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ふたりの探検記  作者: ヒロ法師
No.5 お姉ちゃんを助けて
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Part.2

脳筋だが知りたがり屋系女子な千山葉月と、頭脳明晰だがちょっと残念系男子な花浦和樹が挑む学園ミステリ。


雪城楓に誘われ、雪城神社で開催される夏祭りの準備を手伝っていた葉月と和樹は、楓と同じテニス部に所属する浅間咲菜が参拝するところを見かける。

咲菜は姉、姫菜の夏風邪治癒のために参拝しているというが……。

 少しして警察官たちの現場検証が始まった。

 わたしと和樹も事件の第一発見者として一番近い北居館署で事情聴取を受けていた。


 わたしたちが訪れたときにはすでに咲菜ちゃんは首を吊っていたこと。

 アパートの部屋は開いており、誰かが直前までいた痕跡があったこと。

 遺書が偽装された可能性があることを告げた。

 わたしと咲菜ちゃんの交友関係や事件発生時のアリバイ確認など、少々戸惑うこともあったが無事に人生初めての事情聴取は終わった。


「ふむ。ということは君は自殺じゃなく、殺人未遂の可能性があると」

「ええ。犯人は見ていないのでわからないんですけど」


 若い刑事は足利刑事といった。


「よろしい。じゃあ、今後のことは被害者の意識が回復したら改めて聞くことにして、君たちは帰っていいよ。また何かあったら連絡するから」


 わたしたちは警察署を出た。


「さて、わたしたちも病院に行こうよ。咲菜ちゃんのことが心配だし」

「そうだな。で、家に帰ったらおまえは“補習”だな」


 和樹はにやにや笑っている。


「な、なによっ!今度の休日でいいじゃないの!明日はお祭りなんだから!」

「逃がさないからな。覚悟しろよ」


 帰りしな、咲菜ちゃんのアパートの近くを通りかかると、


「さ、咲菜が!?本当なんですか?」


 夏なのに、分厚いフード付きコートを着た女の人。

 そして、隣にショートボブの快活そうな女の人が、警官ともめていた。


「ああ、首を吊って病院に運ばれたよ。そもそも君たちは誰なんだね」

「な、ならいいです……」


 女の人たちは渋々去っていった。

 誰なんだろう……。


「ねえ和樹。あの二人、咲菜ちゃんに関係ある人かな」

「そうだろ。咲菜の名前を言ってたし」


 あのフードを被った女の人。

 夏の暑い時期なのに、どうしてかぶっているのだろうか。

 咲菜ちゃんが病院に運ばれたからここに来たんだろうけど、ショートボブの人が軽装なのを見るととても不自然だ。


「和樹、あの人たちを追いかけよう」

「いきなりなんだよ」

「気になるのよ!あの二人が!行くよ!」


 わたしは無理やり和樹を連れ出した。

 二人を追いかけると、彼女たちは北居館駅の改札に入っていった。

 電車はまだ来ていない。

 彼女たちを陰から見張りながら、電車を待つ。

 和樹が耳打ちする。


「確かにあのフードの姉ちゃんは怪しいけど、咲菜事件と関係あんのか?」

「あるわね。あの横顔、咲菜ちゃんに似てるよね」


 あの人は……。

 その時、声がした。


「姫菜。元気出して」

「うん……。ありがとう、このは……」


 ショートボブの人がフードを被った女の人の肩に手を当てて、慰めていた。

 フードの人のすすり泣く声がにわかに聞こえる。


「姫菜って、あの人咲菜ちゃんのお姉さん?」

「みてえだな」


 フードを被った女の人は浅間姫菜さん本人だった。

 そして、ショートボブの人は筑波このはと言った。

 でも姫菜さん、何であんな格好を……。


 電車が来ると、二人は電車に乗り込んだ。

 わたしと和樹も気づかれないように乗り込む。


 電車は居館駅に停車した。

 女の人たちが歩きだす。

 姫菜さんとこのはさんは人目を気にしながら、賑やかな商店街の裏路地を歩いていた。

 裏路地にひと気はほとんどない。

 しばらくして、裏路地から出ると目の前には病院がそびえたっていた。

 七月にも来た居館総合病院だった。


「咲菜ちゃんの容体を確認に来たのかな」

「ちょうどいいじゃんか。オレたちもそのために来たんだからさ」


 女の人たちは病院の中に入っていった。


 病院の中で、看護師に咲菜ちゃんのことを聞いたが、彼女は集中治療室(ICU)で手術中だという。

 ICUの前で咲菜ちゃんのご両親が神様に祈るように手を合わせて、娘の無事を願っていた。

 そしてベンチには楓が床に顔に向けて目を閉じ、祈っていた。


「楓……」


 わたしはその様子を見守るしかできなかった。

 どんよりした空気があたりに流れていた。

 わたしの声に反応したのか、楓は顔を上げた。


「葉月に、花浦君……」

「咲菜ちゃん、様子はどうなの?」


 楓は首を振った。


「まだまだ予断を許されないわ。助かってほしいけど……」


 ICUのランプはただ点灯しているだけ。

 周囲の空気とは違って、無機質に思えた。


 ふと姫菜さんとこのはさんを思い出す。

 あの人たちは病院に入ったはず。

 ここに来るまでにその二人を見かけていなかった。


「ねえ、ここにフードを被った女の人と、髪の短い人来なかった?」


 楓に尋ねてみると、楓はICUの扉を見た。


「来たわ。でも、あそこにいる咲菜ちゃんのご両親を見たらすぐに帰っちゃった」

「帰った?」


 どうして?


