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ふたりの探検記  作者: ヒロ法師
No.10 ネクラ少女の決意
30/54

Part.1

知りたがり系女子、千山葉月と残念なイケメン男子花浦和樹が挑む学園ミステリ。


居館高校では十二月の初旬に沖縄へ修学旅行がある。

葉月と和樹は小学校以来、久しぶりに雪城楓と一緒の班になった。葉月たちが班別行動の準備に追われている中、楓は小学校の修学旅行で起こったある事件を思い出していた。


※シリーズ中いじめの描写が含まれます。苦手な方は注意してください。

「あんたさ、性格悪いよね」

「ネクラに似て、暗くなったよね」


 机に座る一人の女子を囲んで、クラスメートたちがはやし立てている。

 わざと自分に聞こえる大きな声で。

 机には墨汁で黒塗りにされた教科書とノート。

 筆記用具や体操服は隠された。


「素直にあたしの言うとおりにしてたらこうならなかったのにねえ」


 女王様は艶やかな黒髪をかき上げ、机に座る黒髪がぼさぼさの女子を上から目線で見ている。

 あいつは女王様、わたしはゴミ。


 こんなの嫌がらせに決まっている。

 こんな時、助けてくれた人がいた。だけどあの人はもういない。


 わたしのせいだ。

 わたしが馬鹿な真似をしなければ、あの人は……。


 ***


 十一月末、居館(いだて)高校。

 間もなく冬、十二月になればクリスマスに冬休みと行事が目白押しだ。

 だがこの時期になると二年生は修学旅行に出向くことになる。

 行先は沖縄。二泊三日の研修旅行が待っている。

 そのため、二年生の期末試験は少し早めの十一月末から始まる。


 一方、居館高校の修学旅行は少し独特で二日目の「班別研修」はクラス関係なく班分けされたグループで、行先を決めて旅程を組む。

 班分け自体は三週間前の十一月中旬に決まった。

 三限目にグループごとに集まって研修先の計画を立てる。

 わたしの班はわたし含め男子二人、女子二人の構成だった。


「やっぱり葉月と花浦君、必ず一緒になるよね」


 一組にいるわたしの親友は微笑みながらも、不思議でしょうがないようだ。


「なぜかそうなのよね。小学校の時から今まで、こいつと別々になったことなんてないわ」

「きっとあなたたちには見えない何かがあるのよ。“夫婦”って専ら評判になってるし」


 わたしは頭を掻いた。


「和樹、あんたも何か返してよ」


 和樹は嫌そうな顔をして両手を上げた。


「オレに聞くな!」


 こいつ、認めてどうするよ。

 わたしは思わずため息をつく。


「八瀬川さんから聞いてたけど、仲がいいのは本当だったんだね」


 村上洋太(むらかみ ようた)君はまるで珍しいものを見たかのように驚いている。


「ま、まあねえ」


 梨花ったら余計なことを教えたわね……。

 村上君は先月、時計台で幽霊と遭遇したという男子生徒だ。梨花は村上君からそのことを聞き、わたしに調査を持ち掛けた。


 一方、梨花は幽霊の真相を調べたときに犯人に襲われたが、一命をとりとめ先週から登校できるまでに回復した。だが、彼女は別のグループ。偶然サッカー部の五条君と同じ班になったから興奮が冷めないみたいだけど。


