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ふたりの探検記  作者: ヒロ法師
No.4 学内放送の悲劇
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Part.1

脳筋だが知りたがり屋系女子な千山葉月と、頭脳明晰だがちょっと残念系男子な花浦和樹が挑む学園ミステリ。


ある夏の日の事、葉月と和樹は和樹の兄、宗治に連れられて居館市立大学に向かう。それは大学で起きた自殺事件の謎を調べてほしいというものだった。

 六月下旬の木曜日。

 ここは居館(いだて)市立大学。

 ある晴れた日の夕方のことだった。

 経済学部二年、中西直哉(なかにしなおや)は経済政策の講義が終わったのでテキストやノートを鞄に入れて、講義堂から出ようとしていた。

 その時、学内放送が流れた。


【経済学部二年、中西直哉さん。至急放送室に来てください】


 中西は急いで放送室に向かった。

 放送室の前には人だかりができていて、騒然としていた。


「何があったんだ?」

「あ、中西先輩来られたんですね! 大変なんですよ! 上野さんが!」


 同じ放送部に所属する女子学生が叫んでいる。

 人混みをかき分けて、中西は放送室に入った。

 そこには……。


「嘘だろ……」


 夕暮れに照らされ、髪の長い女子学生が窓際で首を吊っていた。


「紗代……」


 上野紗代の体は温かかったが、息をしていなかった。


 七月下旬の土曜日。

 わたしと和樹は宗治さんと一緒に居館市立大学を訪れていた。

 居館市立大は居館(いだて)市の南側にある大学で、市の内外はもちろん県外からも多く学生が通っている。

 わたしたちは高校生で本来なら勝手には入れないのだが、宗治さんを通じてキャンパスに入る許可をもらっていた。


 なぜわたしたちが大学を訪れたのか。それには理由があった。

 三日前、宗治さんが友人から相談を受けたという。


「一ヶ月前なんだけど、うちの大学で自殺未遂があったんだ。放送部の部員だった」


 上野紗代(うえのさよ)という学生が首つり自殺を図った。幸い、発見が早くて死には至らなかったのだが、現在も意識不明の状態が続いているという。


「発見者の一人が上野と付き合っていて、そいつの友人が俺に相談をしてきたんだ」

「宗治さん、その自殺の真相を突き止めてほしいって頼まれたんですか?」


 宗治さんは頷いた。


「結論から言うとそうだ」

「でも兄貴、そんな事件があったんなら警察が調べてるんじゃないのか?」


 和樹の言葉に宗治さんは首を振った。


「確かに捜査はあったんだけど、警察は事件性がないって見てるんだ。詳しいことは上野の意識が回復してから聞くらしいけど、意識が戻る見込みがなくてな……」


 当初警察は事件と自殺の両面から捜査していたというが、事件性を示す証拠が何も出てこなかったらしい。

 放送室の現場もどう見ても自殺としか思えなかった。

 また、放送室には遺書も残されていた。


 ―――もう誰も助けてくれない。私に味方なんかいない。ごめんね、なおちゃん……。


 その遺書は恋人である中西に宛てられたものだった。

 上野さんがどのようなトラブルに巻き込まれていたのかは、はっきりとわかっていないが相当気を病んでいたことに間違いはなかった。


「それで実質警察は捜査を打ち切ってるんだ。交際していた彼氏はショックで引きこもってしまって、自殺未遂のあとも大学に来てないんだよ」


 大切な人が自殺を図り、意識が戻らないのだ。

 相当ショックを受けたのだろう。


「その恋人は上野はとても自殺するような奴じゃないって言ってるんだ。元気で明るいし、気を病んでいる様子もなかったって」


 それを見かねた友人が宗治さんに相談を持ち掛けたのだ。


「自殺なら、何が上野を自殺にまで追い込んだのか調べてくれってのが今回の話なんだけどな」


 とりあえず、状況はわかったのだがなぜわたしと和樹なのか……。

 宗治さんはずれた眼鏡を少し上げた。


「そりゃ千山。お前の推理力に期待してるからだよ」


 キャンパス事務局前。


「お、花浦! よく来た!」

「竜野、助っ人を連れてきたぜ」


 竜野と呼ばれた男の人は茶色に髪を染め、ドクロがプリントされた黒シャツに青いジーンズを履いている。


「紹介するよ。こいつは友人の竜野勘介(たつのかんすけ)。自殺未遂を図った上野の彼氏の親友でもあるんだ」

「あんたらが花浦の言ってた頭の切れる女子高生探偵と、花浦の弟坊主だな。よろしく」


 “女子高生探偵”といわれ、わたしは頭を掻いた。

 そして宗治さんに耳打ちする。


「わたしが探偵って、どういうことですか」

「さっきも言ったろ。お前の推理力に期待してるって」


 そういって宗治さんは和樹に同意を求めた。


「ああ。運動神経以外だと、葉月の唯一の取り柄だからな!」


 そんなこと言わないでよ……。

 ただの知りたがり屋の延長じゃないの……。

 あと和樹、あんたは一言余計だ。

 わたしは思わずため息をついた。


「ん? キミ、まさか機嫌悪くした?」


 竜野さんがわたしに気をかけているようだった。


「い、いや。そんなことないです。すいません」


 気を取り直して自己紹介する。


