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ふたりの探検記  作者: ヒロ法師
No.1 消えたタイムカプセル
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Part.1

居館高校に通う女子高生、千山葉月は幼馴染の花浦和樹とともに兄宗治の中学時代の同窓会の準備に参加する。5年ぶりにタイムカプセルが開封されるということで、皆それぞれ想いを膨らませていた。ところが、埋められているはずのタイムカプセルが無くなっていた。開封までに葉月たちはタイムカプセルを見つけ出すことができるのか。

 

 ジリリリリ! !


 目覚まし時計がけたたましく鳴る。

 わたしはアラームのスイッチを強く押した。

 重い瞼をこする。目を開け、うつろな目で窓を開ける。朝の陽ざしがわたしの眠っていた目を刺激する。


 周囲は桜が咲き誇っている。四月の朝。二年生になってまだ間もない春の日のことだ。


 パジャマから制服に着替え、台所に降りる。お母さんが前日に買ってきてくれたコンビニのおにぎりとお茶。そしてお惣菜。

 そして、お母さんの書置き。


 わたしの名前は千山葉月ちやま はづき。高校二年生である。

 今朝からお父さんもお母さんも仕事。

 お父さんは有名な小説家で、お母さんは出版社に勤務しているがふたりとも仕事が多忙で、なかなか家に帰ってこられない。しかも、片親が単身赴任でしばらく帰ってこられないこともざらだった。


 リュックを背負って家族三人が映った写真に「行ってきます」と声をかける。

 肉声で「行ってらっしゃい」と返されたことは多分、数えるほどしかない。


 居舘高校は家から電車と徒歩で三十分ほど。

 七時四十分、北居舘駅発の電車に乗り込み満員電車の中から座れそうな席を探す。


「おはよっ! 葉月!」


 肩を誰かに叩かれた。

 振り向くと、栗色髪のツインテールの居舘高校の制服を来た女の子がにっこり微笑んで立っている。


「梨花、おはよ」


 八瀬川梨花やせがわ りか。同じクラスの女子生徒で新聞部に所属する新聞記者だ。

 イケメン好き、噂好きの“恋する乙女”的な人物である。


「今日進級試験の結果出るよね。うまくいったかなあ……」


 わたしはドキッとした。心臓は止まらないけど、呼吸は止まりかけた。


「何時限目だっけ?まだ心の準備ができてないわ」

「ははーん。やっぱり難しかったからねえ」


 梨花はいたずらをした子供のように無邪気に笑っていた。


「今のうちに神様にお祈りを……」

「楓ちゃんの神社に行っておけばよかったね」


 同意。

 まあ、昨日は楓と遊んでたけど、居舘駅前の映画館で『エンフォース・レイ』を観てたんだっけ……?テスト返却なんて、忘却の彼方だ。


 頭の中で必死にお祈りしながら電車を降りる。


「それじゃああたし、取材の準備があるから先に行くね」

「今から?サッカー部の朝練目当て?」

「どーでもいいでしょ、そんなこと!」


 梨花は手を振ると、飛び跳ねるように学校へ続く道に繰り出していった。


 居舘高校は居舘駅のすぐ近くにある。

 校門をくぐって校舎に向かう。

 グラウンドでサッカー部や野球部が朝練習に精を出している。春季大会が近いこともあって、レギュラーメンバーを中心に練習しているようだ。


「葉月、おはよう!」


 玄関前で誰かに声を掛けられ、振り向く。

 長く艶のある黒髪に赤いカチューシャが特徴的な女の子。

 友人の雪城楓だった。


「おはよう! やっぱりテストが気になる……」

「今日返却日だったね。でも葉月なら大丈夫よ!」

「だといいけど……。あいつにみっちり教え込まれたから」


 春休みに幼なじみとそのお兄さんから「補習」を受けていた。正直言うとわたしは勉強が大の苦手だ。

 今回のテストの結果もまずいに決まっている。

 だって、何が何だかわからないんだもん! !


