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ふたりの探検記  作者: ヒロ法師
No.5 お姉ちゃんを助けて
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Part.4

脳筋だが知りたがり屋系女子な千山葉月と、頭脳明晰だがちょっと残念系男子な花浦和樹が挑む学園ミステリ。


雪城楓に誘われ、雪城神社で開催される夏祭りの準備を手伝っていた葉月と和樹は、楓と同じテニス部に所属する浅間咲菜が参拝するところを見かける。

咲菜は姉、姫菜の夏風邪治癒のために参拝しているというが……。

 その日の夕方。

 咲菜ちゃんのアパート。

 楓も病院からすぐに駆けつけてくれた。


「葉月、犯人が分かったって言ってたけど……」

「ええ。楓、あんたのおかげで裏付けも取れたわ。あとはみんなが来るのを待つだけ」


 堂宮警部の段取りが早かったので、容疑者はすぐに集まった。

 交番で事情聴取を受けていた姫菜さんと筑波さんも、堂宮警部の指示で警官に伴われて来ていた。


「もう今度は何なんですか!またあたしたちが疑われてるんですか?」


 筑波さんは声を荒げている。


「呼んだのはこの嬢ちゃんだ。詳しいことはこいつに聞いてくれよ」


 堂宮さんの応答に筑波さんと姫菜さんの視線はわたしに向けられた。


「あなたは病院にいた……」

「すいません。いきなり呼び寄せたりして。話しておきたいことがあったんで」


 さらに足利刑事に連れられて八島さんも現れた。


「なんで俺もなんすか?」


 八島さんはさっきまで寝ていたらしく、大きな欠伸をしていた。


「咲菜ちゃんの殺害未遂事件。この真相をすべて話そうと思います」

「犯人が、わかったの?誰なの、咲菜をひどい目に遭わせたのって……」


 フードを被ったまま、姫菜さんは小さな声で言った。


「ええ。そして、この事件は一昨日起こった大学生殺害未遂事件と関連している。わたしは咲菜ちゃんを殺そうとした犯人が、大学で稲木さんを襲った犯人とみています」


 筑波さんは立ち上がり、机を強く叩いた。


「ちょっと、あんたも姫菜が犯人だって言うの!?あんたのその推測なら咲菜ちゃんも姫菜がやったって言うの?信じられないんだけど!」

「落ち着いてください。姫菜さんは咲菜ちゃんの事件に関してはシロです」

「シロ?」


 襲われる直前、咲菜ちゃんは誰かを招いていた。

 一方で姫菜さんは稲木さん殺害未遂事件の容疑のため、筑波さんに匿われていた。

 その状況で、アパートに近づくのは無理だ。

 そして姫菜さんの部屋には今朝彼女がいた痕跡はなかった。


「来客が犯人。部屋の状況からして犯人は咲菜ちゃんを自殺したように偽装した。多分だけど、咲菜ちゃんは姫菜さんをすごく心配していたからそれを苦に自殺した、というストーリーを演出しようとしていたのね」

