校の制服を着た子が何人か、走ってくる。


「葉月!」


 はじめに飛び出してきたのは楓だった。

 わたしもまさかの再会に気持ちがパッと明るくなった。

 思わずわたしは楓と抱き合った。


「怖かった……。葉月も死んだんじゃないかって思って……」

「それは大丈夫。でも、梨花は……」


 バン!!


「黙れ!!“儀式”の邪魔をするな!」


 リーダーの達也が怒鳴り散らす。

 わたしはステージに向かって思いっきり叫んだ。


「あんたたち、いますぐやめなさい!」

「誰だ。服を見る限りこの生贄の小娘と同じ高校生のガキのようだが」


 達也はぎっとわたしを凝視する。

 目を逸らさず、わたしは達也を睨み返す。


「彼女をどうする気なの?」

「どうするもこうするも、生贄にするに決まってるじゃないか」

「本当にそうなの?」


 なにっ、とでも言わんばかりに達也は顔をしかめる。


「本当の目的を実行すること。それが“儀式”。そして実験台が“生贄”なんでしょう?」

「実験台?これは神聖な儀式。何を試すというんだ」

「人体実験。ある化学兵器の威力を試すため、“儀式”と称してホテルに閉じ込めた人を集めた。言ってみれば劇なのよ」


 達也は顔をしかめた。


「劇だと?そう言い張るなら説明してもらおうか」


 わたしは目を閉じて胸に手を当てると、視線をテロリストたちに向けた。


「わかった。でも、この劇はあんたたちだけじゃできない。協力者がいるの」

「葉月、どういうこと?」


 楓が声をかける。


「ほら、梨花が言ってたでしょ?このホテルの噂の事」

「このホテルが密売してるって話よね。まさか、本当だったの?」


 わたしは頷いた。

 そしてテロリストと結託し、今回の事件を引き起こしたもう一人の黒幕。

 人ごみの中に動く中腰の男の姿。


夏沢修二郎(なつさわしゅうじろう)会長。逃げようたって無駄ですよ」


 男は止まった。聴衆の目は一斉にその男に向けられた。


「誰だね。服装から昨日からして、来ていた修学旅行生かね。あの人質の友人かい?」

「ええ。でも、わたしはあなたに用がある。この茶番劇のことでね」

「この騒動が茶番劇だと?うちのホテルが密売してる?子供ながらたいそうなことを言ってくれるじゃないか。じゃあ、根拠を述べてもらおうか」


 夏沢会長の口調は彼の先ほどの行動と一致していなかった。


「根拠ですね。いいでしょう」


 足利刑事に顔を向けると、わたしはあるものを見せてくれるようにお願いした。


「ああ、あの書類だね」

「ええ」


 刑事が胸ポケットから四つ折になった紙を取り出す。

 わたしは紙を受けとるとそれを会長に突き付けた。


 トリジヌムカプセル100キログラム

 送付先:澤 修司

 :沖縄県○○市○○町五番地

 ××製薬


「これは取引に使われた請求書です。居館の爆発現場から出てきました。あなたはこれをテロリストたちに作らせて、ここで実験をしようとした」

「それはただの請求書じゃないか。それに私の名前は夏沢修二郎。誰だね?澤修司って」

「澤修司さんは架空の名前。そんな人、どこにもいないんですから。つまり、周囲にばれないようにするために偽名を使った。そんなところですね。でも、名前は重要じゃない」


 わたしは夏沢会長に視線を突き刺す。


「送り先の住所が何でこのホテルなんですか?」


 しかし、夏沢会長は妙に落ち着いた様子を見せた。


「お嬢さん。あんたがこれまでに言ったことはただの憶測じゃないか。それと茶番劇がどうつながってくるんだい?確かに住所は同じだし、名前は偽名かもしれない。でも、テロリスト本人の名前かもしれない」


 会長は不敵に笑った。


「そもそも、観光客を見殺しにするなんて、極悪非道とは思わんかね」


 わたしは目を閉じた。すぐに見開く。


「本当にあなたはホテルの宿泊客を守ろうと思ってたんですかね」

「何?」


 会長は顔をしかめた。


「茶番劇は実験のカモフラージュの為に行われた。だけど、もうひとつメリットがあるんです」

「メリット?」


 それはテロ組織が起こしたことにしてしまえば、自分が疑われることはないから。テロ事件に遭った観光会社として評判は落ちるだろうが、横流しで儲けられるからたいした損失にはならない、そう考えているのだろう。


「もちろん自分の脱出ルートは用意しておく。そうじゃないとこの寸劇は成り立ちませんしね。だけど、テロリストを撃退しようとは思わなかった。なぜなら宿泊客は実験台だから」


 会長は下唇を噛んで怪訝な顔をする。

 神聖な場はざわめきが大きくなる。


「おいおい。本当に証拠はあるんだろ?証拠もなしに私を極悪人に仕立てるなんて、名誉棄損もいい所じゃないか」

「ボイスレコーダー。わたしの友達が仕掛けたんですよ。そこで捕まってる子がね」


 梨花は不安そうな面持ちでわたしを眺めている。


「それがどうしたって言うんだ。証拠が記録されてるのか」

「そうですけど。でも、もう壊されてるでしょうね」


 そしてわたしは捕らえられている梨花の隣の男に視線を向けた。


「ですよね。遠井さん」


 遠井ははっとしたが、すぐに笑った。


「ふっ、察しがいいじゃねえか。もう外に捨てたさ。見つかったとしても復元はできないぜ」

「ほらみろ。私を告発するなんてできない」


 遠井の返答を見て、会長は高笑いを始めた。

 わたしが問い詰めている最中にも、続々と警官たちは宴会場の近くで待機し始めていた。


「お嬢さん、あんまり言いたくないが逆にここであんたを……」

「遠井さん、あなたは携帯で誰かと話してましたよね。それで盗聴のことを知ったみたいですけど、誰なんです?」


 会長の言葉はわたしの耳をすり抜けていた。いや、遮断していた。


「それを訊いて、どうすんだよ」

「いいから、答えてください」


 遠井の口が固まった。そのまま沈黙が二十秒ほど続いた。

 わたしはそうか、と察した。


「答えられないですよね。通話記録が残ってるんだから」


 わたしは会長に顔を向けた。


「その通話を解析してあなたの声が含まれていたら、動かぬ証拠になりますよ」

「お、俺じゃない」


 足利刑事はゆっくりと会長に近づいた。

 そして、警察手帳を見せる。


「すみません。任意同行させていただけませんか?」


 会長は肩を落とした。


 (Part.6へつづく)


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