Part.4
脳筋だが知りたがり屋系女子な千山葉月と、頭脳明晰だがちょっと残念系男子な花浦和樹が挑む学園ミステリ。
ある夏の日の事、葉月と和樹は和樹の兄、宗治に連れられて居館市立大学に向かう。それは大学で起きた自殺事件の謎を調べてほしいというものだった。
その日の夕方。
わたしと和樹、そして宗治さんは居館市立大学のカフェ〈ブランチ〉にいた。
病院から出た後、わたしたちは調べ事を済ませ、電話で放送部員と勘介さんを呼んだ。
「葉月、自信満々なんだよな? じゃねえと困るぞ」
待っている間、和樹は大きな欠伸をした。
「もちろん。何度も聞きなおして、原稿も読んだんだから間違いないわ」
そして、わたしは堀川部長に顔を向けた。
「部長さん、協力ありがとうございます」
「ああ。解決に繋がれば何よりだ」
証拠もあるし、収集した情報を繋ぐ糸はつながった。
自殺の真相。
部内の人間関係が、上野さんを取り巻く環境を見えにくくしていたが、わたしの推理が正しければこれはちょっとしたことが起こした悲劇だ。
ガラガラガラとカフェの戸が開いた。
「ついに自殺の原因がわかったのか」
戸口の先に呼び出した四人がいた。
勘介さんの発言に姫宮さんと穴倉さんは驚いていた。
「原因って、紗代の自殺事件の事? 花浦君たち、嗅ぎまわってたの?」
わたしは場を制した。
「ちょっと待って。姫宮さんたちに本当のことを隠していたことは謝ります。でも、どうしても話しておきたいことなんです。それが、わたしたちの役割ですから」
一度目を閉じて、気持ちを落ち着けた後わたしは口を開いた。
「上野さんの自殺事件の真相、それをこれから話します」
まずは上野さんと中西さんの関係。
この二人が付き合っていて、部内公認だったらしい。
しかし、調べてみると二人とも互いの仲のこととなると熱くなっていて、しばしばほかの部員と揉めていた。
一方で二人とも相互に素直で、何はばかることなく接していたという。
それだけ二人は特別な関係だった。
恋愛関係なのは間違いないが、それでいて固い絆で結ばれていたのだろう。
しかし、固すぎる絆は時に火種を生むことがある。
「このことは皆さんからの情報です。ただ、ちょっとしたことが中西さんと上野さんを追い詰めてしまった」
「ちょっとしたことってなんだよ」
勘介さんが尋ねる。
「わたしはあの放送が気になって、部長さんの協力で調べていました」
「あの放送って……」
「勘介さん、あなたが出演した番組のことです」
病院から出た後、わたしたちは居館市立大学に戻っていた。
放送室の奥にある倉庫を調べるためだ。
堀川部長に鍵を開けてもらった後、倉庫に保管されてあるCDから勘介さんが出演していたラジオ番組を取り出して、聞き流していた。
そこで、決定的な証拠を見つけたのだ。
「あの放送が自殺の原因を作った。わたしはそう見ています」
「じゃあ、竜野君が紗代を! ?」
姫宮さんが声を上げて、勘介さんに指をさす。
「ち、ちげーよ! 何で番組に出ただけで俺が犯人なんだよ!」
「だって、あなたあの時紗代のこと言ってたじゃない! 中西君もその場にいたし……」
「でも、上野はいなかったじゃねーか!」
勘介さんと姫宮さんが言い争い始めた。
わたしは声を上げた。
「ちょっと待ってください! まだ話は終わっていませんよ!」
わたしは再び推理結果を話し始めた。
「大事なのはこの時誰がどういう立場だったか、ということです」
竜野さんはゲストとして招かれ、パーソナリティは穴倉さん。
堀川部長と姫宮さんはそれぞれディレクター、アシスタントを担当していた。
「この時の放送の内容を立案したのって堀川部長でしたよね?」
「ああ。だけど、ライブ特集を持ち出したのは穴倉だった」