「じゃあ、犯人は誰なのよ」


 わたしは和樹にあの日記を持ってくるように頼んだ。

 日記を受け取るとそれを三人に見せた。


 この日記は咲菜ちゃんがつけていたもの。

 ここ数日の日記を見ると、姉の姫菜さんの様子がおかしかったこととその原因、さらには彼女を追い詰めた諜報人の名前も記されてあった。

 咲菜ちゃんはお姉さんを心配して探っていたのだ。


 そして、真犯人を告発するページにはこう書かれてあった。


 ――お姉ちゃんを助けて


「その犯人は恋人を裏切ったんです」


 楓からの連絡で聞いた、姫菜さんが泣きながら訴えた人物。

 わたしは咲菜ちゃん殺害未遂の犯人を指さした。


「八島さん。あなたですよ」


 一瞬周囲を沈黙が覆った。

 八島は笑い始めた。


「俺が犯人?その日記だけで犯人にされるとは、気に食わないな。何か証拠を見せろよ」

「証拠ならありますよ。ま、この日記もそうですしいずれ咲菜ちゃんが目を覚ましたら証言を得られるでしょうけど」


 そして、わたしは病院であったことを話した。


「今朝病院で会った時です。あなたは咲菜ちゃんが首を吊ったと聞いて駆けつけていましたけど、その時に気になることがあったんです」

「なんだよ」

「どうして部屋の状況を知ってたんですか?第一発見者であるわたしと和樹、楓以外の人が警察の現場検証以前に入ることなんてできませんよ」


 八島の顔が引きつった。


「そ、それは家庭教師があったからだ。あいつ、俺が行ったらいつもそうしてるんだよ」

「今日は昼からだったんですよね?午前中の早い時間帯から準備をするんですか?」


 八島の顔から冷や汗が出始めていた。


「そうだろうぜ?」

「じゃあ、もう一つ。その午前中にあなたらしき人がアパートに来ていたという目撃証言があるんです」


 事前に目撃情報を調べたところ、業者の出入りの後に、八島とみられる若い男が咲菜ちゃんのアパートを開けて入っていったという。

 封筒がポストに投函されたままであることを考えると、その時はまだ鍵がかかっていた可能性がある。


「多分、あなたが来るまで咲菜ちゃんは鍵をかけていた。そして、あなたが来たから鍵を外した。その後わたしたちが来るまで出入りは無かったから、あなたが入って手にかけた……、というところですね」

「妄想もいいところじゃねえか。咲菜の部屋から指紋は出てきたのかよ」


 わたしは頷いた。


「ロープからね。咲菜ちゃんのものじゃない指紋が出ました。なんなら、あなたの指紋と照合してみたらどうですか?多分、一致すると思いますよ」


 八島はそのまま硬直してしまった。

 堂宮警部が八島の前に立った。


「どうするんだ」


 八島は床を見て、何も言わなかったがやがて口を開いた。

 だが、口調がそれまでとは違っていた。


 フン、と八島は両手をポケットに突っ込み表情を変えた。

 八島は吐き捨てるように言い放った。


「ああ、そうさ。俺が咲菜を殺そうとしたんだ。あいつ、裏でこそこそと俺とヒメを嗅ぎまわってたんだ」


 姫菜さんは驚きを隠せず、筑波さんの手を強く握った。筑波さんも彼女の肩を持っている。

 やっぱりと思った。


「やっぱり、あなたが稲木さんも」

「ああ。あいつは俺とヒメにとっちゃクズみたいな奴でよお。俺とヒメの嗜みを写メりやがったんだ」


 八島と姫菜さんがデート中、ホテルから出てきたところを稲木が撮影し、二人を脅してゆすっていたという。

 実はそのホテルが郊外にあるラブホテルで、二人はすでに事後だった。


「嗜みって、よく言えるじゃない……」


 姫菜さんは今にも消えそうな、かすれた声をこぼした。

お姉さんはこの“嗜み”で八島に裏切られたのだ。

 その結果姫菜さんは深く傷ついてしまった。

 八島はさらに発言を続けた。


「俺もヒメも有名な病院への就職が内定していた。稲木って奴は今回の件を就職先にばらすって脅してきたんだ。だから消してやったんだ」


 わたしは八島の発言に憤りを感じた。

 姫菜さんのことを思って八島さんを殺そうとした?

 どんな理由であれ人を殺めていいはずがない。だけど、八島には姫菜さんへの気遣いが一切感じられなかった。


「あんた、本当に姫菜さんを守ろうと思ってたの?姫菜さんは容疑をかけられていたのよ!?」

「お前こそ頭大丈夫か?俺はヒメが心配だったと病院で言ったろ」


 また話をそらそうとしている。

 こいつは間違いなく姫菜さんに罪を着せようとしたのだ。

 咲菜ちゃんもそのことは見抜いていただろう。


「じゃあ、なんで姫菜さんに疑いを向けられるように仕向けたの?本当は姫菜さんも快く思っていなかったんじゃないの?」


 フン、と八島はまた鼻息を立てた。


「でも結果的に稲木からのゆすりはなくなったし、結果オーライじゃねえか」

「あんたねえ……」


 ひたすら話をそらし続け、自己弁護をする八島にわたしは爆発寸前だった。

 すると、堂宮警部がわたしの肩を叩いた。


「千山君、お前の気持ちはよくわかる。だが、こいつに何を言っても無駄だ」


 下がっていろと言うと堂宮警部は八島の前に出た。


「てめえなあ、男として、いや人間としても最低なんだよ。お前さっき稲木をクズとか言ったよな。確かに稲木はクズかもしんねえが、お前はそれ以下だ」

「俺がクズ?警部さんは稲木の肩入れをするのか?さっきも言ったが俺はヒメを助けるために……」


 警部は八島が言葉を続ける隙を与えず、八島の首を掴み上げた。


「その言葉は聞き飽きた。もっと他の話をしろや」


 八島は苦しんだまま何も言わない。


「何も言わねえのなら俺が言ってやる。お前が姫菜に罪を擦り付けたのは姫菜も邪魔だったから。姫菜は妊娠してるんだ。もし妊娠させたことがばれたら就職に影響が出かねん。だから、ゆすった八島と一緒に姫菜を刑務所送りにするために彼女を呼びよせたんだ。違うか?」


