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ふたりの探検記  作者: ヒロ法師
No.7 時計台の女の子
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Part.3

脳筋だが知りたがり屋さんな千山葉月と、頭脳明晰だがちょっと残念な花浦和樹が挑む学園ミステリ。

10月、居館高校の中庭にある時計台が壊されることになった。しかし、時計台には昔いじめを苦に女子生徒が自殺し、彼女の幽霊が出ると噂されていた。

葉月と和樹は自称ジャーナリスト、八瀬川梨花とともに噂の真相を確かめるのだが……。


※いじめや殺人の描写が含まれます。苦手な方は注意してください。

 夕方五時前。もう一度事件現場の中庭に向かう。

 犯人は夜、またここに来るはずだ。明日は時計台が取り壊される日なのだ。

 それまでに証拠を固め犯人を告発しないと。


 中庭では今日の捜査は打ち切られたようで、警官たちは続々と帰り始めていた。

 容疑者三人もすでに解放されていた。

 堂宮警部と足利刑事はまだ残っていた。


「警部さん!」

「お、千山君たちか。いきなり消えたから、どうかしたのか?」


 わたしは図書室で調べたことを話した。さらに、学校で流れている『時計台の女の子』の噂も。


「噂を流して時計台に近づけないようにする。本当に隠されているものから遠ざけるために」

「それがこの学校で起こった事件と関係があるというのか」


 わたしは頷いた。


「もうすぐ時計台は取り壊されるんです。犯人はそれまでに時計台に隠してあるものを取り出したいはず」

「時計台は丹念に調べたが、何も見つからなかったぞ」


 わたしは地面に目をやった。


「例えば、土の中。この中に何かあるかもしれません」


 十五年前の事件で女子生徒は失踪している。

 遺体は発見されていないし、中庭の周りで不審人物や不審車両は目撃されていなかった。

 中庭は改修される。当然地面も掘り返されるし、何が隠してあったかばれる危険性がある。


「それで、証拠品は見つかりましたか?」

「ああ。近くのコンビニのごみ箱から見つかったよ。被害者のものとみられる指紋が発見された。そしてもう一つ、別の指紋があったんだ」


 堂宮警部は四角い二センチのSDカードを見せてくれた。

 その指紋は、わたしが推理した通りの犯人のものだった。



 その日の夜。

 誰もいない高校の中庭に、その男はやってきた。

 彼はスコップを持ち、時計台の前に立っている。

 もう明日には取り壊される。今日しか、掘り起こす時間は残っていない。


「やっぱり、思った通りだわ」


 その言葉に男は振り向く。

 目の前には見覚えのある女子生徒。


「あなただったのね。金山勉かなやま つとむさん」


 わたしの前には時計台の前でスコップを持って、驚いた様子でこちらを振り向いている中年の男。

 居館高校の警備員、金山勉だった。


「あんたはここの生徒じゃないか。なんだい、忘れ物を取りに来たのかい?」

「とぼけないでください。今そこで何をしようとしてるんですか?」


 金山はため息をついた。


「明日ここの時計台を取り壊すだろ。取り壊す前の最終確認だよ」

「何を確認するんですか?あなたはここの警備員で土建屋さんじゃないですよね」


 わたしは金山の足元を指さした。


「あなたは別の目的でここに来た。この時計台に埋められているものを探すために」

「何が埋められてるんだよ」


 それは十五年前に起こった女子生徒失踪事件。時計台に向かった生徒が、誰かを待っている様子を目撃されたのを最後に、行方がわからなくなっているのだ。


「その事件にあなたが関わっていたかはわかりません。だけど、この事件を利用し噂を流すことで、本当の目的から目を逸らせ、誰も近づけないようにする」

「どこにそんな証拠がある。そもそも、噂って何だね」


 わたしは目を閉じ、もう一度金山を眺める。

 表情を伺うためだ。


「『時計台の女の子』ってご存知ですか?」

「なにっ」


 金山は顔をしかめた。思った通りだ。


「この時計台で自殺したとされる女子生徒の幽霊が出るんだそうです」

「幽霊?そんな話は聞いていないが」

「じゃあ、話せば思い出すかもしれませんね」


 わたしは『時計台の女の子』の噂を告げる。

 そして、相手の表情や身振りを確認しながら、相手の動きを伺う。


「わたしの推理が正しければ、この噂は十五年前の事件が絡んでる。それにあなたが絡んでいたとしたら」

「かかわっている証拠があるのかい?さっきあんたは“わからないけど”と言ったよな。憶測だけで言われても困るな」


 わたしは金山から目を離さなかった。

 彼が女子高生失踪に絡んでいたかは不明だ。

 だけど、わたしは確信していた。

 こいつが梨花を襲ったんだ。


「では聞き方を変えましょう。昨日あなたはこの学校に来てますよね」

「ああ。夕方も言ったろ。仕事だから当たり前じゃないか」

「仕事?だけど、梨花が襲われたときあなたを含めてみなさん一人で行動していましたよね」


 これは三人誰もアリバイがなかった。

 当時学校には梨花とこの三人以外いなかったのだから、その気になれば誰でも梨花を襲うことができるのだ。


「でも、梨花を襲った時の状況からして犯行が可能なのはあなたしかいないんです」

「はあ?」


 金山を特定できた理由。

 それは犯人の利き腕と、三人の右手の状況。

 三人とも右利きであることが分かっている。しかし、一番若い杉村さんは右手をけがしていて、動かせない。

 もう一つは犯行時間から、通報までにかかった時間。

 ほんの五分しか残されておらず、通報したとされる中瀬さんに犯行をする時間はないのだ。


「ほう、消去法的に俺になるって訳か。でもどれも状況証拠に過ぎない。目撃者もいないんじゃ、俺を捕まえることは出来ないな」


 その時だった。


「金山さんよ。やっぱり予想通り来ていたみえだな」


 背後から数人の足音が聞こえる。

 現れたのは和樹と足利刑事、そして堂宮警部だった。

 さらに、事件の容疑者だった中瀬さんと杉村さんもやってきた。

 事前に和樹に警部たちを呼ぶように頼んでいた。


「金山さん、どうして先輩が……」


 杉村さんは信じられない様子で、言葉を漏らした。

 中瀬さんは目を閉じて、下を向いていた。


「刑事さんたちまで来るのか。俺はそれだけ疑われてるのかい」


 金山は唾を地面に吐き捨てる。


「おめーら、それだけ俺を疑うなら物的証拠を出せよ。決定的な証拠をな」


 わたしは不敵に笑った。


「見せてあげましょうか。あなたが梨花を襲った決定的な証拠を」


 そして警部から証拠を受け取る。


「このSDカードですよ。近くのコンビニに捨ててありました」


 梨花は襲われた時、撮影のためのカメラを持っていた。同時にカメラも壊されていたが、カメラはその時回っていたのだ(警部が事前に確認しており、犯行現場も確認されていた)。犯人はSDカードを処分するため、通報の後カメラからカードを抜き取っていたのだ。