「それで、行先だけど何か案はある?」


 わたしがリーダーになっていた(ジャンケンで負けた)ので、さっそく話を切り出す。

 行きたい場所はいろいろあるからなかなか決まらない。

 でも、二三か所にまとめないといけないから本当に難しい。生徒会に入ってる人とか、学級委員はこういうの得意なんだろうけど。


 その日の帰りの事。

 幹線道路に続く坂道を和樹と楓とともに歩いていた。


「頭使いすぎて疲れたみたい」


 わたしは茶髪に両手を当ててかきむしった。

 これだけ頭使ったのって、いつ以来だろ。


「おまえが普段頭使うのって推理の時ぐらいだしな」


 和樹はにやにやしながらわたしをからかう。

 勝手にしやがれ。


「とりあえず場所は決まったし、工程表づくりに交通費とお土産代も計算しないとね……」


 することは一杯ある。

 今週中に予定をまとめて安田先生に提出しないと。


「和樹も楓も悪いけど手伝ってくれないかな。わたしひとりじゃ手に負えないから」

「任せとけって。明日は期末前で一日休みだし、さっそく考えようぜ」


 和樹は了承してくれたので、楓にもお願いしてみる。

 しかし楓の目線は上の空だった。


「楓?」

「あ、ごめん」


 楓ははっとして声を上げた。

 何か別のことを考えていたようだ。


「どうしたの?学校出てからぼーっとしてたみたいだけど」

「今日のことでちょっと昔の話を思い出しちゃって。葉月や花浦君と修学旅行に行くのって小学校以来だったよね」

「あ、そうね。中学は別のところだったもんね」


 小学六年のときは和樹はもちろん、楓とも同じクラスだった。

 しかし、楓はわたしや和樹とは別の中学に進学していた。

 それでもわたしとの付き合いが無くなったわけでもなく、しばしば会って遊んでいた。


「あれ雪城もいたっけ?オレが思い出せないだけか?」


 和樹が下顎に右手を当て、空を見上げる。


「あんた、たかが五年前のこと忘れてんの?」


 だが、楓は和樹を見てほほ笑んだ。


「仕方ないよ。あの頃のわたしって居ないようなものだったから」

「あ、ごめん。雪城……」


 思わず和樹は口をつぐんだ。

 わたしも一瞬返す言葉をなくしてしまった。


「でもあの時はあの時。今の楓って人気者じゃない」


 わたしは小学校の楓も、今の楓も知っている。

 五年前と比べても楓は見違えるくらい変わった。

 大人しすぎた性格を逆手にとって、自分を変えていったから。

 だが楓は笑って首を振った。


「人気って、言うほどじゃないけどね。だけど、修学旅行のあの出来事は今でも頭によぎるの」


 それに和樹も何か気付いたのか、


「旅館で就寝前にあった事件か」


 楓は首を縦に振った。


 ***


 五年前の十一月。城柵(じょうさく)小学校。

 居館市の北側、湯殿町との境にある小学校で、北居館やその周辺地区にすむ小学生が登校している。

 わたしと和樹、楓の三人はいずれも六年一組に入っていた。


 その日の授業が終わり、わたしは楓と軽くおしゃべりしていた。

 わたしは小学校に入った時から楓と親しくしていた。


「そうだ。わたし、先生からプリントをもらわないといけないんだった」

「じゃあ、先に外に出てるね。待ってるから」

「ありがと、葉月」


 そう言って楓は教室を出て行った。

 わたしもランドセルと体操服が入った袋を背負い、出ようとすると後ろから声を掛けられた。


「葉月ちゃん、いつも雪城さんといるね」


 短くこげ茶色のつややかな髪が印象的な、クラスメートの美山妙子(みやまたえこ)ちゃんだった。


「友達だし」

「いい加減雪城さんに近づかないほうがいいよ。いじめられるから」

「え?また何かあったの?」


 妙子ちゃんは昨日あった事件について話してくれた。

 わたしはその日、風邪をひいて学校を休んでいた。


 楓はクラスの女子に囲まれ、ひどい仕打ちを受けていたらしい。

 教科書やノート、体操服など授業に必要なものを隠され、見つかった時には習字の墨汁をぶちまけられていた。


 楓はしばしばクラスの一部の女子やその取り巻きに嫌がらせや暴力を受けていた。

 少なくとも、三年ほど前からあったと思う。

 城柵小は毎年クラス替えがある。だから楓とは違うクラスになることもあった。


 小学生当時の楓は物静かすぎて、どこか暗い印象があった。

 高校生になった今もそうだけど、クラス内では特に女子の間では仲良し同士でグループができやすい。そしてグループ内のリーダーの言うことは絶対で、ハブられたらいじめられる。みんなハブられぬように必死でリーダーに同調する。

 一人でいることも少なくない楓は孤立しやすく、いじめの絶好の標的だった。


 そして、彼女をいじめていた主犯の想像はできた。


「いじめてたのって朝森さんのグループ?」

「うん。葉月ちゃんは雪城さんをよくかばってるから。女王様の言うことを聞かないと、同じ目に遭っちゃうよ」


 わたしは何も言い返せなかった。

 朝森さんは本名、朝森蛍子(あさもりけいこ)