「ねえ、それっていつだったの?」

「十分くらい前かな。まだそれだけ経ってないと思うけど」


 今ならまだ間に合うかもしれない。

 わたしは走り出した。


「おい、葉月!走るな、ここ病院だぞ!」

「和樹も来て!」


 病院の外。

 和樹がしきりに声をかけている。


「どうしたんだよ。またあの姉ちゃんを追いかけんのか?」

「そうに決まってるじゃないの。事情を聴くなら今しかチャンスはないわ」


 姫菜さんと筑波さんは病院の敷地外に出ようとしている。

 わたしは声をかけた。


「待ってください!」


 女の人二人は一瞬挙動がおかしくなった。

 びっくりして、わたしと和樹に顔を向ける。


「お見舞いはいいんですか?咲菜ちゃん、お姉さんを待ってると思いますよ!」

「あんたたち何なの?」


 表情が強張って動けない姫菜さんに代わって筑波さんが問いかける。


「わたしたち、咲菜ちゃんの友達です。彼女が首を吊ったって聞いて、病院に来たんですけど。あなたたちもそうなんでしょう?」

「あたしたち忙しいの!止めないでくれる?」


 筑波さんは姫菜さんを振り向かせ、肩を叩いた。


「姫菜。行こう」


 でも、ここで引き下がるわけにはいかない。


「じゃあ、何でこそこそしてるんですか?お見舞いに来て、すぐに逃げるなんて、咲菜ちゃんにひどいじゃないですか」


 わたしは問い詰めるように声を上げた。

 姫菜さんが立ち止まる。


「ごめんね、咲菜……」


 俯いたまま、姫菜さんはつぶやいた。


「姫菜。謝らなくていいって。ここにいちゃ危ないから、行こう」


 まだ何も聞き出せていない。

 だが、二人が怪しげな行動をとっている理由はすぐに判明した。


 病院の敷地内に、警官が二人入ってきたのだ。

 姫菜さんと筑波さんの動きが止まる。


「浅間姫菜。君に用がある。こっちに来てくれないか」

「ど、どうして私が……」

「それはこっちで聞きたい。君を参考人として職務質問を行う。いいね」


 二人は有無を言わさず連行されてしまったのだ。

 わたしたちが声をかける間もなく。



 こんな所に立ち尽くしていても意味がない。

 わたしと和樹は病院に戻った。

 ICUがある階の休憩室で、楓はコーヒーを飲んで休んでいた。

 わたしたちの足音に楓は気づいたようだった。


「葉月、どこ行ってたのよ。いきなり走り出すから」

「ごめんね。ちょっと咲菜ちゃんのお姉さんを追いかけてたんだけど」

「さっき葉月が言ってた人の事?」


 わたしは頷いた。

 あの人たちはどうして咲菜ちゃんを前にしてすぐに帰ろうとしたのか、なぜあれだけ人目を避けていたのか……。

 そして警察に職質を受けることになった理由。

 姫菜さんの妙な服装も気がかりだ。

 多分、人目に気づかれないためだろうけど何か良くないことでもしでかしたのか。

 考えすぎていたのかわからないけど、わたしたちは階段を走り上る音に気づけなかった。


「いてっ!」


 和樹が突如倒れこむ。


「ご、ごめんよ!」


 和樹とぶつかったのは二十歳くらいの男性だった。


「ったく、ここ病院なんだから走るなよ!」

「悪い!ちょっと急ぎの用があってね」


 男の人は休憩室の隣にあるナースステーションで男の人は看護師といろいろ話し合っていた。


「咲菜さんはまだ面会はできません。どうかお引き取りください」

「そうですか……」


 男の人は残念そうに顔を下を向けると、とぼとぼと歩き出した。

 本人には悪いかもしれないが、わたしは前に出た。


「すいません。あなたも咲菜ちゃんに用があったんですか?」

「え?」


 男の人が顔を向ける。


