Part.2
居館高校に通う女子高生、千山葉月は幼馴染の花浦和樹とともに兄宗治の中学時代の同窓会の準備に参加する。五年ぶりにタイムカプセルが開封されるということで、皆それぞれ想いを膨らませていた。ところが、埋められているはずのタイムカプセルが無くなっていた。開封までに葉月たちはタイムカプセルを見つけ出すことができるのか。
手分けしての捜索が始まった。宗治さんたちは打ち合わせが済んでから合流するとのこと。
わたしと和樹は居館中学に向かった。
中学校は喫茶店から少し離れたところにある。
市内はいくつか中学校があるが、わたしも和樹も宗治さんも居館中の出身だ。
わたしと和樹は居館中の校門前に立った。
今日は午前中、中学の部活をやっているとのこと。
宗治さんはすでに中学校の使用許可を得ていた。
「二時間前か……。その時に学校にいた人を捜す必要があるわね」
「そうだけどあんまり人はいないと思うぞ?今日は土曜日で本来なら休日。朝なら尚更だ」
和樹の言うことも一理あった。
人があまりいないとなれば手がかりを探すのは大変だ。
「でもその分早く見つかれば人捜しの時間も短縮できるわ」
「そうだな。朝からいそうな人といえば……」
わたしの頭に浮かんできたのは……。
「校務員さんか、警備会社の人よね。その人たちに訊こうよ」
わたしたちは中学校の事務室に向かった。
ここは休日でも開いていて、学校事務の人や警備会社の職員が仕事をしていることがある。
わたしや和樹はここの卒業生だが部外者なので、彼らに許可を取っておく必要があった。
わたしは事務室の小窓から中にいる警備会社の職員に呼びかけた。
中年の男性警備員は煙草を吸ってテレビを見ていたが、煙草を灰皿に潰すとこっちにやってきた。
「どうしたんだい?」
わたしと和樹は自分たちが午後から開かれる同窓会の手伝いに来ていることを告げた。
それで、埋められているはずのタイムカプセルが無いことも話した。
朝六時半ごろに怪しげな人はいなかったか。
タイムカプセルを掘り返した人物を見なかったか。
「さっきも聞かれたんだが、そんなやつは見ていないよ」
人目に隠れて掘り起こしたらしい。
確か、この学校は周囲を金網に囲まれ容易に入ることはできないはずだ。
「念のため聞きますけど、何者かが変な所から学校に入ったってことはないですよね」
「ああ。塀も金網もよじ登られてなかったよ」
中に入る許可をもらうと、わたしと和樹は事務室を離れた。
「なあ葉月。よじ登るのが無理ならどうやって犯人は校内に入ったんだ?」
「うーん。今のところ考えられるのは事務員の人が校門を開けてからでしょうね」
今はそう考えるのが自然だ。
校門は開けられると、それ以降は開けっ放しだ。
だから自由に出入りはできる。
わたしは携帯電話の画面を眺めた。
今は八時過ぎ。
タイムカプセルを開けるまで、大分時間がある。
「次に誰が掘り起こしたか、よね。和樹、あんたは誰だと思う?」
「同窓会の関係者だろ。タイムカプセルを取り出したんだから、兄貴の同級生か先生か」
和樹は何かひらめいたのか、右手を左手の拳で叩いた。
「確か、兄貴が出席者名簿を持っていたはず。行ってみようぜ」
直後、和樹のスマホが鳴った。
画面を確認すると、宗治さんからだった。
「どうした、兄貴」
しばらくして、和樹は「わかった」と応じると通話を切った。
「宗治さんがなんだって?」
「喫茶店での打ち合わせが済んだから、こっちに来るってよ」
わたしと和樹はすぐに宗治さんと飯田さんと合流した。
タイムカプセルが埋められていたのは中学の中庭。
中庭に行くとすでに宗治さんたちの先生が数名いた。
二十数人で中庭やその周辺を探す。しかし、一向に見つからない。
そうこうしているうちにスマホの画面を見るともうすぐ九時になるところだった。
「まずいな、もう同窓会が始まってしまう」
腕時計を見て宗治さんが呟く。
「あとはわたしと和樹で探します」
「いいのか?千山」
わたしは一つ頷いた。残された時間はまだある。
何としてでもタイムカプセルを取り戻したい。
「それで、出席者の名簿、見せてほしいんですけどいいですか?」
「犯人をあぶり出すためだな」
宗治さんは名簿を手渡してくれた。
名簿欄にはクラスメート三十人全員の名前が記され、出席した人にはチェックがついていた。
しかしそのうち五人は名簿にチェックがついていなかった。
なぜ休んだのか、とりあえず宗治さんに訊いてみる。
「大学のクラブが忙しかったり、仕事で出張に行っていたりして休んでるんだ。全員、昨日うちに連絡があったよ」