「そういえば昨日、花浦君に呼ばれたの。今朝屋上に来てほしいって。なんだろ」

「きっとろくなことないって。まあ、誘われたりしたら流しちゃえば?」

「ふふ。そんなまさか」


 教室前で楓と別れた。

 運命の時間は、嫌でも迫っていた。

 テスト返却はその日の二限目だった。そして休み時間。


「うっそー ! マジぃ ! ?」

「何であと一点足りなかったんだろう……」


 教室ではクラスメートたちが厚紙を広げていろいろ語り合っている。

 わたしは自分の机に座り、恐るおそるそれを広げた。


 広げた中身が目に飛び込んでくる前に、後ろから来た声にはっとした。


「葉月、お前また点が足りなかったのかよ!」


 その声はクラスメートの一人、花浦和樹(はなうらかずき)だ。

 小学校以来の幼馴染で、よく遊んだり、よく喋ったりした仲だ。

 薄い茶色の髪が印象的だが、これは染めたものではなく地毛らしい。


 わたしやクラスメートが見ていた厚紙は成績表。

 厚紙の上に記載されている内容がわたしの目に映る。


 確かに、進級に必要な点まであと十点足りない……。


「仮進だな」


 和樹はにやにや笑っている。

 悔しかったので言い返した。


「あんたに言われたくない」


 相変わらず和樹はにやついている。

 わたしはその表情を見ていられなかった。悔しいから、というのもあるが半ば呆れていたこともあった。

 和樹は、根っこは嫌な奴じゃない。わたしとの付き合いが長いから、あえて冷かしているだけだ。


 だが和樹はクラスで一、二を争う成績の持ち主。

 なんでこんな奴と幼馴染になってしまったんだろう……。


「おまえみたいな脳筋と一緒にするな」

「あんたこそ未だに自分の部屋で寝られないくせに……!」


 わたしと和樹の間に火花が散った。

 わたしたちは気付いていないが、その様子はクラスメートの注目の的だったらしい。


 わたしの名前は千山葉月(ちやまはづき)