一瞬、戸口に立っていた金髪の女性の顔が強張った。
「穴倉さん、上野さんが自殺を図ったときに一緒にいたのってあなたでしたよね」
その言葉に、周囲は驚きを隠せなかった。
穴倉はゆっくりと口を開いた。
「そ、それが何よ……。紗代は偶然自殺したのよ。第一、それとあたしがライブ特集を提案したことと何が関係あるのよ!」
「なんで上野さんは穴倉さんと一緒にいるときに自殺を図ったの? 自殺するならひと気のないところ選ぶんじゃないの?」
穴倉の体が硬直している。
しかし、すぐに不敵にほほ笑んだ。
「き、きっと止めてほしかったのよ。相当気を病んでいたけど、死にたくはない。人間、生きていたいって願望があるからね」
「そうじゃない。遺書の内容を覚えているでしょう?」
放送部に味方がいない。
あの遺書は上野さんが中西さん以外は全員敵のように見えているのだ。
「なぜ穴倉さんの前で自殺を図ったか。それはあなたに対する見せしめ」
遺書の内容、そして嫌がらせを受けた仕打ちから友達だと思っていた穴倉に裏切られ、上野さんは穴倉を恨んでいたのだ。
「そこまで言うのならどうやって嫌がらせしたのよ! あと、あたしが犯人だっていうなら、その動機は?」
その見当もついている。
しかし、その前に共犯者をはっきりさせる必要がある。
「じゃあ話しますよ。でも、犯人はあなただけじゃない。嫌がらせには協力者がいたんです」
「協力者ですって……」
和樹がそっと耳打ちしてくる。
「二人いるのか」
「ええ。あの放送の原稿、そして放送の内容から見て一人で追い詰めるなんて無理よ。協力者がいないとあんな周到な嫌がらせなんてできないわ」
嫌がらせは人間関係を利用した周到なものだった。
「穴倉さんとその協力者は上野さんを追い込み、さらに中西さんも追い詰めることを企てたの」
「ちょっと、まさかそいつらは中西が引きこもることまで計算していたのかよ」
勘介さんが驚いた様子で言う。
「引きこもるかどうかはわかりませんけど、精神的に追い詰めたかったんでしょうね」
わたしはそのまま話を続けた。
「勘介さん、あなたは上野さんのことが好きだった。あの放送を持ち掛けたのは穴倉さんでしたよね」
「おい、葉月。まさか……」
和樹がわたしの肩をつついた。
「そう。勘介さんは利用されたの。上野さんが好きだということを利用して、中西さんを動揺させるためにね」
勘介さんも、堀川部長も、和樹も、宗治さんも開いた口がふさがらなかった。
「穴倉さんには直接中西さんを恨む理由はありません。でも、中西さんを振り向かせたい人物ならいる」
「誰だよ、それ」
和樹の声が隣から入ってくる。
わたしの視線の先には、長い黒髪の女の人。
「姫宮詩織さん。あなたです」
姫宮は目を隠して、下を向いていた。
「あなたが協力者であり、穴倉さんとともに上野さんを追い詰めた犯人」
「どうして……」
姫宮は顔を上げた。
「どうしてそう言えるのよ。私は紗代のお見舞いに行っていたのよ。麻利亜ちゃんも一緒にいた。そもそもあなたは大事なことを忘れてるわ。私と麻利亜ちゃんは紗代と親密だったのよ!」
「そうかもしれないですね。でも、上野さんの弱点を知っていたのも事実ですよね」
弱点……。
中西さんのこととなると上野さんは熱くなる。
姫宮は中西さんのことが好きだったが、上野さんとの雰囲気を見て近づけなかった。
そこで、こっそりと二人の間に入ることを持ち掛けたが、上野さんに激怒され失敗した。
「少なからずあなたは上野さんが邪魔だと思った。そんななか上野さんのことをよく思っていなかった穴倉さんと手を組んで、嫌がらせを実行した」
姫宮は何も言わなかった。
その代わり、穴倉が前に出た。
「千山さん、あなたあたしの動機には答えていないわよね。なぜあたしが紗代さんをよく思わないの?」
