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ふたりの探検記  作者: ヒロ法師
No.12 悪夢のリゾートホテル
35/54

Part.1

脳筋だが知りたがり屋系女子、千山葉月とイケメンだがちょっぴり残念な男子、花浦和樹が挑む学園ミステリ。


待ちに待った修学旅行。

葉月たち居館高校二年生たちは沖縄で一度しかない一大イベントに参加する。

ところが、世の中を震撼させる事件が起こることを知る者はいなかった。



 ある研究施設の中の暗い室内で、動く影があった。


 ――あれはまだ届いていないのか

 ――到着しました。この爆薬なら、破壊力も十分かと

 ――よし、さっそく実験に移るぞ


 暗闇に染まっていた夜空が、一瞬昼のように明るくなる。爆音と稲光に寝静まっていた人たちは騒然となった。


 翌日の朝刊にその事件は一面で大きく取り上げられた。廃墟で発生した爆発事件。それは世を震撼させる事件の幕開けに過ぎなかった。


 ***


 ここは飛行機の中。わたしたち居館高校二年生たちは沖縄に向かっていた。待ちに待っていた修学旅行だ。そのせいか、クラスメイト達はどんな思い出を作るか、何を買って帰ろうか、そんな話題で持ちきりだった。

一方、わたしは毛布をかぶって眠っていた。前日は楽しみで眠れなかったから。しかも起きたのは五時半。冬になったので朝はとても寒い。


 本当にぐっすり眠っていたようで、わたしは到着したことに気づいていなかった。


 ――ちょっと、きみ。眠ってる、そこのきみ! もう着いてるよ! 