「わたしは千山葉月って言います。宗治さんにいつもお世話になってます。それで、こいつが幼なじみで、宗治さんの弟の和樹です」

「オレ和樹です。何なりと協力します」


 竜野さんは笑った。


「いやいや。別に敬語とか使わなくていいって。もっとフランクで接してくれればいいさ。その方が調べやすいと思うからさ」


 勘介さん(名前で呼んでくれと本人の希望で)は楽天的な性格で、軽音楽部に入っていた。

 その性格からか、バンドで作る曲も楽しい雰囲気の曲が多いという。


「とりあえず〈ブランチ〉に来てくれよ。今日、講義はないけど、一応やってるからさ。事件の詳しいことはそこで話すよ」


 わたしたちはカフェ〈ブランチ〉に移動した。

 今日は土曜日で、講義はなかったが休日でも活動する部活があるため、カフェはやっていた。

 しかし、休日であるためかお昼時でも人はまばらだった。

 とりあえず適当な食べ物を注文する。

 勘介さんが水を持ってきた。


「それで、竜野。最近、中西の様子はどうだ?」


 話を切り出したのは宗治さんだ。


「全然だめ。メールにも、SENNにも反応してくれないよ。アパートに行ってもすぐ帰れの一点張りだし」


 恋人があんなことになって放心状態なのだという。

 上野さんの交際相手の名前は中西直也 (なかにしなおや)さん。

 経済学部の二年生で、宗治さんや勘介さんと同級生だった。

 勘介さんは中西さんの気の知れた親友でもあった。


 勘介さんは事件の詳細を話してくれた。


 六月下旬の夕方。

 学内放送で呼び出された中西さんは首を吊った上野さんを発見した。

 幸い首を吊ってからさほど時間がたっておらず、応急処置が適切だったこともあって一命をとりとめたのだが、意識は今も戻っていない。


「第一発見者は同じ放送部の穴倉麻利亜(あなくらまりあ)っていうハーフの子だ。上野と一緒にラジオ収録の準備をしてたんだけど、穴倉が所用で目を離したすきに上野が首を吊ったんだ」

「でも、何でそんな時に……」


 宗治さんから聞いたことがあるが、自殺する人は普通人気のないところを選ぶのだという。

 放送室で、ほかの人がいるのだからすぐに見つかる可能性がある。

 勘介さんは両手を上げて首を傾げた。


「わかんね。放送部内部のことだし、オレ軽音部だからさ。ま、あいつらの番組に出たことがあるんだけど」

「番組って?」

「放送部は学内放送でラジオ放送をやってるんだ」


 週に3度、夕方4時半から6時半にかけて、放送部は「IDATELive(イダテライブ)」というラジオ番組を放送していた。

 部員がパーソナリティとなってリスナーから音楽リスクエストを募ったり、大学での部活やイベント紹介、さらには学内外からゲストを呼んでトークをしたりと幅広くやっていた。

 放送日は火曜、木曜、金曜で上野さんは木曜担当だったが、彼女が入院してからは別の部員が担当していた。


「俺はバンドの特集で呼ばれたんだ。ま、上野が担当している日に出たことはないんだけどさ」

「上野さんがどんな人だったか、教えてくれませんか?」

「ふーん……」


 勘介さんは首を傾げた。


「まあ、学内のアイドルだったってとこかな。ま、俺はあんまり好みじゃねーけど」


 そう言って勘介さんは回転椅子にもたれながら、外に体を向けた。

 好みじゃないって……。


「まあお前そういうの興味ないもんな。でも上野に少なからず気を寄せていただろ」

「うっせえ!」


 宗治さんが軽くからかった。

 勘助さんの顔が赤くなっているのが少し見えた。


「じゃあ、宗治さん。どんな人だったんですか?」

「竜野が言ったようにのアイドルさ。多分、和樹だったら気に入ったらすぐにグッズとか買うだろうぜ?」


 和樹はむっとしていた。


「兄貴……!」


 宗治さんによると上野さんは顔かたち整った長い黒髪の美女で、性格も明るく社交的だった。その容姿と性格から学内では彼女のファンが多く、芸能界からもスカウトがしばしばあったという。


「やっぱり上野さんが担当してた番組も……」

「そりゃもう。一部の学生はこのためだけに講義とか、部活をさぼるやつもいるくらいだぜ?」


 和樹だったらたぶん張り付くだろう。

 ここからはわたしの勝手な妄想だけど、彼女がもし芸能界入りしてそのフィギュアが発売したら絶対買うに違いない(現に和樹の部屋にはアイドルや二次元キャラのフィギュアが大量に飾ってある)。


「それで、今現在は……」

「言うまでもなく、活気はなくなったよ。まあ、今までが異常だっただけだけど」


 そしてわたしはある提案をした。


「一度放送室を見せてほしいんですけど、なんとかお願いできませんかね」


 勘介さんが体をこっちに向けた。


「放送部員に頼むしかないな。部長はこの大学の近くのアパートに住んでるから、行ってみたらどうだ? あんたらが行くことなら、俺が伝えておくからさ」


 竜野さんは放送部の部長と仲がいいらしい。

 というのも、彼が放送部の番組にゲスト出演できているのは部長のコネがあったからでもあったという。


「竜野はどうするんだ?」

「オレはこれから練習だし、昼飯を食ったら中西の家に行ってみるよ」

 (Part.2につづく)

半年ぶりの投稿です。

取り敢えず、前半のお話を掲載します。

本編はpixivにて連載中。

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