 クラスで学級委員を務めている。

 しかし、自分の思い通りにならないことを嫌い、学級委員の立場を悪用して"公開裁判"と称して、気に入らないクラスメートたちをいじめていた。

 クラス内では“女王様”と呼ばれ恐れられ、特に女子の中では嫌でも彼女に同調する子もいた。

 わたしも朝森さんは苦手で、なるべく関わり合いを持たないようにしていた。


 一方でわたしは孤立しやすかった楓を誘って一緒に遊ぶこともある。

 楓が朝森さん率いるいじめグループから被害を受けていたところを何度か目撃していて、間に入って止めたこともある。

 多分、妙子ちゃんの言うように朝森さんたちはわたしたちを快く思っていないだろう。


「じゃあね、妙子ちゃん」

「うん。またね」


 そう言ってわたしは教室を出た。

 心に取るのが難しい埃ができた、そんな感じだった。


 校門前で楓を待っていると、すぐに彼女は現れた。

 しかし楓は顔を下に俯けていた。

 目を隠して、わたしのほうに顔を向けようとしない。


「どうしたの?」

「何でもない。帰ろ」


 帰り道、わたしと楓は北居館駅前を歩いていた。

 秋も終わりに近づき、午後四時過ぎなのに薄暗い。

 学校を出てから、わたしと楓は一言も喋っていない。

 口数は少ないかもしれないけど、ずっと顔を下に向けたままだ。

 泣いているようには見えない。だが不安になる。


「楓、いったい何があったの?」

「ごめん葉月。わたし、修学旅行行かない」

「え?」


 小学六年のこの時期、修学旅行で関西方面に行くことになっている。

 一泊二日で京都と奈良をめぐる。

 一日目は京都で寺社巡り、そして奈良で宿泊し二日目は東大寺の大仏、斑鳩を散策する。

 小学校生活では一大イベントといっても差し支えなく、楽しみにしているクラスメートの方が多い。

 でも、なんで……。


「また誰かにいじめられたの?」

「違うの。これを見てほしいの」


 それは班別行動表と旅館の部屋割り表。

 今日の学活でもらう予定だったのだが、楓は体育で怪我をして保健室で休んでいた。

 プリントを見せてもらうと、そこには「朝森蛍子」そして「二沢辰美(にざわたつみ)

 、「牧村卓司(まきむらたくじ)」の文字が、楓の名前と一緒に同じ班になっている。

 さらに、部屋割り表を見せてもらうと、いじめグループの女子二人の名前が妙子ちゃんと一緒に載っていた。


 朝森蛍子と二沢辰美。

 楓は二日目の自由行動以外、この二人と行動を共にしなければならない。


「やだよ……、こんなの」

「楓、先生にお願いして変えてもらおうよ。一緒にいればいいから」

「ありがとう、葉月……」


 翌日、わたしと楓は担任の谷村(たにむら)先生にこっそりと判のメンバーを変えてもらうようにお願いした。


「うん。わかった」


 先生は首を縦に振っていた。

 職員室を出た後、楓は安堵の表情を見せていた。


「よかったね、楓」

「うん!」


 しかし、今思い返すと先生の顔はとりあえず対応しておく、というような表情だった。

 その時から、あの事件は起きる可能性があったのだ。


 修学旅行当日、朝六時に小学校に集合する。

 晩秋なので、朝はとても寒い。

 行く前に天気予報を見ていたけど、居館の気温は五度。

 真冬の最高気温である。

 わたしは五時半に家を出て、昨日電話で迎えに来てくれと言っていた男の家に向かった。

『花浦』と表札があるドアのインターフォンを鳴らす。


「ああもう、なんでこんな時に起きたら誰もいないんだよ。父ちゃんの出張におふくろは送りに行くし、兄貴は部活の朝練だし……」


 寝ぐせでぼさぼさ頭の幼なじみが出てくる。

 どうやら起きた時に家に誰もいなかったらしい。

 わたしはちょっと和樹をいじりたくなった。


「あんたいまだにお母さんと寝てるんだ」

「ちげーよ!もう来年は中学生なんだぜ?そんなことするわけないだろ」


 ちなみに、高校の今に至るまで和樹が“一人で”寝たり、起きたりできた日はない。


「とにかく、さっさと学校に行こうぜ。遅れると谷村に怒られちまう」

「迎えに来てもらっといて、偉そうに……」


 わたしたちは急ぎ足で学校に向かう。

 学校についた時にはすでに六時を過ぎていた。

 六年の児童たちがもう集合し、出席番号順に並んでいる。

 わたしと和樹も急いで列に入る。


 全員集合したことが確認されると、みんなバスに乗り込んだ。

 わたしは楓の隣の席になっていた。

 すでに楓は窓側に座っていたが、頬杖をついて深くため息をついていた。

 浮かない顔で車窓の外に広がるまだまだ暗い空を見ている。

 嫌な予感がする。


「楓、どうしたの?」

「葉月、今から降りていいかな?」

「どうしたの?」

「班別行動のことなんだけど……」


 この前先生に頼んで班別研修の編成を変えてもらったはずなのだが、さっき渡された班編成のプリントには何も変わっていなかったらしい。わたしももう一度確認したが、そのままだった。


「どうしよう……」

「楓……」


 この時わたしは担任を初めて恨んだ。

 いや、そもそも谷村先生は事なかれ主義で朝森さんたちのいじめ問題を揉み消したり、「いじめられたほうにも問題がある」とかいってまともに取り合おうとしてこなかった。

 なんで班編成を変えなかったのか、問い詰めたくなった。

 しかし、肝心の谷村先生は別のバスに乗っている。

 絶望に打ちひしがれて地獄に引きずり込まれるような気持ちになっている親友に対して、何もできない自分が悔しかった。


 バスの中にいる子供たちはみんなこの修学旅行を楽しみにしている。

 わたしの幼なじみもだ。

 しかし、わたしと楓は全くの逆であった。

 本来ならわたしも楓も修学旅行を楽しみたい。

 様々な矛盾を抱えながら、わたしたちを乗せたバスは京都を目指していた。

 (Part.2につづく)

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