 声とともに肩を強く揺すられた。


 目を開けると、わたしの真上から茶色いボブカットの、わたしと同じくらいの背丈の女の子が顔を覗かせている。


「あ、ごめんなさい!」

「きみ、見たところ学生さんみたいだけど修学旅行で来てるの?」

「そうですけど」


 女の子は飛行機の出口を指差した。

 乗降扉の奥にターミナルに廊下が続いていた。


「同じ制服の子たちがターミナルに集まってるけど、行かなくていいの?」

「そうだった!」


 わたしは慌てて手荷物を集めると、飛行機から出て行った。


 当然、ターミナルではみんな整列している。

 学年主任の諸川(もろかわ)先生が担任教師たちに点呼を指示していた。

 担任の安田先生は誰かを捜しているようで、わたしと一瞬目が合うと、


「千山さん! 何してたの!」


 声を上げながら、先生が走ってくる。


「すいません。寝過ごしてました」

「早く並んで!」


 出席番号順に整列する。

 諸川先生のあいさつの後、校長先生の話が始まる。

 長い話だったのか、必死で眠気と戦う生徒も見える。

 そしてわたしたちはクラスごとに分かれ、バスに乗り込み、それぞれの研修先に向かった。


 バスの中でもクラスメイト達の会話は止むことはなかった。

 友人の中ではパンフレットやネットのホームページを見ながら、どこで何をするかで盛り上がっている。

 わたしも友人とスマホを見ながら、行先をいろいろ喋っていた。


 隣の席に座っている男も、スマホで何か見ている。


「和樹、どこ見てるの?」

「いや、行先じゃなくてニュースだよ。昨日の夜、居館の郊外で爆発事件あったろ?」


 今朝の朝のニュースで放送していた。


『閑静な住宅街で爆発音 けが人なし』


 スマホのニュースはそんな見出しで始まっていた。

 昨日の夜十時ごろ、居館市郊外の遊園地の廃墟で爆発事件があった。

 幸い近くに誰もおらず、死傷者は出ていないが周囲で大騒ぎになった。

 居館高校の生徒の中には廃墟の近くに住んでいる子もいて、たまにそんな話も聞こえた。


「でも物騒な話はやめようよ。せっかくの修学旅行なんだからさ」

「そうだな」


 和樹はスマホを鞄にしまった。


 一日目は二年生全員で那覇市周辺を散策。

 沖縄独特の文化や、歴史について学んだ。

 戦時中の沖縄戦や戦後の米軍占領期、そして今に至るまで本土とは別の歴史を歩んできた沖縄。

 今でもその形跡は残っていて、不発弾や防空壕が残され、米軍基地の面積は日本で一番広い。

 足早に一日目が過ぎ、一行を乗せたバスは那覇市の郊外にある宿泊先の〈沖縄ぐすくシーホテル〉に到着した。


「さあ、着いたーっ!」


 わたしは大きく背伸びした。


「おい、葉月。見てみろよ!」


 和樹はまるで思春期寸前の少年のように、目を輝かせてはしゃいでいる。


 そのホテルにわたしたちは目を奪われた。

 正門の奥、入り口は壮大な南国沖縄の情緒が溢れる造りのリゾートホテル。

 周囲はヤシの木やソテツ、ハイビスカスといった南国の植物が植えられ、白い砂浜とコバルトブルーの海を模して造られた砂地と池。

 まさに南国のバカンスを思わせる……、というのは大げさだろうか。


 テニスコートやプール、サッカー場などスポーツを楽しめるレジャー施設も見える。

 露天風呂を併設するお風呂場も見える。

 幾らかかったかわからないけど、豪勢なホテルだ。修学旅行にはもったいない。


「やべえ、めっちゃ楽しみになってきた」

「そうね。本当に来てよかった」


 点呼終了後、わたしたちはそれぞれの寝室に荷物を持って行った。

 一階の「ちゅらんみの間」という大宴会場に集合する。

 クラスごとに出席番号順に並んで座る。

 そしてステージの壇上に恰幅の良い白い髭を生やした、七十くらいの老人が現れる。


「皆さんようこそ、〈沖縄ぐすくシーホテル〉へおいでくださいました! 私は当ホテルを運営させていただいております、夏沢観光代表、夏沢修二郎(なつさわしゅうじろう)でございます。当ホテルは格安の値段でまるで天国の楽園のようなお客様に満足いただけるサービスをいたしております。皆さん、心行くまでご満喫ください」


 あたりから拍手が響く。


「夏沢観光って、あの有名な!?」


 口をぽかんと開けて驚いているのは、新聞部の八瀬川梨花だった。


「梨花、知ってるの?」

「葉月、あんたこそ知らないの?」


 え? わたしは思わず息を詰まらせた。

 夏沢観光は世界中でテーマパークやホテルを経営している会社だ。

 格安の料金で宿泊できることから、最近兎角を現してきた。

 修学旅行向けの宿泊プランも用意していて、旅行会社を介して積極的に受け入れていた。


「とっても安いのに儲かってるんでしょ? すごいと思うけど」

「やっぱり、知りたがり屋さんでも耳に入ってないか……」


 梨花は両手を広げて妙に残念そうな、わたしを少しおちょくるような仕草を見せる。


「噂だけど、海外と麻薬とか取引してるんだって」


 マジ? 

 わたしは目を丸くする。


「知らなかった?」


 にっこり笑う梨花にわたしは突っ込みを入れざるを得なくなった。


「知るわけないじゃないの。てか、どこからそんな噂引っ張ってきたの? どうせ雑誌とかネットでしょ?」

「まあね。でも、割と信憑性があると思うけど。だって格安でぼろもうけできるって怪しいじゃん」


 まあ確かに不思議ではある。

 こんな設備もサービスも整ったホテルを格安で泊まれるのは何か裏がありそうだけど、なんで麻薬の話になるのかなあ……。


 梨花が言うにはネットのニュースサイト『YEAH! JAPANニュース』に載っていた「格安ホテルの真相!」という記事。

 なんでもあるフリージャーナリストがホテルに潜入し、決定的な瞬間を見たらしい。

 しかし、そのニュースの出元がオカルト情報を扱う出版社のサイトでどことなく胡散臭い。


「修学旅行中に調べたいんだけど、さすがに無理よねえ……」

「そんなこと出来たらホームズもびっくりよ。あと梨花、あんた時計台の事件でまだ懲りてないの」

「してるって!」


 梨花はそう言って無邪気に微笑む。

 こいつ、本当に反省してるのか。


「それであの社長さんが会長の立役者なの」


 梨花の視線はすでに私から離れ、隣の短い黒髪の四角だが角が丸いフレームを掛けた知的な二十代後半の男性に向けられていた。


「あの人、とても若そうだけど社長さんなの?」

「そうよ。会長のお孫さんで夏沢武(なつさわたけし)さん。花浦君のお兄さんみたいに頭脳派で合理主義者なんだって。会長さんは会社の経営をお孫さんに一任してるみたいだけど、うまく行ってるみたい」