 居館高校の二年生だ。


 居館高校では年度末の試験で一定の点数に届かないと、「仮進級」というものになる。

「仮進」の生徒は翌年度の五月に行われる試験に合格してはじめて正式に「進級」となる。

 毎年一定数いるらしく、合格できないと最悪退学処分になることもある。


 今日は昼から部活動がある。

 わたしは陸上部に所属している。

 自分で言うのもあれだが、わたしは小学生のころから陸上、特に走ることが大好きで市の大会、県の大会などで優勝するなど好成績を上げていた。

 スポーツも大好きで、体育の成績はかなりいい。


 部活が終わったのは夕方。

 わたしは部室で着替えると、リュックを背負って校門に向かった。

 校門を出ようとした時だ。


「よう! 葉月!」


 誰かに肩を叩かれた。

 見るとそこにいたのは自転車に乗った和樹だった。


「仮進試験の勉強、オレがみっちり教えてやるよ」

「うっさい。それよりあんたのその心をどうにかしなさいよ」

「よく言うぜ。脳筋」


 脳筋って、あんたねえ……。

 わたしは運動神経はいいけど、学業はまるでダメだった。

 こいつはそれを逆手に取っているのだ。

 わたしはとりあえず気持ちを落ち着けると、こいつと楓を頭に浮かべる。


「そういえばあんた楓を呼んだそうじゃない。ねえ、コクったんでしょ。そしてフラれた」

「なんで知ってんだよ」

「今朝楓があんたに呼ばれたって言ってたの。そしてあの子の性格とあんたが楓を好きなことから考えた、簡単な推理」

「く、こいつ……」


 楓はわたしや和樹と別クラスだが大人しく控え目で、男子に人気がある。

 だけど、彼女は男子からの数あるお誘いをことごとく断っていた。


「はあ……。なんでこいつ脳筋なのに頭の回転は速いんだよ」

「さあ?なんででしょうね?」


 わたしと和樹は幹線道路に続く坂道を下っていく。

 桜の花が満開になり、花弁がひらひらと舞い落ちる。


「そういやさ、葉月は明日部活なかったよな。明日居館中に来ねえか?」

「居館中学ってわたしたちの母校だよね。同窓会か何かあるの?」

「そうそう。兄貴のだけど」


 和樹によれば彼の兄さんの中学時代のクラスメートの有志が集まって同窓会をするのだという。

 明日、居館中学を貸し切って記念パーティをする。そして最後にタイムカプセルを開封するのだという。

 始まるのは明日の午前九時からだ。


「オレも手伝うのに駆り出されてさ。人手不足で大変なんだ」

「あんたお兄さん大好きだからね」

「それは余計だっつーの! お前だって兄貴を頼りにしてるじゃんか」


 また妙に張り合った。

 しかし、すぐに緊張は解けた。

 思わずわたしたちは笑った。


「わかった。わたしも暇だし、手伝う!」

「サンキュ。じゃあな」


 和樹は自転車に乗って校門を出て行った。

 わたしも学校から一番近い居館駅に歩いて行った。


 その日の夜。


「で、成績はいつものように散々だったと」

「は、はい……」


 わたしは目を背けていた。

 隣では家庭教師が成績表を目を凝らして眺めている。


「親にはまだ見せてないんだけど……」

「でも見せておくんだよ。ぶっちゃけ今の成績だと進級が危ういぞ」


 マジで……。


 ここはわたしの家のリビング。

 わたしの家は居館市の北部にある住宅街に建っていた。


 今日、両親は仕事で遅い。


 わたしは家庭教師である花浦宗治(はなうらそうじ)さんと一緒に成績について話し合っていた。

 彼は和樹の兄であり、居館市立大学に通う大学二年生だ。


 試験の見直しは来週行うことになった。

 休憩中、わたしは冷蔵庫に残っていたお茶を出した。

 これくらいしか出せるものがなかったけど、宗治さんは快く受け入れてくれた。


「そういえば明日の中学の同窓会、宗治さんも出るんですよね」

「ああ。でもなんで知ってるんだ?和樹から聞いたのか?」


 わたしは頷いた。


「あいつに誘われて……」


 タイムカプセルの思い出……。

 卒業式のその日にタイムカプセルを埋めた。

 五年後に開けることにして。


 幼馴染の和樹は宗治さんの卒業式に参加し、タイムカプセルに埋めたところにも立ち会っていた。

 だが、宗治さんが何を埋めたかはわからないらしい。

 和樹はそれが気になっていたようだ。

 まあ、何を埋めたかはわたしも気になるが。

 ちょっと聞いてみる。


 だが宗治さんは笑った。


「それは教えられないな。中身を空けるまでのお楽しみだからさ」


 なんか歯がゆくなった。

 わたしは知りたいことは徹底的に知りたいタチだ。

 つまり好奇心が旺盛ってやつだ。

 だがそれなら何で成績悪いのか不思議でならない、と家族や知り合いは言っている。

 わたしも正直言うとわからない。


「明日はわたしも和樹と一緒に手伝いに行くんで、よろしくお願いします」

「それはどうも」



 翌日。午前六時半。

 わたしは喫茶店に行くため、北居館駅から電車に乗った。

 登下校はいつも電車を使っている。

 居館はそれなりに人口が多く公共の交通も整備されている。

 そのため、電車やバスを使って通勤通学をする人が多い。

 ただ、朝晩は利用客が特に多くそれを嫌って徒歩や自転車で行く人もいた。



 喫茶〈とけいや〉。

 居館駅の隣にある、もともと時計を売っていた喫茶店で、市内に住む人たちの憩いの場となっている。

 大きな駅のそばにあるために学生や通勤客の利用が多く、わたしや和樹もよく立ち寄っている。

 昨日宗治さんから聞いたが、事前の打ち合わせをこの喫茶店でやっていた。


 同窓会が始まるのは午前九時だが、もう準備は始まっていた。

 しかし、喫茶店から騒がしい音や声が。


 気になってわたしは喫茶店の扉を開けた。

 その時、わたしと同い年の少年が扉の向こうから出てきた。

 少年は息を切らせている。


「葉月! 大変だ!」


 立っていたのは和樹だった。


「あんた、先に来てたんだ。お兄さんと一緒なの?」

「世間話をしてる暇じゃねーよ! タイムカプセルがないんだ!」


 なんですって?


「とりあえず、来てくれ!」


 わたしと和樹は喫茶店の中に入った。

 いつもは静かな喫茶店だが、今日は騒がしかった。

 マスターがいるカウンターに何人か集まっている。


 集まっているのは見知らぬ人たちが数人。

 マスターと話し合っているようだ。

 だがその中には……。


「千山、お前も来てたのか」


 なんと、家庭教師の宗治さんがいた。


 確かOB・OG代表は二名と伝えられていた。

 それぞれ男性一名、女性一名。


「あれ、宗治さんってOB代表だったんですか?」

「まあな。お前察しがいいな」


 そして宗治さんは腕を組んだ。


「気付きがいいならそれをもっと学業に向けてくれよ」

「それとこれとは別なんだよ、兄貴」


 和樹が宗治さんに便乗している。


「はいはい。あんたは一言多いのよ」

「葉月、お前も同類だろ」

「あんたと一緒にされたくないわ」


 漫画風に表現するなら、今わたしと和樹の間には電光が走っている。

 いつもの張り合いである。

 隣では宗治さんが両手を広げて呆れかえっていた。


 そのとき、OGの代表とみられる二十歳過ぎの女の人がわたしたちに気が付いた。

 栗色セミロングの顔形が整った知的な女性だった。


「あら、あなたたちって花浦君のお知り合いなの?」

「え、ええ」


 いきなり声を掛けられ、わたしは驚いた。

 状況を理解してくれた宗治さんが彼女を紹介してくれた。


「彼女は飯田薫(いいだかおる)。俺らのクラスOG代表だ。飯田はすごく成績が良くて、美人の才色兼備で『居館中のマドンナ』っていわれてたんだ」

「よしてよ。もう五年も前の話だし、あなたにいつも負けてたんだから」


 才色兼備か……。わたしには遠い話だ。

 後ろでは和樹がにやついていたが、彼が惚れるのも無理はないだろう。

 しかし、タイムカプセルが掘り返されたとなると同窓会に支障が出る。


「タイムカプセルっていつ掘り返されたんですか?」

「今朝早くだと思う」


 宗治さんは朝早くに居館中学の裏に行っていた。

 掘られた痕跡はかなり新しかった。


「スコップを使って掘り起こしたんだな」


 タイムカプセルは壺に蓋を被せてあったらしい。

 壺は茶色で大きさは一メートルくらい。


「兄貴、同窓会どうするんだよ」

「どうするもこうするも、みんなで手分けして探すしかないな」


 和樹と宗治さんの視線がわたしに向けられた。


「千山、お前にも手伝ってほしいんだ」

「わかりました。力になるかわからないけど……」


 すると和樹はわたしの肩をたたく。


「むしろここがおまえの出番だろ。行こうぜ」

「和樹……」


(Part.2につづく)


©️ヒロ法師・いろは日誌2016

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