「わたしは咲菜ちゃんの友達です。咲菜ちゃんが学校に来なかったものだから、様子を見に行ったらあんなことになってて……」

「君たちが第一発見者なのかい?」


 わたしたち三人の顔を見て、男の人が言う。

 わたしは首を縦に振る。


「そうか。俺は八島竜士(やしま たつし)。咲菜ちゃんの家庭教師をしてるんだ。今日は二時からだったんだけど、連絡がなくてね」


 アパートに向かったところ、咲菜ちゃんが首を吊って病院に搬送されたということで、急いでここに来たという。


「自殺を図るって、とてもそうには見えないんだけど」


 週に一度、八島さんは咲菜ちゃんの家庭教師として部屋を訪れていた。

 咲菜ちゃんは必ずお茶とお菓子を出していたという。

 先週訪れたときも元気そうだった。


「自殺じゃないですよ。わたしたちはそう見てます」

「え、誰かに襲われたのかい?」


 わたしは頷いた。

 部屋の状況や遺書が偽装されたことから自殺の可能性は低い。

 そもそも誰かを招き入れた形跡があったのだ。


「招き入れたって、誰を」

「それがわからないんですよ。まあ、事件に関しては咲菜ちゃんが目を覚ましたらわかるかもしれないけど」

「その、咲菜ちゃんの容体は?」


 わたしは首を振った。

 ICUの前では咲菜ちゃんのご両親が神様に祈るように、娘の手術の経過を見守っている。


「ヒメは来なかったのかい?」

「ヒメ?誰ですか?」


 思わず“ヒメ”という単語を口走ったのがまずかったのかはわからないが、八島さんは口に手を当てていた。

 だが、すぐに口を開いた。


「姉の姫菜のことだよ。あいつと今付き合っていてね。ここ数日ほとんど見かけないから心配してたんだ」

「同じ大学に通われているんですか?」


 八島さんは首を縦に振った。

 姫菜さんは稲木さんと別れた後、八島さんと交際を始めた。


「でも、妹が襲われたんなら、ここに来てるんだろ?」

「ええ。でも、警察に連れていかれて……」

「ヒメが警察に?」


 八島さんは驚いていた。


「何か、姫菜さんにあったんですか?」

「い、いや。一昨日なんだけど、大学で殺害未遂があったんだ。そんときにヒメがその場から立ち去っていくのを見たやつがいてさ。あいつ疑われてるんだよ」


 それは初耳だった。

 ということは姫菜さんは自分に容疑がかけられているために、身を隠していたのだ。

 あの筑波さんという人は姫菜さん逃走を手助けしているのだろう。


「稲木さんと、姫菜さんは何か面識はあったんですか?」

「ああ。だいぶ前だけど付き合っていたんだ。まあ、大喧嘩して別れたらしいけどね。じゃあ、俺は帰るよ。カテキョーも出来ないんじゃ、今日は暇だなあ……」


 八島さんはエレベーターホールに向かっていった。

 わたしたちも一度病院を出ることにした。

 午後三時を過ぎているが、まだ外は暑い。

 和樹も楓も、自販機で買ったジュースやお茶を飲んでいた。


 敷地外でみんなと別れようとした時、わたしのスマホが鳴った。


「あれ、足利刑事からだ」

「足利って、咲菜事件を担当していた刑事だよな」

「ええ。何かあったら連絡するって言ってたけど」


 わたしは電話に出た。


【あ、千山さん?足利です。ちょっと事件現場まで来てくれないかな】

「ええ、構いませんけど。何かわかったんですか?」

【いいから早く来て!】


 電話は一方的に切れた。


「咲菜ちゃんのアパートに来いって。行ってみようよ」


 和樹は頷いた。

 (Part.3につづく)

pixivで連載している同名小説の転機です。

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