 梨花はパンフレットのスタッフ紹介のページと社長さんに交互に目線を送る。


「将来有望な人なんだ」

「そうよ。外見も知的でいいし、なんか憧れちゃうわ」


 はいはい。


 会長の挨拶の後、拍手がホール中に鳴り響く。

 そしてわたしたちはテーブルに並べられた豪勢なディナーにありつく。


 沖縄料理は本当に箸が止まらない。バイキング形式でないのが悔やまれるが、出されたメニューをすぐに平らげてしまう。


「葉月、少し落ち着け。ゆっくり食べればいいだろ」


 和樹は小さな声で鋭く耳元で叫ぶ。


「こんなおいしいの、止められる訳ないよ! 和樹も食べたら?」

「ったく、ガサツなうえに食い意地もひどいと来た……。もう少ししおらしくしろよ……」


 そしてお風呂は露天風呂を兼ね揃えたスパリゾート施設にあった。

 わたしは早速楓と梨花を誘ってお風呂に入る。

 満天の冬空の下、広大な露天風呂が広がっている。


 身体をお湯で流した後、お湯につかる。

 本当に気持ちがいい。


「ふうー、まるで小学時代の修学旅行を思い出すわー……」

「あの時もわたしと葉月で入ってたっけ」


 バスタオルを巻いたまま楓はわたしの隣に入る(わたしも巻いてるけど)。

 やっぱり楓はスタイルがいい。

 胸の膨らみと腰のくびれがバスタオル越しでもはっきりわかる。


「葉月、どこ見てんのよ」

「いや、ついつい」


 わたしは頭を掻いた。


「そう言うと葉月はまだまだ幼女体型っぽいよねー。胸なんてほとんどないし」


 梨花はとなりでわたしをじろじろ見ている。


「な、なによっ!」


 思わずタオルごと胸を抱きしめた。


「あ、でも小学校の時よりは大きくなってるから、ね?」


 楓はなだめようとしている。


「へえー、そうなんだ」


 横目で梨花はじーっとこっちを見ている。瞳だけわたしの方向に動く。


「はいはい。どうせわたしは女っ気も色気もありませんよーだ」


 こうして一日目の夜は更けていった。


 ***


 深夜。

 ホテルの事務室で中年の男が一人、窓を見上げて電話をとっていた。

 外は不気味なほどに静まり返っていた。


「そうか、実験は成功したか」

【はい。威力も証明済みであります】


 自身気な声に、男は少し不安を覚えた。

 冗談に決まってるだろうけど。


「おいおい。強すぎてうちまで吹き飛ばすようなことは止めてくれよ」


 余裕のある笑い声が受話器から響いてくる。


【わかってますって。ブツは明日には届くはずです】


 ***


 翌朝。さっそく班別研修が始まった。

 旅行会社側が手配してくれたタクシーに乗って、自分たちで決めた研修先を巡る。

 わたしは二組の花浦和樹、一組の雪城楓、そして三組の村上陽太と同じ班である。


「男衆はまだ来てないのか」


 わたしは足のつま先を上下させながらホテルを睨みつける。


「葉月、貧乏ゆすりよくないよ」


 ホテルの外。

 十二月だけど、沖縄は暖かい。

 わたしと楓は腕時計を見て、寝坊助の二人を待っていた。

 すでにタクシーは来ており、他の班の人は出始めている。


「お布団の寝心地が良かったから、まだ寝てるのかしらね」

「確かにそうだけど、いいことばっかりじゃないのよぉ……」


 その二人とは和樹と村上君。

 二人は時計台の事件以降仲がいいらしく、何かと一緒にいることが多かった。

 村上君も和樹と同じく二次元に興味があり、漫画やアニメのDVDを隠し持ってきていた。

 深夜にこっそり見ていて、寝坊したのか? 