「もしこれにあなたの指紋がついていたら、動かぬ証拠になりますよ」


 金山は硬直し、身動きが取れなくなった。

 秋の夜の冷たい風がわたしたちの間を吹き抜く。


 しばらくして、すべてを悟ったように口を開く。


「ふっ。俺の負けだ。俺があの女子生徒を殴った張本人だ」

「どうして梨花をあんな目に遭わせたの!?今も死にそうなのよ!?」


 わたしの中で何かが爆発したようで、大声で金山を怒鳴り付けた。


「葉月、落ち着け」


 和樹がわたしの方に手を置く。

 一方金山はひどく落ち着いた声だった。


「そもそもあんな時間に生徒が来ること自体がおかしいんだよ。興味本位で幽霊を確かめようとか馬鹿な真似を」

「だからといって襲うことはないわよね!注意するだけで……」

「あそこは立ち入り禁止。中は危険だからな」


 わたしははっとする。

 そう、この男は……。


「やっぱりあんたは十五年前の事件にも関わってるわね……」

「ああするしかなかったんだよ。この学校を守るためには」


 中瀬さんが前に出る。


「先輩!いったい何をしたんですか!?」

「中瀬よ。人にはな、言えないこともあるんだ」


 金山は、真相を語り始めた。


 ***


 十五年前、当時金山は居館高校の教師だった。

 七月のあるうだるような暑い日、金山は所用で中庭を通りかかっていた。

 その時、彼はとんでもない光景を目にしたという。


「おい、大宮。ここに首を掛けろよ。そうしたら許してやる」

「ま、度胸のないおまえには無理だろうがな。ははっ」


 時計台では、素行の悪そうな男子生徒と女子生徒が、顔を俯けている女子生徒の前に立ちはだかっていた。

 彼らの後ろの時計台には、ロープで輪っかが作られていた。

 金山は彼らに見覚えがあった。

 彼らは金山のクラスの生徒だったのだ。


 地面に顔を向けている女子生徒はクラス内でいじめられていた生徒で、素行な悪そうな生徒たちはその主犯格だった。

 女子生徒は無言で、顔を下に向けたままだった。

 主犯格の女子生徒は、俯けている生徒の背中に足を乗せた。


「さあ、さっさとやれよ。根性ないのか?」


 一切何も喋らない女子生徒の腹を、男子生徒は思いっきり蹴り飛ばした。

 女子生徒は身体ごと時計台にたたきつけられ、ぐったりと倒れ込んだ。


「何寝てんだよ。早く起きろ」


 だが、女子生徒は横たわったまま動かない。

 しばらくしても、彼女は起きる様子はなかった。


「ねえあんた。大宮の様子がおかしくない?」

「はあ?」


 男子生徒がぐったりしている女子生徒の体を揺する。

 女子生徒の顔は丸太が転がるように仰向けになる。

 しかし、女子生徒からは精気が消え、目は見開き、頭から血を流していた。

 彼女は、息をしていなかった。


「お前たち、一体何してるんだ!」


 金山が駆け寄ると、生徒二人は怯えて動けなくなっていた。


「か、金山先生!俺たちはただ大宮の根性直しに……」

「そ、そうなのよ!勉先生!これはただの事故で……」


 この二人があの女子生徒を殺してしまったのは間違いなかった。

 だか、この二人は金山のクラスの生徒。こんなことが上に知れたら何を言われるかわからない。


 そういえば、この女子生徒も学校生活で問題を抱えている生徒だ。

 援助交際をしているという噂もあった。


「玲子、里川君。ここは先生に任せるんだ」


 きょとんとする生徒に金山は叫んだ。


「早く帰れ!」


 その後金山は、女子生徒の遺体を時計台の前に埋めた。

 表向き、これは失踪事件として処理された。