なんと、宗治さんはわたしたちにメールの履歴を見せてくれた。
金曜日 15:44 笹川綾「部活の大会で来れません! 」
金曜日 16:02 秋川すずな「外せない仕事が……」
金曜日 17:15 恩田大樹「海外出張orz」
金曜日 17:58 滝川明人「研究発表と重なっちまったぜ」
金曜日 18:29 瀬田雪子「こんな時期にインフルに(涙)」
どれも休む理由としては仕方ないものばかりだった。
タイムカプセルが外にあるとすれば、内部にいる誰かが持ち出したんだろうけど……。
「ねえ和樹。あんたは犯人はこの会場の中にいると思う?」
「いきなり何訊くんだよ。わかんねえけど、壺なら兄貴の言うようにここにはないと思うぞ」
これだけ大人数で隅々まで探したんだ。
もう学校にタイムカプセルは無いとみてよさそうだ。
「タイムカプセルがないのなら犯人も外にいるのかな……」
外に出ることは可能だ。
校門は閉門時間となる夜までは開けっ放しになるから。
ただ、タイムカプセルを外に持ち出したのなら、どうするつもりなのだろうか。
その時、わたしの頭にあることが浮かんだ。
「ねえ、タイムカプセルって思い出を仕舞い込むものよね。タイムカプセルを持ち去るってことは何か犯人にとって都合が悪いからじゃないかしら」
「可能性はあるな。例えば、クラスの奴らいじめられてたとか」
その時、いきなり横から声が入った。
「そんな話はないぞ」
その声は宗治さんだった。
宗治さんは唸るように声を上げている。
「うちのクラスはいたって平和だったよ」
「そ、そうですよね。でもじゃあなんで都合が悪いんだろ……」
考えてもらちが明かなかった。
とりあえず、わたしは学校の校門近くにある自販機にジュースを買いに行くことにした。
気分転換をするためだ。
和樹は宗治さんの手伝いをするとかで、わたしと一旦別れた。
わたしはお金を自販機に投入すると、大好きなオレンジジュースのボタンを押した。
ガコン! と音を立てて、缶ジュースが落ちてきた。
校門近くのベンチに腰を掛けて缶ジュースを飲んでいるときだった。
わたしの近くを二人の女の人が歩いて行った。
みるからに宗治さんの同級生だった。
二人は同窓会の会場である体育館に向かっていた。
「花浦君と薫、中学卒業してからどうなったのかな」
「付き合っていたみたいだけど、あの二人、別々の道を選んじゃったから」
宗治さんと飯田さんが付き合っていた?
どういう意味だろうか……。
わたしの中にあった好奇心がうずく。
とはいえ、呼び止めるのはどうかと思う。
一度和樹あたりに聞き出してみるか。
わたしは体育館に向かった。
すでに宗治さんと飯田さんは同窓会を仕切りに行っている。
和樹はというと……。
「あんた、そこで何にやついてんのよ! 」
わたしの耳打ちに和樹はびくついた。
「って葉月! おまえ声でけえんだよ! 」
「はたから見たらすっごく不気味なんだけど」
まあ、和樹が見とれていたものの想像はつく。
飯田さんだ。
彼女は宗治さんと司会進行役をやっていたが、身なりといい仕草といい、何か惹きつけるものがあった。
「やっぱり薫さんは美人だよな」
「まあ、確かに綺麗だけど……、ってのはとにかく! あんたに訊きたいことがあるんだけど」
「なんだよ?」
そう。
さっき小耳にはさんだ話。
宗治さんと飯田さんが付き合っていたことだ。
「そんなの初耳だぞ。兄貴も言ってなかったし。まあ、兄貴と薫さんが一緒に帰ってたことは事実だけど」
和樹によれば一緒に勉強するために帰っていたという。
それが本当だとしたらさっきのはただの噂なのだろうか。
「でもさ、葉月。その事とタイムカプセルは関係ないんじゃないか」
「そうかもしれないけど、気になっちゃって……」
今はそれ以上のことはわからないだろう。
そして、わたしはタイムカプセルの行方について聞いてみた。
和樹は首を振った。
「わかんね。犯人がこの学校に来てるかどうかの見当もつかない。ただ、怪しい人間ならいたぜ」
「怪しい人間?」
同窓生の中に、朝方中学校の前でうろついている不審な車を目撃したという。
しかし、車から降りる瞬間は目撃されていなかった。
「タイムカプセルが掘り起こされたのは朝なんでしょ?ひょっとしたら、その車の運転手が犯人なのかも……」
とはいえ、それがだれなのかは不明だ。
欠席者の中に犯人がいるのなら探し出すのは簡単なのだが……。
現在午前十時。
タイムカプセルが開封されるまであと六時間。