 しかし彼らはすぐに現れた。

 ホテルの自動ドアが開いたその先、和樹と村上君が歩いてくる。

 しかし、二人とも何故か魂が抜けたかのように、上の空を向いていた。

 だからといって意気消沈しているわけではなさそうで、時折こそこそ笑っている。

 不気味である。


「ちょっと、あんたたち遅いわよ」

「ごめんごめん。ちょっと朝の景色に見とれて」

「朝の景色?」


 朝方、村上君が散歩に出かけたところコバルトブルーの海が広がる砂浜で、十五歳くらいのショートヘアの女の子を見かけたという。

 その子がとてもかわいかったらしく、小顔で瞳の大きな可憐な姿だったという。

 さらにちょうど海から太陽が昇る朝焼けの時間だった。


「凄かったよ。朝焼けに映る爽やかな女の子」

「ああ。その子も二次元から飛び出してきたみてえだった」


 その子はすぐに誰かに呼ばれ、二人の視界から消えた。


「和樹君、“美琴(みこと)ちゃん”だっけ。その子の名前」

「ああ。いい名前だよなあ」


 とにかく、こいつらを現実に戻さないと。

 わたしは声を上げた。


「何分遅れたって思ってるの? もうみんな出てるのよ!? タクシーの運転手さんにも失礼でしょ?」


 それで和樹と村上君は我に返ったようで、


「あ、ごめんなさい」


 同時に頭を下げた。


 研修先はみんなで練りに練って決めた場所。

 名護市にある特産のパイナップルに関係する展示物を閲覧できるパイナップルパーク、そしてジンベイザメで有名な美ら海水族館。

 思う存分本物を満喫する。


 天気が良ければ恩納(おんな)村の浜辺でスキューバダイビングもしたかったのだが、昼過ぎから雨が降り始め、強風のため中止になった。


 ホテルに戻る最中、赤信号が変わるまでタクシーは停車していた。

 雨が降りしきり、水滴がタクシーの車窓を叩きつける。

 わたしは助手席で軽く背伸びした。

 後ろの席では楓が毛布を掛けて眠っている。

 和樹と村上君も疲れたようで後部座席の頭を枕代わりに眠っていた。


「ダイビングは残念だったねえ。天気が良ければ絶好の機会だったのに」


 運転手は曇天の空を見上げる。


「でもまた来るチャンスがあればやってみたいです」

「最近は格安で飛行機に乗れるっていうからね。嬢ちゃんも大人になって働き始めたら、遊びに来るといいよ」


 信号が青になり、周りの車は動き始めた。もちろん、タクシーもだ。

 その時だった。


 ピーッ!! キィィィーッ!!! 


 大きなブレーキ音とクラクション。

 わたしは思わず耳をふさぐ。

 大きいだけでなく甲高いので、心臓に響く。


 雨が降りしきる中、対向側から猛スピードで横幅十メートルほどの輸送トラックが通り過ぎる。

 縦列していた車を追い越し、わたしたちが乗ったタクシーのまさにその前を横切った。

 トラックは水たまりを撥ね、泥水がタクシーの車窓にぶちまけられた。

 窓は一瞬真っ茶色に変色した。


 泥水が窓に当たった衝撃音が大きく、眠っていたメンバーの目も覚めてしまった。


「な、なんだ?」


 和樹は目をこすって外を見る。

 クラクション音やライトのパッシングで周囲は賑やかになる。


「葉月、何かあったの?」


 楓が尋ねる。


「トラックがいきなり突っ込んできたのよ。すごく怖かった」


 外は相当数な車が列をなしている。パトカーや救急車も駆けつけているようだ。

 その後渋滞に巻き込まれたことを電話で安田先生に伝えた。

 わたしたちが渋滞から解放されたのは二時間後のことだった。


 ***


 雨はホテルに着く頃に止んでいた。

 すでに空に星が出ている。

 夜の冬空は澄んでいて、街の明かりも少なく満天の星空が広がっている。


 タクシーを降り。運転手にお礼のあいさつを掛け、タクシーを見送った。


「もうディナーパーティ始まってるよ! 急ごうぜ」


 和樹は腕時計を見ていた。

 〈ちゅらんみの間〉がある一階の窓はすでに明かりがついている。

 さらに誰かが挨拶をしているようで声が聞こえた。


 しかし、わたしは窓の隣にあるものを見ていた。

 泥水を撥ねた後が付着している輸送トラック。あのトラック、さっきタクシーの隣を猛スピードで駆けて行ったものだ。

 そしてトラックの運転席の角に人間の足のようなものが見える。

 まさか……。

 わたしは走り出した。


「おい、葉月! どうしたんだよ!」


 和樹が叫んでいる。


「誰かが倒れてるみたいなのよ! 悪いけど、救護室の人を呼んでくれない?」

「オッケー!」


 和樹は楓と村上君に事を話した後、中に入っていった。

 角で倒れていたのは茶髪ボブカットの女の子……。

 彼女は飛行機でわたしを起こしてくれた子だ。


「しっかりして! どうしたんですか?」


 わたしはぐったりしている女の子の体を揺する。

 女の子は目を閉じたまま、起きようとしない。

 まだ体が温かいことを見ると、気を失っているのだ。


 しかし、女の子を起こすのに必死になっていると後ろから近づく音に気づかなくなってしまう。


 ガン! 


 後頭部に強い衝撃が走る。

 脳が揺さぶられ、わたしは後ろを確認するまでもなく、視界が暗くなっていった。

 (Part.2につづく)

©️ヒロ法師・いろは日誌2016

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