 金山が学校にそう報告したからだ。その後、金山は一身上の都合から教師を退職した。

 真相を知る者は金山と女子生徒をいじめていた二人だけだった。


 ***


「そういうわけだ。あの女生徒がいじらなければ、すべては平和のままに終わったんだ」


 堂宮警部が前による。


「続きは署の方で聞く。さあ、立ち上がるんだ」


 金山がわたしの前を通り過ぎる。

 わたしははらわたが煮えくり返っていた。

 梨花を襲ったことに何も非を感じていないのだ。

 これまでクズみたいな犯人に遭ってきたけど、こいつは群を抜いて許せなかった。


 わたしは声を張り上げた。

 そして金山に詰め寄る。


「あんたねえ、いじめで殺された子を埋めるのも人として最低だけど、梨花を襲ったのも許せないわ。もし梨花が死んだらどうしてくれるのよ!」

「葉月、よせ!」


 和樹がわたしの上着を引っ張る。


 金山は何も言わなかった。

 ただ俯いて、地面を眺めるだけだった。


 その時、足利刑事の携帯が鳴った。


「もしもし。あ、居館総合病院ですか?ええ。わかりました」


 電源を切ると、刑事はわたしのところにやってきた。


「安心していいよ。被害者は意識を取り戻したそうだ」

「よ、よかった……」


 ほっとわたしは胸をなで下ろした。


 ***


 その後、時計台の下から白骨化した遺体が発見された。

 死後十年以上たっていたがわずかに残っていた歯の治療痕から、十五年前に失踪した女子生徒であることが判明した。

 遺骨は検死の後、生徒の親戚に引き取られた。


 時計台の取り壊しは一日遅れてしまったが、無事に終了した。


 数日後の日曜日。

 和樹との勉強がひと段落した後、わたしは和樹とともに病院に向かった。

 事件後初めて、梨花と面会するためだ。

 病室に入ると、梨花は窓に広がる居館市の街並みを眺めていた。


「梨花、調子はどう?」

「やっぱり頭が痛い……」


 頭を押さえて震えていたが、ゆっくりこっちを振り向くと梨花は笑顔を見せた。


「でも、十二月の修学旅行までには絶対復帰してみせるから」


 回復したばかりだからまだまだ油断はできないけど、元気そうで何よりだ。

 梨花はもう一度窓の外を眺めた。


「それにしても、時計台の下に遺体が埋まってたなんて……」

「あら、あんたいつの間に知ったの?」

「テレビで見たのよ。でも、本当にすっごいスクープになると思ったのになあ」


 わたしはため息をついた。

 確かに捨て身の取材も必要かもしれないけど、あれは無計画すぎる。


「梨花、気をつけてね。あれであんた死にかけたんだから」


 梨花は顔を俯けた。


「そうね……。ちょっと無謀だったかも。それで葉月、ありがとうね。事件を解決してくれて」

「だったら和樹に言ってよ。あいつが言ってくれなきゃ、わたしも犯人を告発するなんてできなかった」

「花浦君が?」


 梨花は和樹に顔を向けた。

 和樹は壁にもたれかかっている。何か妙にかっこつけてるようだけど。


「ま、葉月も八瀬川と似たところがあるからな。そりゃそうとこいつ八瀬川のことになると半泣きになって刑事にすがってたんだ」

「半泣きは余計よ」


 和樹はにやにや笑う。

 わたしは和樹の靴を踏んづけたくなったけど、ここは病院だ。やめておこう。


「そうなんだ。ありがとね」


 梨花も微笑んでいた。

 (「時計台の女の子」おしまい)


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