その時、ふとわたしの頭の中に何か思い浮かんだ。
「ねえ、和樹。犯人はこの会場に来ると思う?」
「いきなりなんだよ。わかんねえけど、来るとしたら戻しに来るかもな。兄貴いわくクラスは平和だったらしいし」
クラス全員に恨みを持っているなら、同窓会を台無しにするために一大イベントのタイムカプセルを隠したり、壊したりしそうだが、そうでないとしたら戻しに来る可能性があるからだ。
「出席者の名簿持ってる?」
「ああ」
和樹は名簿を渡してくれた。
原本のままもらうのはまずかったので、コピーを取っていたのだ。
もう一度名簿を眺める。
この中に犯人がいることは間違いない。
和樹が話してくれたのだが、先生たちはタイムカプセルに記念品は入れていないという。これは宗治さんから聞いたことだ。
「出席者二十五人に欠席者五人。これだけ多いと犯人を捜すのに骨が折れるわね……」
わたしは思わず腕を組んだ。
こんな時は解くのが楽な方を選ぶ。
数学を教えてくれた宗治さんが言っていた。
「とりあえず休んでいる人の裏を取ろうよ。その中で裏が取れない人が怪しいとみていいかも」
「そうだな。いる奴に関しては、後からでも調べられるし」
わたしと和樹は休憩時間を見計らって宗治さんから休んでいる五人の連絡先を聞き、メモを取る。
もちろん、タイムカプセルを持ち去った犯人捜しのためだということも話してある。
来ていないのは以下の五人。
笹川綾
秋川すずな
恩田大樹
滝川明人
瀬田雪子
五人とも現在は遠方に住んでおり、直接会いに行くことは出来ないので電話で連絡を取る。
宗治さんは連絡先を教えてくれた時、こう話していた。
「直接今何をしているか聞くんじゃなくて、タイムカプセルの記念品をどうするか尋ねてくれ」
わたしたちは頷いた。
「まずは笹川さんね」
「メールによればテニスの大会と重なって出られないって話だな」
連絡を入れる。
【もしもし、笹川ですけど】
「すみません、今タイムカプセルを開封するんですけど、笹川さんは来られないんですよね。記念品はどうされますか?」
電話越しにボールを打ち合う音が聞こえた。
声援も聞こえる。
【そうね。あたしの家に送ってくれないかしら】
「わかりました。試合中失礼しました」
笹川さんの裏付けはとれた。
秋川さんも電話越しに聞こえてくる環境の音からもメールの裏付けが取れた。
瀬田さんは本人の声以外のものは聞こえなかったが、声の調子からとても外出できそうになかった。
【ゲホッ! ゲホッ! 私の宝物は後で取りに行くわ……。大事にとっておいて】
瀬田さんは相当咳き込んでいた。
熱も四十度近いらしい。
「つらいときにお電話してすみませんでした。失礼します」
わたしはスマホの通話を切った。
残るは恩田さんと滝川さん。
恩田さんに電話をかける。
しかし、何度コールしても応答がない。
「出ないわね……」
「外国にいるんだから、今寝てるんじゃないか?」
とりあえずわたしは宗治さんに恩田さんがどこの国に行ったか尋ねた。
「イギリスだよ。日本とイギリスの時差は九時間。向こうの今は夜だ。今は寝てると思うぜ」
イギリスに行ったことは本人からのメールでわかったという。
わたしと和樹は同窓会に来ていたクラスメートにも聞いたが、イギリスにいることはみんな言っていた。
残るは滝川さんだ。
これで彼の裏付けが取れたら、犯人は出席者の中にいることになる。
電話をかける。
【はい、滝川ですが】
「すみません。同窓会のスタッフのものですが」
【ど、同窓会! ?断ったはずですけど】
いきなり受話器の向こう男の人の口調が変わった。
「いや、そうじゃなくてタイムカプセルの記念品のことです。今日来られないみたいですけど……」
【は、発表が終わったら取りに行きます! 】
滝川さんは一方的に電話を切った。
口調も何かおどおどしていた。
わたしは考え込んだ。
「何か隠してるのかな……」
「単に発表で忙しかっただけじゃないのか」
確かにそうなのかもしれない。
宗治さんによればフィールドワークの成果を発表してるらしい。
聞いたこともないカタカナ語を聞いてわたしの頭は痛くなった。
とりあえず、五人とも連絡を取ることは出来た。
この中に犯人がいるのだろうか……。
和樹は手を広げて首を振った。
「多分いないだろうな。もうこうなったら片っ端から聞いていくしかないかもしれねえ」
「でも、怪しい人ならいるわ」
「誰だよ、それ」
そう、タイムカプセルを持ち去った張本人はこの中にいるのだ。
(Part.3につづく)
©️ヒロ法師・いろは日誌2016