「それは嫉妬。でも、もともとあなたの目の前で上野さんが自殺を図ったことが気になっていたのよ」
穴倉が上野に対して嫉妬心を持っていたんじゃないか、それはただの推測でしかなった。
証拠が見つかり、それがはっきりした。
「じゃあ証拠を見せてちょうだい」
「わかりました。ちょうどCDを拝借してわたしのスマホに取り込んだので、それで聞いてみましょう」
問題の日の放送。
この日、中西さんが激怒し、みんなで何とか事を収めた事件があった。
『IDATELive』は生放送だ。
再放送される場合は編集することもあるが、収録した番組はそのまま残っていた。
つまり、あの口論も残っている可能性があったのだ。
しかし、収録スタジオは外部の音が入ってこないようにガラスや壁で遮蔽されている。
だから仮に入っていたとしても小さな声しか聞こえない。
慎重に、注意深く聞き流した。
わたしのスマホに入れてある問題のシーンは、堀川部長の協力を得て編集したものだ。
スマホの音楽再生アプリの画面を指でタップした。
そして、スマホに表示されている再生時間の所を拡大した。
「普段この放送は2時間と決まっています。でも、この録音されてるCDは10分ほど長い」
「どういうことよ。前置きはいいから、早く流して」
姫宮が声を上げる。
問題の箇所まで、シークバーをいじって飛ばす。
そして、穴倉が勘介さんに質問をするシーンになった。
穴倉【そうですか、では少しお伺いしたいことがあるんですが】
竜野【なんすかぁ?】
穴倉【竜野さんは現在、誰かとお付き合いしていると噂されていますが、どんな方がお好みですか?】
竜野【そんな噂があったんですか! 俺も有名になったなあ(笑)】
ここで数秒ほど空白が流れる。
ラジオ放送ならあってはならないことだ(堀川部長談)。勘介さんは悩んでいたのだろう。
一度わたしはここで再生を止めた。
「ここから問題の発言を流します」
問題の箇所は音声を抜き取って、編集してある。
そのシーンを流す。
中西【おい、誰だよ! こんな質問考えたの! 竜野はもう諦めたって言ってたろ】
姫宮【誰も紗代のことを言ってるわけじゃないじゃない! 落ち着いて!】
姫宮に続き、堀川部長も止めに入る。
堀川【中西、放送中なんだぞ! 頭を冷やせ!】
少しして、トラブルは収まった。
放送部員たちは胸をなでおろしたようだ。
そしてCMに入った。だが、再生は続いている。
姫宮【よかった……。紗代がいなくって】
穴倉【そうですよ……。ま、いた方がよかったんだけど】
姫宮【ちょっと、麻利亜ちゃん!】
わたしは再生を止めた。
「穴倉さん。わたしはさっきの一言で確信したんです」
―――いた方がよかった。
「何であんな状況で言えるんですか?」
「そ、それは……」
答えられない穴倉にさらに畳みかける。
「嫉妬してるかどうかは別としても、あなたが上野さんを快く思っていなかったのは事実ですよね。そう考えると上野さんがあなたの目の前で自殺を図った理由も納得がいくんです」
上野さんはその放送にはいなかったが、大学には来ていたと聞く。
とすれば、この放送を聞いていた可能性がある。
「負けだわ。千山さん……」
穴倉は肩を落とした。
目を隠して、床を見ている。
「麻利亜ちゃん!」
「もういいの、詩織。ここまで言われちゃ、反論のしようがないわ」
穴倉麻利亜は顔を上げた。
「確かに嫉妬心はあったわ。紗代は憧れでもあり、ライバルだった」
「お前ら、仲良かったんだろ? いったい何があったんだよ」
堀川部長がしゃがみ込んで、穴倉に顔を合わせた。
「もう隠しようもないし、全部話します」
(Part.5に続く)
次回、シリーズ最終話です。