 警部は八島の首を話した。

 八島はむせ返り、咳き込んでいる。

 わたしも和樹も楓も、姫菜さんも筑波さんもその場にいた人たちはみなこの八島という男に怒りや憤りを抱いていた。


 八島はその後何も言わなかったが、ロープについていた指紋は八島のものであることが判明し、さらに稲木殺害未遂に使われた岩からも彼の指紋が検出された。

 その日のうちに姫菜さんと筑波さんは釈放された。


 八島は殺害未遂容疑で逮捕され、足利刑事とともに居館署へ護送された。

 日が沈み、あたりが暗くなってきたため、わたしと和樹、そして楓は警部の車で家まで送ってもらえることになった。


「警部さん、本当にありがとうございます。家まで送っていただけるなんて」

「嬢ちゃん、夜の外出は居館じゃ禁止されてるんじゃなかったのか?」

「あ、そうでしたね……」


 わたしは思わず頭を掻いた。


「でも、礼を言うのは俺たちのほうだ。お前がいなかったら間違って姫菜を逮捕していたかもしれん。高校生にしてはすさまじい推理力だったぞ」

「ま、本当にそれだけだけどな」


 和樹がにやにやして話に突っかかった。


「あんたはうっさいの」


 わたしは和樹の肩を軽く押した。

 警部も楓も笑っていた。


「それにしても姫菜さん可哀想ですよね。不本意に妊娠させられて、ゆすられて、挙句の果てには殺害未遂の容疑者にされちゃうんですから」

「ああ。俺たちも申し訳ないと思っている。すまんが、あの姉妹のことを見守ってやってくれ」


 わたしはわかりました、と深く頷いた。

 夕闇が居館の市街地を包んでいった。



 三日後の夜。雪城神社。

 夏祭りが盛大に開かれ、境内は何百人もの参加客で賑わっていた。

 わたしも和樹や楓と一緒にお祭りを満喫していた。


 夏祭りの主催は雪城神社の関係者が行っていた。楓は手伝いをしていたが、同級生と一緒に遊んできなさいと許可をもらっていた。


「咲菜ちゃんに何もっていこうかしら……」

「あれ、楓。咲菜ちゃん目を覚ましたの?」


 楓はにっこり笑った。


「ええ。夕方、ちょうど意識を取り戻したみたいでね。回復も早くて、早ければ明後日にも面会できるって」

「よかった……」


 わたしは安堵した。

 姫菜さんも妹の意識の回復を心から喜んでいた。

 しかし、彼女が妊娠していることに変わりはなかった。

 今後どうするかは家族と話し合って決めるという。


「じゃあ、今度わたしもお見舞い行くね」

「葉月、ありがとう!」


 横から和樹が声をかけてくる。


「ところでさ、姫菜をゆすっていた犯人はどうなったんだ?」

「昨日堂宮警部から連絡があってね。意識が戻ったって。回復を待って恐喝罪で逮捕する方針だって」


 稲木殺害未遂事件を捜索していた刑事によると、姫菜さんや八島以外にも何人もの人からお金をゆすって、巻き上げていたという。


「ほんとに男として最低な奴らだったな。俺はあんなふうになりたくないぜ」

「まあ、和樹は大丈夫でしょ。オタクだから」


 和樹はむっとした。


「それとこれとはカンケーねえだろ……」


 わたしたちは笑った。

 こうして夏休みに起こった事件は解決した。

 ふと和樹は何かを思いついたのか、わたしの顔を見た。


「さて、解決したということは補習の続きだな」

「あ……」


 わたしは言葉を失った。


「明日からまたみっちりと補習するからな?葉月、覚悟しろよ?」


 あ、はい。

 女子高生らしく夏休みは遊べそうも、ない。

 (「お姉ちゃんを助けて」おしまい)

シリーズ最終話。

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